都市の爾今(じこん) 【SDGs 住みよいまちづくり】

   今、東南アジアの不動産が熱い。REIT(リート:不動産投資信託)の市場が世界的に低迷している中、東南アジアの市場は急速に拡がり、市場規模は10兆円に迫っている。

   REITとは、信託会社などの投資者からの資金を運用管理する会社が、投資家から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買益を原資として投資者に配当する商品のことだ(参照:三井住友トラスト・アセットマネジメントHP)。投資者は、REITを通じて間接的に様々な不動産のオーナーになり、不動産のプロによる運用の成果を享受することができるため、不動産の知識がない人でも気軽に投資ができる。また、手軽に始められ税金面でも優遇されている株式投資のNISA、今では個人投資としても人気の高いFX(外国為替証拠金取引)、ひいてはハイリスク・ハイリターンの商品先物取引に比べると、REITは比較的安定したリターンを得やすい。株や為替は企業や国の動向で乱高下するし、商品先物は天候や消費動向にも大きく左右されるため、リターンはいわば未知数であるが、REITの投資先は主に不動産賃貸収入を得ている会社なので、リターンが大きく変動することは少ないのである。JAPAN-REIT(不動産投資信託ポータル)が発表している分配金利回り一覧でも、数多い投資信託会社の平均的な年利回りは6%を超えているほどだ。

   東南アジアへの不動産投資がヒートアップしている背景は、不動産物価が先進国と比較しても安く、経済新興国であるカンボジア、ベトナム、フィリピン、マレーシア、タイ、ミャンマーなどが経済特区やインダストリアル・ゾーン(工業地帯)などを急ピッチで進めて外資を招致していることから、今後の地価や不動産の高騰が期待されているからだと思う。5年前くらいまでは大都市といえども、電力・水道などのインフラが不十分であったが、今では高速道路や鉄道などの整備が進み、物流の高度化が進行中である。また、中国のように東南アジア諸国も今や主要都市へ労働者が集中し、アパートやマンションなどの需要にも拍車がかかっている。

   しかしながら、2020年に至っては、新型コロナの影響でこれまでどの主要な東南アジアの国々も平均6%以上維持していたGDP成長率は、22年前のアジア通貨危機以来の大きな落ち込みとなる可能性はある。個人的には、その要因の一つに観光業の激減があり、必ずしも全体の経済が落ち込んでいるわけではない、と分析している。ただ、これ以上の経済の悪化が続けば、東南アジアの国々は決して財政基盤が強いわけではないので、弱い国から資金がどんどん流出していく懸念もあり、世界経済のインフレを招くことにもつながるリスクはあるので、今後も注意が必要だ。

   一方、冒頭にも述べたが、世界的にはREIT市場は低迷していて、新型コロナ下における「ニューノーマル」では、働き方の多様化が進み、日立製作所や富士通などの大企業、さらにはIT企業やベンチャー企業などでは本社オフィスの縮小や廃止するといった、「オフィス不要論」まで登場し出して、さらに都心部のオフィスビルのテナントが減少していくようにみえる。 これに対し、三井不動産社長の菰田正信(こもだ まさのぶ)氏は8月20日付の日本経済新聞のインタビュー記事の中で、“ただ利用面積が減少の一途をたどるとは思えない。本社に集まる拠点型が残るか分からないが、社員の自宅近くなどにオフィスを分散させる企業は増える。拠点型と分散型の面積を足せば全体の利用面積は減らないだろう。本社などは密集などの感染症リスクを防ぐため、増床する事例も考えられる。入居企業と一緒に考えながら使い方などを決めていく”と語る (引用元:そこが知りたい オフィス不要論どう臨む~拠点分散の需要は伸びる https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62825340Z10C20A8TJ2000/

   東南アジアの不動産投資が盛り上がっても、先進国の不動産市場が盛り返しても、コロナ禍では、そこで働いたり、生活を営む人々が安心して過ごすことができる施設と環境が最優先だ。特にビルやマンションの感染予防のための換気は重要で、換気が十分でないと、集団感染などのリスクが増大化することになる。また、ドアやエレベーターの非接触対策なども課題になっている。換気対策については、さすがに飛行機のように3分ごとに機内の空気が入れ替わるような換気は困難であろうが、ANAなどで使用されているHEPAフィルター(0.3ミクロンの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもつ)などを導入すれば、飛沫感染は防ぐことができるので、今後不動産会社はビルの風通しや換気システムなどに、今まで以上のアイディアを盛り込んで課題解決をしていくことであろう。

   コロナによる生活の変化に合わせ、今後世界中の商業施設や居住施設で、さらなる「住む人、使う人が中心」のハイテク化が推進されていけば、活潑潑地(かっぱつはっち)な東南アジアの不動産市場は無論のこと、低迷している先進国のビル建設の在り方にも大きなパラダイムシフトが起きるかもしれない。そうなれば、SDGsの17目標中、「3.すべての人に健康と福祉を」、「6.安全な水とトイレを世界中に」、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「8.働きがいも経済成長も」、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「11.住み続けられるまちづくりを」、「12.つくる責任 つかう責任」の各課題を包括的に解決するすべとなり、世界の人々の幸せに一歩近づけることは間違いないだろう。

パンチョス萩原

「教育」についての教育 【SDGs 質の高い教育をみんなに】

  「地球上にいる全ての人々が、光の射す明るい道(クリスタルロード)を歩いて欲しい」というビジョンを掲げ、「常識や固定観念をぶっ壊す」ことをミッションとして、「やりたいこと支援」を事業内容としている会社が東京都中央区にある。「株式会社クリスタルロード (Crystalroad Inc.)」だ。今のコロナ禍にあっては、視覚や聴覚など様々な感覚がとても敏感で日常生活に支障が出る、という、いわゆる『感覚過敏』に取り組み、肌に触れないマスクとして「せんすマスク」や、“自分には苦手なニオイ、味、肌触り、光、音があります”、というメッセージを人に伝えるために身に着ける「感覚過敏缶バッジ」を考案し販売している。会社が運営する「感覚過敏研究所」も立ち上げて嗅覚過敏や化学物資過敏症をはじめ、さまざまな感覚過敏に悩む人々のコミュニティーの場をつくっている。「せんすマスク」は先日8月7日のテレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」でも紹介された。
   社長は加藤路瑛(かとうじえい)氏で、現在13歳の現役中学生だ。2018年12月の12歳で起業した。今年3月には“「今」をあきらめない生き方”というタイトルで本も出している(EXODUS出版)。普段は中学校に通っているのため、会社クリスタルロードのHPにある会社情報には電話番号の記載はない。本社の所在地も、“日本橋横山町6-14 日本橋地下実験場”、となっている。
   加藤氏が社長になりたいと思うようになったきっかけは、4歳のときに、お母さんが勤めている会社で大人が働いている姿を目の当たりにし、「かっこいいな」と思ったことだそうだ。その後、おばあさんが営んでいた民宿でお手伝いをしたことも影響を与え、社会に対する興味が沸き、ついに12歳の冬に起業した。法人登記に必要な印鑑証明は満15歳未満にはとれないため、お母さんを代表取締役、加藤氏を取締役社長として、会社の名前も自分の名前である路瑛(じえい)から路(=ロード)瑛(=クリスタル)に由来した「クリスタルロード」にしたという。取締役に名を連ねる布施歩颯(ふせいぶき)氏もプロフィールの記載を見ると、「2003年生まれ、東京都在住、現在中学3年生。小学3年生から不登校になり、現在もフリースクールに通っている、2018年夏、探究学舎の夏のスペシャル講座「経済金融編」に参加し、隣に座った加藤路瑛氏に声をかけられ、取締役に就任する。」とある。一般的に見れば型破りの会社だ。

   クリスタルロードの例で私たちの多くが感じるのは、社長の加藤氏が「中学生」というところだろう。メディアでもそのことが大きく取り上げられている(その点では、2020年8月18日のNIKKEI BUSINESS DAILY企業報道部 鈴木洋介氏による加藤氏へのインタビュー記事、“12歳で起業した社長が語る生き方、「今を諦めない」” は、あくまでも一企業の社長としての事業ビジョンやさまざまなものの考え方などを取り上げているので頭にすっと入る内容である)。「中学生=若いし、社長なんかムリ」、というのは私たちの心に潜む「確証バイアス」だ(確証バイアスについては、8月12日付コラム “自分の中のダイバーシティ”を参照のこと)。海外には小学校や中学校に通いながらYoutuberとなったり、ゲームを開発するプログラマーで活躍したりする人たちは大変多い。日本でも最近は毎週土曜日夜6時56分から放映されている、テレビ朝日『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』で、まさしく「博士」と呼びたくなるような知識や経験を持っているスーパー小学生が登場する。
   加藤氏が会社を通して伝えたいメッセージは、「子供だから、というのはあきらめる理由にはならない」ということだ。加藤氏がまさに挑戦しているのは、この社会的な常識に対する意識改革だと思う。

   画一的な学校での義務教育が普及したのは19世紀後半から20世紀前半だが、子どもが社会で生きていけるようにするための計算や文字、そして集団行動を訓練し、将来工場や会社に適応できるように教えることが、教育の中心課題となった。教育はその時代じだいにおいて、政治的、軍事的な思想を国民に植え付けるような形でなされることも多く、日本でも数年前に「教育勅語」を容認しようと発言した政治家らが「軍事国家への回帰だ」などと批判を受けている。この明治23年に発布された「教育勅語」はまさに天皇から国民へのメッセージであって、私も作家の高橋源一郎さんがツィッターに現代語訳を載せた文章を読んで初めて意味がわかったが、たとえ政治家全員がこの内容を容認したとしても、それに従う国民はほとんどいないと思う。また、現代の日本では文部科学省が施行している「学校教育法」がベースとなり、第一条で定める学校の定義「小学校、中学校、高等学校、大学、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園」についての規則が記されている。よく世間でも話題となる「先生の体罰の禁止」については第十一条に記載されているが、私の読み方が悪いのか、それを破った先生の罰則はどこにも記載がないように思える。どなたか見つけたら教えて頂ければ幸いである。

   話を教育に戻すと、子供たちに画一的かつ強制的に知識や思想を教えることは、子どもの自主性と自発性を尊重することにならない、という考え方が1920年代に起こり、いわゆる「オルタナティブ教育」が台頭した。このオルタナティブ教育とは、皆が同じ勉強をするものではなく、個性に合った多様性を育てる教育で、学校教育法に定められている学校とは内容も様相も違う。「モンテッソーリ教育」や「シュタイナー教育」など一度は耳にしたことがある方々も多いと思う。オルタナティブ教育を創始した人々の目的はただ一つ、「子供たちが一人ひとり幸福になるため」であった。画一的な知識の注入と訓練を行う教育では、個人も幸福になれないし、社会も問題の多いものになると考えた結果の新しい教育への試みである。このオルタナティブ教育を受けた著名人には、例えば、モンテッソーリ教育では、将棋の藤井聡太二冠(棋聖・王位)、ビル・ゲイツ氏、FBのマーク・ザッカーバーグCEOなどで、シュタイナー教育では、俳優の斎藤工さん、児童文学作家のミヒャエル・エンデ氏、女優のサンドラ・ブロックさんなどがいるそうだ。
   子供たちの一人ひとりの大切な個性と人格を尊重し、多様な教育を推進するためのネットワーク「おるたネット(代表 古山 明男)」は、オルタナティブ教育を現代の義務教育に対する教育改革という位置づけに賛同した教育関係者、一般の主婦、企業人などが集まり、自由に教育について語り合い、子供たちを支援している。よりオルタナティブ教育の本質がわかる文章がHPにあるので、そのまま引用させて頂く。“オルタナティブ教育には、ある一つの特徴があります。それは「平和を教える」のではなく「平和に教える」ことです。結論の押しつけ、競争による序列付け、賞罰による動機付けなどを、暴力的なものと見ているのです。平和の礎を、子どもを一人の人間とし て、その尊厳を尊重するところに置こうとしているのです”(引用元:http://altjp.net/classification/article/83?trackback

   SDGsの17目標の4番目にある「質の高い教育をみんなに」には、「2030 年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果 的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中 等教育を修了できるようにする。」というターゲットがあるが、私たちは、まず、「教育とはいったい何を教育すべきなのか?」をしっかりと考え、行動していきたい。

パンチョス萩原

憂国(ゆうこく)の偉才 【SDGs サステナビリティ】

   東大の教授になるにはどうしたら良いのだろう? いろいろネットを探ると、典型的な成功パターンは次のような感じである。まず、名だたる超難関の大学院で専門の研究を行ない、2年間で修士課程、続いて3年間で博士課程を修了し、博士号を取得することから始まる。そこから就職活動を頑張り、運が良ければ東大の教員として採用される。教員になったら助手や助教授を地道に数年間勤めた後、教授からの推薦によって講師や准教授の職をゲットし、最終的に東大教授のキャリアが開かれる…。東大教授への道は果てしなく遠い。だが話はここで終わらない。この険しさに追い打ちをかけるのが、日本における大学や公的研究機関で働くポストの少なさだ。日本は博士号取得者のために十分なポジションを増やしてこなかったため、なかなか就職できないのが現状という。さらには少子化で大学生の数も減って大学経営も厳しくなっていることから、全く希望の就職先が見つからず、期限付きの臨時講師や低賃金のアルバイトで生活をつないでいる、いわゆる 「ポスドク(Post Doctor、博士号取得後に任意の就職をしている人々)」 は 、現在でも、日本に15000人以上いるというから驚きだ。

   このように、刻苦勉励(こっくべんれい)して学問を究め、これからの日本をしょって立つべき超優秀な方々が、教授になる夢はおろか、研究所や一般企業への就職もままならず、非正規労働者や自宅でニートとなっている「高学歴ワーキングプア」は深刻な社会問題となっている。   

   ところが、かつて鯵(アジ)の漁に出ただけの少年が東大の教授になった話がある。ジョン万次郎こと、中浜万次郎(1827年-1898年)だ。彼が生まれた高知県土佐清水市のHPに掲載されている伝記を参照させて頂きながら、かいつまんで彼の波乱万丈な生涯を追ってみたい。

   中浜万次郎は、1827年に貧しい漁師の家に2男3女の次男として生まれ、病弱な兄にかわって 14歳のときに初めて仲間4人とともに漁に出かけたが、海が大荒れとなり、土佐清水市から海上760キロも離れた孤島に漂着することとなった。それから143日間、自力で飢えをしのぎ、過酷な無人島生活を送っていたが、ある日その島に海亀の卵を採るためにやってきたアメリカの捕鯨船「ジョン・ハウランド号」によって発見され、万次郎らは無事に助けられることとなる。本来ならば船がそのまま土佐清水市に寄港してくれれば万次郎は家に帰れたわけだが、当時の日本は鎖国の真っ只中の時代で、外国船は日本に近づくことさえ困難であったため、万次郎と友人らは日本に帰ることが許されなかった。ジョン・ハラウンド号船長のウイリアム・H・ホイットフィールド(当時36歳)は、彼の判断で、まず万次郎ら5人を安全なハワイへと連れていくことにした。万次郎以外の4人はハワイに残ることを決めたが、万次郎だけはアメリカ本土へ渡る決心をした。万次郎からの申し出を快く了承した船長は彼をアメリカへ連れていくことになるが、航海中にホイットフィールド船長が見た万次郎の鋭い観察力と前向きな行動力は、彼をはじめ、船員たちに高く認められ、早速、ジョン・ハウランド号からとった「ジョン・マン」という愛称をつけられることとなった。

   さて、無人島から救出されてからの2年間は海上の生活を送り、いよいよ船はアメリカ最大の捕鯨基地、マサチューセッツ州ニューベットフォードに帰港した。この時が日本人が初めてアメリカ本土の土を踏んだ瞬間である。ホイットフィールド船長は、誠実でたくましく働き者の万次郎を我が子のように愛し(のちに万次郎は彼の養子に迎え入れられた)、故郷のフェアヘーブンに連れ帰って、英語、数学、測量、航海術、造船技術などの教育を受けさせた。学校を卒業した万次郎は、捕鯨船に乗って7つの海を航海した後、ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアで帰国の資金を稼ぎ、漂着仲間のいるハワイに立ち寄った。そして1851年(漂流から10年後)、琉球(沖縄県)に上陸した。約半年の間、琉球に止められた後、薩摩、長崎へと護送されて取り調べを受け、翌年の夏ようやく土佐へ帰ることができた。

   万次郎は、その後土佐藩より最下級の士分として取り立てられた。これは身分制度の特に厳しかったこの時代においては、異例の出世であったが、時代は幕末の 激動の時代で、幕府も各藩も西欧の情報を必要としていたことがあった。その翌年の1853年には、あの有名なペリー提督が黒船を率いて浦賀にやってきたが、幕府は万次郎を直参として江戸に呼び寄せ、アメリカの実情を老中らの前で語らせた。万次郎はアメリカでの見聞録をありのまま伝え、この国に必要なのは開国であると熱く語った。水戸藩などの保守的な藩からはアメリカのスパイではないかと恐れられ、ペリー提督の第2回目の来航時には通訳のメンバーからはずされてしまうが、アメリカの高等教育を受けた万次郎は有能で、翻訳、造船、航海、測量、捕鯨などの仕事に従事し、日米の仲を取り持つ重要な役務を担った。33歳になった1860年、幕府は「日米修好通商条約」批准のために初の公式海外使節団をアメリカに送ることになったが、万次郎は事実上、船長兼通訳として随行艦「咸臨丸(かいりんまる)」に乗った。勝海舟や福沢諭吉らも乗せたこの咸臨丸の太平洋横断は、鎖国の終わりを告げる象徴的な出来事であった。帰国後、万次郎は、小笠原の開拓調査、捕鯨活動、薩摩藩開成所の教授就任、上海渡航を務め、ついに明治政府の開成学校(現在の東京大学)の教授に就任することとなる。漁船の難破からアメリカへ渡り、めまぐるしく働き続けた万次郎は、1898年、71歳でその生涯を閉じた。   

   近代日本の夜明けともいえる時代にあって、日米の架け橋となる幾多の業績を残した中浜万次郎は、日本ではあまり歴史書や偉人伝には書かれることは少なく、私などはこのコラムを書く前は、 7年前に「NHK総合テレビ 歴史ヒストリア 今こそ知りたい! ジョン万次郎~日本開国前夜 驚きの舞台裏~」を見たくらいである。ところが、アメリカでは万次郎の人気はとても高く、児童作家マーギー・プロイスによるジョン万次郎の伝記小説「HEART of a SAMURAI」は今でも学校の教材となっている。また、アメリカの第30代大統領のジョン・カルビン・クーリッジ・ジュニアは、「万次郎がアメリカから日本に帰国したのは、アメリカが最初に大使を日本に送ったことに等しい」と語り、スミソニアン研究所が アメリカ建国200年 で催した『海外からの米国訪問者展』において、「アメリカ見聞録」を著したイギリスのチャールズ・ディケンズらと並んでわずか29名が選ばれた中に、中浜万次郎の名前が入っている。

   歴史が大きく動いた激動の開国時代にあって、日本の未曾有の危機を救い、、板垣退助・中江兆民・岩崎弥太郎などの錚々(そうそう)たる政治家や実業家に多大な影響を与え、開国後わずか20数年で鉄道、電話、郵便といったインフラの整備、綿糸や生糸の大量生産・大量輸出を実現し、多くの学校で教鞭をふるい日本における近代教育の礎を築いたのは、極貧の漁師の家に生まれ、身分も苗字もなく 、絶望の中にあってもどんなに状況が変わろうとも、常に前を向いて憂国の志士として国の経済成長のために生きた一人の少年であった。

   今、もしも万次郎が生きていたら、SDGsの17目標中、8番目のゴールである「生産性の向上と技術革新により、持続的な経済成長を促進する」について、現代人がいかにこの国を思い、持続可能で豊かな経済国としていくべきか、についてのさまざまなアイディアを出して私たちと共に働いてくれるにちがいない。

参考文献・参照・引用サイト

『中濱万次郎~アメリカを初めて伝えた日本人~』(中濱博 冨山房インターナショナル)    
『異船異聞』(川澄哲夫 有隣堂)
『幕末日本の情報活動~「開国」の情報史』(岩下哲典 雄山閣)

総務省統計局「科学技術研究調査報告」(平成24年度)
博士人材の社会の多様な場での活躍促進に向けて – 文部科学省

ジョン万次郎資料館https://www.johnmung.info/john_syougai.htm
高知県土佐清水市https://www.city.tosashimizu.kochi.jp/kanko/g01_jyonman02.html)  

パンチョス萩原

音(おと)の話 【SDGs 住みやすいまちづくり】

ピッ、ピッ、ピッ、ポーン…

   テレビやラジオでおなじみの時報の音である。音階は、ドレミファソラシドの「ラ」の音だ。ピアノでは左から49番目の鍵盤の「ラ」を3回、そして1オクターブ高い「ラ」(61番目の鍵盤)を1回弾くと一人で時報が流せるので余興に使える。 音の高さ、低さを表す周波数(音が一秒間に何回振動しているかを表した数値)で表すと、最初の「ラ」が440Hz(ヘルツ)、高い方が880Hzである。絶対音感を持つピアノの調律師は、49番目の鍵盤をコンサートピッチ(最初に合わせる音、基音ともいう)として、440Hzの「ラ」の音にまず合わせ(コンサート会場などでは時に演奏者の希望などで442~443Hzに合わせることもある)、そこから隣の鍵盤の音を21/12(2の12分の1乗)ずつ周波数を変えながら調律をするという神業を、自分の耳だけを信じて行なっている(21/12は、1オクターブを12等分した音で平均律といい、12鍵盤先の音の周波数は2倍(212/12)となる)。ギターの場合でも「ラ(A440Hz)」は、5弦の開放弦をチューニングする時の大事な音である。私もギターを弾くことが趣味の一つだが、チューニングマシーンなどない昔は、440Hzの音がなる音叉(おんさ)を用いてチューニングしていたのが、今となっては懐かしい。

   音の周波数についてもう少し調べてみると、一般的に人間の耳に聴こえる音域は20Hz(低音域)~20000Hz(高音域)であることがわかった。ただ、年を重ねていくと、高い周波数帯が聞こえづらくなってくるという。私も早速、聴力を自分でチェックできるサイト(リオネット補聴器HP)で聴きとり可能な周波数帯を調べてみたが、16000Hz音域までは聴こえたが、その上は聴こえなかった。会社で大声で怒鳴られるようなミスを犯しても、上司が17000Hzくらいでしゃべってくれれば、全く何も聞こえないので都合が良い。

   音の周波数が20000Hzを超えると「超音波」と呼ばれるようになり、人間の耳の構造では聴こえなくなる。しかし、そんな超音波をも聴き取っている動物は結構多い。例えば、犬は15Hz~50000Hz、猫は45Hz~64000Hz、イルカは20Hz~150000Hz、こうもりは1200Hz~400000Hzを聴いているらしい。昆虫たちも相当高い周波数帯の音を聴きとることができるらしく、夜行性の蛾などは500Hz~240000Hzだそうだ(出典:音楽研究所HP)。人間から見れば、彼らは間違いなく超能力者たちである。

   音の高さ、低さは上述の「周波数(単位はHzヘルツ)」で表される一方、音の強さ、大きさは「音圧(単位は pa パスカル)」で表される。この単位は気圧にも使われているため、さらに人間が何とか聴くことのできる音圧を20マイクロパスカル(μPa)」と定め、これを基準として聴いている音がどのくらいの大きさかを表すには、「dB(デシベル)」という単位を使う。騒音計などではおなじみの単位だ。夜間の住宅地やホテルの部屋など静かな場所はだいたい30dB、会社や役所の窓口などは50~60dB、レストランやバス車内は70~80dBで、これ以上の音の大きさになると極めてうるさく感じるレベルとなる。パチンコ屋や電車の高架下などが良い例で、90~100dBにもなっている(出典:毎日新聞HP)。

   このように、私たちの周りには、高低と強弱が入り混じった音が満ちあふれているわけだが、いつの時代も「音が問題になる」、といえば、それは「騒音」である。「騒音」は単に聴くに堪えられないような大きな音だけを意味するのではなく、心理的に不快感を催すようなものであれば小さな音も「騒がしい音」なのだ。英語では「騒音」のことを 「Noise Pollution (雑音による汚染)」というから、ほとんど公害扱いである。

   SDGsの17目標のうち、11番目の「住み続けられるまちづくりを」の中でも、音環境は私たちの生活に密接に関係しているため、行政、地方公共団体、企業などが積極的に騒音対策に取り組んでいる。騒音に関する法律は、環境省が、「工場・事業場騒音」、「建設作業騒音」、「自動車、航空機などの騒音」に関わる規制基準を 「騒音規制法」という法律を施行することで監督している。しかしながらこの法律は、「都道府県知事や市長・特別区長が独自に騒音について規制する地域を指定し、規制対象ごとに異なった規制基準等が定めることとする」、という内容になっているため、実際には各都道府県、各市町村によって規制基準はバラバラだ。加えて、隣の家から流れてくるクラッシック音楽や電話の声、犬の鳴き声、水を流す音などは、それを聴く人の主観的な捉え方で良い音にも騒音にも聞こえるため、これらの生活音自体を規制する法律はない。そのため多くの自治体は生活騒音などに関する苦情受付担当者や、配慮すべき指針を設けているが、根本的には、住民同士の良いコミュニケーションとお互いへの配慮に尽きると思う。

   空耳、初耳、聞き耳、僻耳(ひがみみ)、耳年増(みみどしま)、地獄耳など日本語には耳のつく単語が豊富だ。また、耳が痛い、耳が汚れる、耳が遠い、耳が早い、耳に入れる、耳に障る、耳にタコができる、耳に残る、聞き耳、耳に挟む、耳が肥える、耳を揃える…など、  耳を主人公にして人の感情やその場のシーンをほのぼのと浮かび上がらせる熟語も日本人ならではの感覚である。それほど私たちは耳から入る生活音に敏感に反応し、耳からの情報で感情をコントロールしながら生活している。

   環境省は、騒音対策とは逆に「残したい日本の音風景100選」など、かつて日本人が暮らしの中で当たり前のように聴いていた美しい自然の音を大切にしよう、という啓蒙活動にも力を入れている。ヘッドホンで素敵な好きな音楽を聴くのも楽しいが、これからの時期、都会でもコオロギ、鈴虫やキリギリスの鳴き声が聞こえはじめる。移り行く季節の風情を感じながら、人の耳に心地よい自然な音色に耳を澄まそうではないか。

パンチョス萩原

パラレルワーク・ハーモニー

みなさんは、副業や兼業をしていますか?
政府は働き方改革の一環で、副業・兼業を推進していますね。

並行して複数の仕事・収入源をもつ働き方をパラレルワークといいますが
複数の仕事をするハーモニーについて考えてみます。

言葉や定義は様々ありますが、自分なりの解釈はこうです。

‣Rice-Work:ご飯を食べるため、生活費を稼ぐための仕事
‣Life-Work:仕事というより、もはや生き方
‣Like-Work:好きなことを仕事にする
‣Learningful-Work: 学びやスキルを得るための副業

Rice-Workで安定した収入を得ることで、
生活費を心配せずに、Life-WorkやLike-Workに熱中できます。
また、軌道に乗るまでの時期や経済危機に耐えうることが可能です。

Learningful-Workは、英単語ではなくネットで見つけた造語ですw
ある有名な経営者の方が、
「若い人は、単に収入を増やすために副業をするのではなく、
ぜひ、将来に活かせる学び・経験・スキルを得るための副業を!」
と仰っていました。

副業や起業をお考えの方は、どの仕事に何を求めるのか
仕事のハーモニーを考えてみるといいかもしれません。

SoiはもちろんLife-Workです♪
軌道に乗ったら、Like-Workにも挑戦してみたいです。

Cantare Kaoru

変わりゆくお金 【SDGs イノベーション】

「もしもし」

「もしもし、●●県警の●●と申しますが」

「どのようなご用件でしょうか?」

「実は、窃盗犯があなたが家に保管している箪笥(たんす)貯金の一部を偽(にせ)札にすり替えたという情報を入手しました。偽札はすべて刷られている番号の最後が「4」の一万円札です。これから係員が犯人がすり替えた偽札をお宅に取りに伺いますので用意しておいてください」

   近頃流行りだした新種の特殊詐欺である、と、NHKニュースの「ストップ!詐欺被害。私はだまされない」のコーナーで報じていた。この例では、騙されてしまった方は、最後の番号が「4」の一万円札を箪笥貯金の中から90枚見つけ、警察を名乗り家に出向いてきた人間に手渡すことで被害にあってしまったそうだ。他人事ではなく、本当にこの手の詐欺には気を付けていかなければならないが、よくよく落ち着いて考えてみれば、窃盗犯が箪笥にしまってある現金を見つけたあと、「4」の番号の一万円札だけを偽札にすり替えるような手間をかけるだろうか?間違いなくお金を全て盗んでいくに決まっている。仮に百歩譲って、犯人が偽札に取り換えたとしよう。その場合、一枚ごとに刷られている記番号(アルファベット1~2文字+6桁の数字+アルファベット1文字、例えば「P789647L」や「ZY888666A」など)は全て同じはずだ(でなければ違う記番号で偽札を一枚一枚印刷しなければならず、手間もコストもかかる)。そうなれば、「4」の数字がついている一万円札が偽札だと信じて一生懸命集中して見つけていれば、さすがに同じ番号が何枚も出てくるので、「これは本当に偽札だ」となるが、実際のお札は同じ記番号が一つもないので、「これは怪しい」となるはずだが…。そもそも犯人にしてみたら、箪笥貯金の中の一万円をすり替えるよりも、そのまま偽札を使えば良いのではないか…、と、ツッコミどころが満載の手口ではある。

   残念ながら、特殊詐欺の被害は後を絶たないが、銀行に預けても利息がほとんど付かないこともあって、自宅にいわゆる箪笥貯金をしていらっしゃる方々も本当に多いようである。ちなみに箪笥貯金は、英語で、”under the mattress (アンダー・ザ・マットレス)という。外国では隠す場所が違うのだ。

   実際にこうした箪笥貯金として家に眠っているお金、財布に入っているお金、会社の金庫にしまってあるお金など全部集めた「現金」は日本国内にいくらあるのか? これには日本銀行のHPがわかりやすく教えてくれる。日本国内でどのように現金が流れているのかは、ホームメニューから「統計」を選んで、「資金循環」→「資金循環統計」のデータを見つければよい。しかし、単刀直入に「現金」として流通している量を知りたければ、「教えて!にちぎん」のQ&Aコーナーで次のような回答を見つけた。

Q:「日本で流通しているお札は全部でどれくらいありますか?」

A:「2019年(令和元年)の大晦日、一般家庭や企業、金融機関などで年越しした銀行券(お札)の残高は、合計で112.7兆円(枚数では173.1億枚)でした。これを積み重ねると、約1,731km(富士山の約458倍の高さ)に達します。また、横に並べた場合には、約269万km(地球の約67周分、月までの距離の約7倍に相当)となります。」(出典:https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/index.htm/

豆知識も交えた回答となっているが、例え話が少し難しくてイメージが湧きづらいのは私だけであろうか。いずれにしても、この日本国内のどこかに113兆円にもおよぶ「現金」があるということはわかった。非現実的ではあるが、仮の話で、173億枚もある紙幣がすべて一万円札だとして、それも国民一人一人が持っていることを想像した場合、140枚ずつ持っている計算になるので、相当「現金」が出回っている感じがする。ちなみにそんな「現金」は私の家のどこをひっくり返しても出てこない。

   今日は「現金」の話を書かせて頂いたが、今、このコラムを読んでくださっている方々の中には、毎日「現金」だけをお使いではなく、クレジットカードやスマホの電子マネーアプリでモノを買ったり、公共料金などの支払いをなさっている方もいらっしゃると思う。私の場合は、数枚のクレジットカードと、PASMOやペイペイなどのプリペイド型の電子マネーで決済をする方が「現金」を使うよりも多くなった。日銀では「決済動向」という統計も毎月公表しており、今日現在で最新のデータは2020年5月度の結果がアップされている。その中で電子マネーの決済状況を見てみると、2019年6月から2020年3月までは月当たり5億件を超える決済件数(金額にして4656億円~5776億円)で推移していたが、4月と5月は新型コロナの影響で4億件(4490億円~4814億円)となっている。単純に平均値を計算してみると、一回の決済金額は1100~1200円程度であることがわかる。多くの方々がコンビニや飲食店などの身近なところで気軽に電子マネーで決済していることが浮き彫りになっている。

   今後さらに、スマホからLINE Pay、楽天Pay、d払い、Au Pay、ペイペイ…などを利用したバーコード・QRコード決済や、Apple Watchなどの腕時計型携帯端末を利用した決済などが、どんどん加速していくこととなるだろうと思う。「現金」を使わなくても済む世の中になってきて、生活が便利になってきたことは確かだ。これは、SDGs17の目標のうち、9番目の技術とイノベーションで人々の生活を豊かにしていこうという目標に沿っている。

   さて、これから先、人工知能もスマホに搭載されて、コンビニで買うものまでアドバイスをしてくれる日も来るのだろうか?

パンチョス萩原

経営道場に入門!

経営道場が開講しました!
記念すべき初回は、萩原師範によるファイナンス講義でした。

~CFO的発想のファイナンスシリーズ~
「誰もができる、ファイナンスのさらなるセンスアップ」

これまでの経営の常識とは異なる、CFO的な視点は斬新でした。
損益計算書がステークホルダーの重要度に書かれているなんて
MBAではそんな風に教わらなかったので、目から鱗でした。

次回も楽しみです!

8月25日 19:00~19:30 マーケティング
「マーケティング の一番大事なことは〇〇だ」
 ハーバードビジネススクールのマーケティングで最初に習うことをこっそり教えます

障子(しょうじ)の美学 【SDGs 住みやすい街づくり】

   人口減少に伴い、日本では年々住宅着工が減少し続けている。NRI(野村総合研究所)が今年6月9日発表した、「日本における2020~2040年度の新設住宅着工戸数」によると、90年代には160万戸を超えていた着工数は、2020年はコロナの影響もあり73万戸、そして2040年には41万戸まで減少すると予測している。一般的な在来工法で建てられた木造住宅の耐用年数は、法定では22年であるが、たとえそれ以上に住めたとしても2040年までには建て替える必要が必ず来るはずである。これまでの30年間、毎年100~160万戸ほども建てられてきた住宅が古くなり、建て替え需要があるにも関わらず、これからの20年で年間41万戸まで落ち込むということは、内装だけリフォームすることで何とか対応しようという人が増えているケースだけでは説明は困難である。間違いなく、日本が抱える現実、2017年の時点で既に人口の27.7%が65歳以上の高齢者(総務省調査)のますますの高齢化や少子化が加速しつつ人口が減少していく構造や、生活の多様化で子供が東京などの都心に移動することで親が建てた土地に住み続けることがなくなる場合など、さまざまな要因が重なるのだろう。

   それにしても、時代の流れか、いかにも「昭和らしい家」というのが少なくなった。洋風の外装で一室を畳、障子(しょうじ)、襖(ふすま)などを配置した「和風」にする家が大多数なのではないだろうか。もともと伝統的な和の建築には屋根は瓦、外壁は漆喰、土壁、焼き板などを使用し、内装は湿気をコントロールする木、畳、和紙などの自然素材を用いるエコなものであり、高温多湿な風土に合わせて冬は暖かく、夏は涼しく過ごせるように続き間や縁側などの意匠を凝らして生活の知恵が息づいていた。

   それが時代の流れとともに、コストと機能性を重視するプレハブ住宅メーカーの台頭により、屋根は軽くて耐久性の高いスレートや、セメントに無機物や繊維を混ぜて工場でタイル調や石積み調のデザインで洋風の外観にするサイディングの外壁や、壁の中にグラスウールや発泡ウレタンなどの断熱材をいれ、石膏ボードにクロス貼りする内壁など、日本の住宅の大半は洋風建築に変貌した。また、生活スタイルの変化によるアパートやマンションなどの増加も和建築の減少に拍車をかけている。伝統的な和建築では、大工、左官屋、建具屋などの職人の手が入るためコストも高く、工期も長くなるので、今後さほどの和建築再復興は起きないかもしれないが、たまにはそんな日本のエコな住宅のもつ素晴らしさを再認識してみる機会も良いだろう。

   今日はそんな和建築の建具の一つ、「障子」に注目したい。

   和建築の建具の中でも個人的にエコNo.1として一押しなのが、この障子である。平安時代から今に至るまで、さまざまな形のもの、例えば、最もスタンダードな荒組(あらくみ)障子に始まり、横組(よこぐみ)、横繁(よこしげ)、竪組(たてぐみ)、竪繁(たてしげ)、枡組(ますくみ)、吹寄(ふきよせ)、変組または組子(かわりぐみ・くみこ)、などがあり、機能の分類では、水腰(みずこし)、腰付(こしつき)、雪見または摺上雪見(ゆきみ・すりあげゆきみ)、額入(がくいり)、太鼓(たいこ)、猫間(ねこま)、書院(しょいん)、柳(やなぎ)、夏(なつ)障子などがある。障子は美しいだけでなく、自然光を40~50%の通過性に和らげ、和紙や木枠によって室内の湿度を調節し、ガラスとカーテンの組み合わせよりも断熱性と遮熱性が高い。世界中いろいろな建具があるなかで、はて、出入り用のドアとしての機能、風と採光を調整する窓としての機能、必要な時に目隠しとなる防犯機能、手軽なメンテナンス性などを一度に満たすものが障子以外にあるのだろうか?と思う。また、人に与える心理的な作用も秀逸で、障子は自然素材の木と紙でできているため、癒し効果も高く、仄(ほの)かに香る木の味わいと相まって、心身ともにリラックスできる。私自身が障子で好きなポイントは、ピーンと張っている和紙が背筋を真っすぐに伸ばしたくなる緊張感を与えてくれるところであるが、皆様はいかがだろうか?

   SDGsの17目標の11番目に、「住み続けられるまちづくり」がある。都市の住みやすさといえば、安全性、医療の充実、教育施設、上下水道・電気・ガスなどの生活インフラ、自然など多くの基準が頭に浮かぶ。日本の建築が伝統的な和建築だけであった江戸時代までは、日本人は外壁にガラス戸もなく、障子や障子をはめ込んだ戸で快適に暮らしていた。防犯上もかんぬきや横木だけであった。そこには町に住む人々が、お互いに信頼し合い暮らせる、道徳感と安心感にあふれた人間の絆があった。今日のように、防犯カメラが至るところに配置され、犯罪とセキュリティ対策のイタチごっこを見ていると、どんなに素晴らしい街づくりを進めても、住む人の考え方で街は変わる、ということを改めて感じる。障子が家の中心にあった時代の豊かさ、人の在り方に思いを馳せてみたい。

パンチョス萩原

日本の水の管理者 【SDGs 資源】

   現在、私が勤める自動車関連部品会社は、神奈川県秦野市にある。丹沢の山々に囲まれた秦野市は、神奈川県では唯一の盆地である。地下構造が地下水を貯める天然の水がめ(水文地質学上は、地下水を含む「帯水層」が多数集まる「地下水盆」)の構造となっているため、周囲の山々から長い年月をかけて、じっくりと、しかし豊富に秦野市の地下水は蓄えられているのだそうだ。秦野市のHPによると、地下水量は膨大で、およそ2億8千万トンに及ぶ。また、現在では市内の21箇所で天然の湧き水が湧き出している。その一つが私の住むアパートから徒歩10分のところにある。1200年の歴史を刻み、水を司る神様として知られる曽屋神社の境内にある「井之明神水」と呼ばれる御神水である。人がほとんどいない静寂な神社の裏手にこんこんと湧いており、近隣の人々がペットボトルや水筒を持参して天然のミネラルウォーターをありがたく頂くことができる。何でも秦野市は、明治23年に函館、横浜に次ぎ、日本で3番目の近代水道の給水が開始された地域でもあるそうだ。

   綺麗な湧き水は全国的にも有名で、私自身は秦野に来る前は全く知らなかったのだが、環境省が平成27年に実施した全国200箇所の名水を対象とした「名水百選選抜総選挙」では、「おいしさが素晴らしい名水部門」で、総投票数13329票中、7504票を獲得し、見事1位となっている。そんな美味しい天然水を秦野市では水道の蛇口から飲める。湧き出る天然水に必要最低限の塩素消毒加工を施して水道水となっているからである。秦野市ではこの水道水をペットボトルにつめて、「おいしい秦野の水〜丹沢の雫〜」という商品名で販売しているが、秦野市民にとっては、同じ水が家の蛇口をひねれば出てくるのだから、何とも贅沢な話である。しかも水道代は東京都よりも確実に安い。

   ふと、日本の水の管理は誰が行なっているのだろうか?という疑問が湧いたので、水道局や関係省庁などの情報を手当たり次第に調べてみたところ、それぞれの管轄は以下のようであることがわかった。

1.飲料水→厚生労働省

2.工業用水道→経済産業省

3.ダム・水資源→国土交通省

4.水産物・農業用水→農林水産省

5.日本の名水→環境省

   興味深い事実としては、上記5つの省に加え、学校のプールは「遊泳用プールの衛生基準」という観点から文部科学省が管理している。具体的な管理は各省庁内の水担当部署や外部団体によって管理されていて、例えば、農林水産省では農村振興局整備部設計課、水道課、林野庁、水と緑の田園通信など、経済産業省では資源エネルギー庁など、国土交通省では、土地・水資源局(水資源)、都市・地域整備局(下水道)、河川局などがそれぞれ管理している。ここまでお読みになって感じる方も多いと思うが、日本での水の管理はものすごい縦割り行政なのだ。これに地方公営企業法の適用を受けて地方公共団体が運営する上水道の供給を所掌する水道局が各都道府県の市町村にあり、世界でも有数な日本の安全な水が管理されているわけだ。

   一つの資源がこれほどまでに細分化されてさまざまな組織で管理されているものは水しかないであろう。あまりにも縦割りすぎることから、現在では、それぞれ水を管轄する関係5省は、「健全な 水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」を発足させており、健全な水循環系構築のために協力体制を敷いている。また、水質管理などでは、地域の状況によって各地方自治体が条例でさらなる規制を敷いているところもある。

   余談かもしれないが、現在の新型コロナの殺菌に有効だとされる消毒水「次亜塩素酸水」は、消毒や除菌方法については厚生労働省と消費者庁が協働して管轄しているが、次亜塩素酸水自体の品質については経済産業省の管轄となっていることが経済産業省のHPを見る限り分かる。かように分断されている現在の行政では、水を一元管理する省庁の設立や、水担当大臣などは、ほぼ実現しないであろうと思う。消費者の立場としては、水というかけがえのない資源や附帯する管理に対し、国や都道府県がこれからもさらに風通しの良いコミュニケーションによって、迅速に対応して頂くことを祈念するのみである。 

   「金を湯水のように使う」という諺が存在し、安全な水を当たり前のように日々得ることができる日本において、世界の水問題を理解し、そのために働きかけをすることは大切なことである。TOTOのHPに世界各国の各家庭が毎日使用する水量が国ごとにグラフに表されて掲載してあるが、それによると、世界の平均では一人当たり186リットルだそうだ。日本人は平均のおよそ2倍にあたる300リットル以上使っているらしい。年で換算すると、一人当たり135トンにもなる。TOTOの調査によると、風呂とトイレの使用量が61%を占めており、次いで炊事が18%、洗濯が15%と続く。今の日本はふんだんに水を使っても枯れることのない豊かな国の印象があるが、水資源は確実に年々減っている。水の大切さを改めて認識したい。いかに縦割り行政、多くの組織で水が管理されようとも、最終的に使う消費者である私たちに、この国の水資源の行く末は託されている。

パンチョス萩原

正反対の気持ち 【SDGs ディーセント・ワーク】

   先日、色についてのコラムを書かせて頂いた。人の目が見ている物体の色は、その物体が反射している色なのだが、別の言い方をすると「反射される色は、その物体に吸収された色の補色(反対の色)」ということになる。この補色にはとても興味深いことがある。今日は「補色残像」という現象について話をしてみたい。

   人間の目は、同じ色をしばらく眺めた後、別の場所に視線を移すと、その色の補色、すなわち反対の色が目の中に残像を映し出すことがある。原理はわずか0.1~0.4ミリの網膜にびっしりと存在する錐体(すいたい)細胞が、同じ色を見すぎて疲れてしまい、見ている色以外に対してのみ反応するようになるため、その反対色が目の中に残像として残るらしい。

   この補色の残像作用をうまく利用しているものは意外と日常生活にある。 例えば牛乳パックは青い色をしているものが多いが、これは青い色をした牛乳パックを眺めた後に牛乳が注がれているコップを見ると、そこに青の補色である黄色が残像として映ることで牛乳の色が濃厚でおいしそうに見えることを利用している。また、「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」や「トップナイフ―天才脳外科医の条件」など、最近医療・病院系の人気TVドラマをご覧の方も多いと思うが、ほとんどの場合、手術室の色や医者と看護師が身に着けるマスクやユニフォーム(スクラブやケーシー)は薄緑色か青色がほとんどだ。これは、治療や手術などで長時間赤い血を見続けると、補色のうす緑色が残像として映るため、周りが白いと残像がちらついて医者や看護師にとって強いストレスとなる。その残像によるストレスを少しでも軽減するためにあえて薄緑色や青色にしているのである。 

   この残像現象を初めて世に伝えたのは、ドイツ出身の劇作家、詩人、哲学者、自然科学者、小説家として知られるゲーテだそうだ。ゲーテは20年間もの間、さまざまな色彩現象について研究し、1810年、彼が61歳の時に『色彩論』という本を発表している。

   補色残像は見ている色の反対色が残像として残るいわゆる目の構造上の現象であるが、人の心にも同様に思っていることと全く反対の感情をもつ心理現象が起きることもある。「反動形成」である。 平たく言うと、本当に思っていることと反対のことをあえて言ったり、本当にしたい行動と全く逆の行動をとったりすることだ。心理学的には、自我の防衛機制(危険や困難に直面した場合や、とても受け入れがたい苦痛・状況にさらされた場合に、自分が壊れてしまう前に無意識に作用する心理的なメカニズム)の一つである。

   反動形成の具体例は私たちの生活の中で枚挙に暇(いとま)がない。例えば、心から好きだった相手に失恋したときに、「ぜんぜん自分のタイプではなかった。付き合わなくて良かった」とか言って平静を保ってみたり、最後にあと一つ残った美味しそうな餃子を食べたくてしょうがないのに遠慮して「もう、おなか一杯だから、どうぞ食べて、食べて」などと痩せ我慢を言ったり、嫌いでしかたがない上司に敢えて良い部下として振舞ってみせたり…。イソップ童話に登場する「きつねとぶどう」の話も、きつねが美味しそうなぶどうを取ることが出来ず、悔しくてしかたがなかったので、そのままでは自分自身に相当なストレスが生じてしまうために、無意識に「ぶどうはを酸っぱくて美味しくないに決まっている。誰がこんな美味しくないぶどうを食べるものか。食べなくて正解だ」と、自己正当化した、反動形成の代表例のような物語である。

   人は時折、無意識に自己の能力の低さを正当化したり、擁護するために、本当は素晴らしいと心から思っている対象を貶めたり、価値の無いものだと主張することがある。この、いわゆる「負け惜しみ」は明らかに自分の考えている本当の気持ちと全く正反対の感情表現だ。この反動形成という行為によって何とか心のストレスを抑えようとするが、負の感情がさらにエスカレートしてしまうと、自分に対して過度の劣等感を持ったり、嫉妬心から攻撃的な行動へと発展してしまうことがある。

   チューリッヒ生命が2018年4月に20~59歳の有職者1000人を対象に実施した「ビジネスパーソンが抱えるストレスに関する調査」の結果が発表されたが、ほぼ70%の人々が何らかのストレスを抱えており、ストレスのランキングでは、1位「上司との人間関係(38.9%)」、2位「同僚との人間関係(29.0%)」、3位「仕事の内容(27.2%)」、4位「仕事の量が多い(26.8%)」、5位「給与や福利厚生などの待遇面(25.6%)」であった(出典:マイナビニュース 2018年5月16日)。 苦手な上司との「ぎこちないコミュニケーション」は私も経験豊富な方なので、調査結果に共感してしまうが、同時にどれだけの反動形成がストレスを感じている人々の中で起きたのだろう?とそっちの興味も湧く。

   SDGsのテーマである、働き甲斐のある労働環境の実現には、本当の意味での良いコミュニケーションとお互いを多様性を持って受け入れあうことがかかせない。ストレスは決してなくならないが、このストレスといかに付き合っていくかを学ぶためにも、もっともっと自分自身のことを知る機会を増やしていきたいと思う。

   反動形成自体は決して悪いことではなく、単に心が強いストレスを感じた時、自分がそのストレスに押しつぶされないように防衛本能が働いているのであって、あえてコントロールしようとせず、うまく付き合っていく以外にないと個人的には思う。

   チューリッヒの調査では、「独自のストレス発散方法」も同時に聞いている。結果は、1位「美味しい物を食べる(48.4%)」、2位「身体を動かす(34.3%)」、3位「睡眠・休息をとる(33.4%)」、4位「趣味に没頭する(30.9%)」、5位「お酒を飲む(21.9%)」だそうだ。私の場合は趣味に没頭だが、さて皆様のストレス解消法は?

パンチョス萩原