「教育」についての教育 【SDGs 質の高い教育をみんなに】

  「地球上にいる全ての人々が、光の射す明るい道(クリスタルロード)を歩いて欲しい」というビジョンを掲げ、「常識や固定観念をぶっ壊す」ことをミッションとして、「やりたいこと支援」を事業内容としている会社が東京都中央区にある。「株式会社クリスタルロード (Crystalroad Inc.)」だ。今のコロナ禍にあっては、視覚や聴覚など様々な感覚がとても敏感で日常生活に支障が出る、という、いわゆる『感覚過敏』に取り組み、肌に触れないマスクとして「せんすマスク」や、“自分には苦手なニオイ、味、肌触り、光、音があります”、というメッセージを人に伝えるために身に着ける「感覚過敏缶バッジ」を考案し販売している。会社が運営する「感覚過敏研究所」も立ち上げて嗅覚過敏や化学物資過敏症をはじめ、さまざまな感覚過敏に悩む人々のコミュニティーの場をつくっている。「せんすマスク」は先日8月7日のテレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」でも紹介された。
   社長は加藤路瑛(かとうじえい)氏で、現在13歳の現役中学生だ。2018年12月の12歳で起業した。今年3月には“「今」をあきらめない生き方”というタイトルで本も出している(EXODUS出版)。普段は中学校に通っているのため、会社クリスタルロードのHPにある会社情報には電話番号の記載はない。本社の所在地も、“日本橋横山町6-14 日本橋地下実験場”、となっている。
   加藤氏が社長になりたいと思うようになったきっかけは、4歳のときに、お母さんが勤めている会社で大人が働いている姿を目の当たりにし、「かっこいいな」と思ったことだそうだ。その後、おばあさんが営んでいた民宿でお手伝いをしたことも影響を与え、社会に対する興味が沸き、ついに12歳の冬に起業した。法人登記に必要な印鑑証明は満15歳未満にはとれないため、お母さんを代表取締役、加藤氏を取締役社長として、会社の名前も自分の名前である路瑛(じえい)から路(=ロード)瑛(=クリスタル)に由来した「クリスタルロード」にしたという。取締役に名を連ねる布施歩颯(ふせいぶき)氏もプロフィールの記載を見ると、「2003年生まれ、東京都在住、現在中学3年生。小学3年生から不登校になり、現在もフリースクールに通っている、2018年夏、探究学舎の夏のスペシャル講座「経済金融編」に参加し、隣に座った加藤路瑛氏に声をかけられ、取締役に就任する。」とある。一般的に見れば型破りの会社だ。

   クリスタルロードの例で私たちの多くが感じるのは、社長の加藤氏が「中学生」というところだろう。メディアでもそのことが大きく取り上げられている(その点では、2020年8月18日のNIKKEI BUSINESS DAILY企業報道部 鈴木洋介氏による加藤氏へのインタビュー記事、“12歳で起業した社長が語る生き方、「今を諦めない」” は、あくまでも一企業の社長としての事業ビジョンやさまざまなものの考え方などを取り上げているので頭にすっと入る内容である)。「中学生=若いし、社長なんかムリ」、というのは私たちの心に潜む「確証バイアス」だ(確証バイアスについては、8月12日付コラム “自分の中のダイバーシティ”を参照のこと)。海外には小学校や中学校に通いながらYoutuberとなったり、ゲームを開発するプログラマーで活躍したりする人たちは大変多い。日本でも最近は毎週土曜日夜6時56分から放映されている、テレビ朝日『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』で、まさしく「博士」と呼びたくなるような知識や経験を持っているスーパー小学生が登場する。
   加藤氏が会社を通して伝えたいメッセージは、「子供だから、というのはあきらめる理由にはならない」ということだ。加藤氏がまさに挑戦しているのは、この社会的な常識に対する意識改革だと思う。

   画一的な学校での義務教育が普及したのは19世紀後半から20世紀前半だが、子どもが社会で生きていけるようにするための計算や文字、そして集団行動を訓練し、将来工場や会社に適応できるように教えることが、教育の中心課題となった。教育はその時代じだいにおいて、政治的、軍事的な思想を国民に植え付けるような形でなされることも多く、日本でも数年前に「教育勅語」を容認しようと発言した政治家らが「軍事国家への回帰だ」などと批判を受けている。この明治23年に発布された「教育勅語」はまさに天皇から国民へのメッセージであって、私も作家の高橋源一郎さんがツィッターに現代語訳を載せた文章を読んで初めて意味がわかったが、たとえ政治家全員がこの内容を容認したとしても、それに従う国民はほとんどいないと思う。また、現代の日本では文部科学省が施行している「学校教育法」がベースとなり、第一条で定める学校の定義「小学校、中学校、高等学校、大学、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園」についての規則が記されている。よく世間でも話題となる「先生の体罰の禁止」については第十一条に記載されているが、私の読み方が悪いのか、それを破った先生の罰則はどこにも記載がないように思える。どなたか見つけたら教えて頂ければ幸いである。

   話を教育に戻すと、子供たちに画一的かつ強制的に知識や思想を教えることは、子どもの自主性と自発性を尊重することにならない、という考え方が1920年代に起こり、いわゆる「オルタナティブ教育」が台頭した。このオルタナティブ教育とは、皆が同じ勉強をするものではなく、個性に合った多様性を育てる教育で、学校教育法に定められている学校とは内容も様相も違う。「モンテッソーリ教育」や「シュタイナー教育」など一度は耳にしたことがある方々も多いと思う。オルタナティブ教育を創始した人々の目的はただ一つ、「子供たちが一人ひとり幸福になるため」であった。画一的な知識の注入と訓練を行う教育では、個人も幸福になれないし、社会も問題の多いものになると考えた結果の新しい教育への試みである。このオルタナティブ教育を受けた著名人には、例えば、モンテッソーリ教育では、将棋の藤井聡太二冠(棋聖・王位)、ビル・ゲイツ氏、FBのマーク・ザッカーバーグCEOなどで、シュタイナー教育では、俳優の斎藤工さん、児童文学作家のミヒャエル・エンデ氏、女優のサンドラ・ブロックさんなどがいるそうだ。
   子供たちの一人ひとりの大切な個性と人格を尊重し、多様な教育を推進するためのネットワーク「おるたネット(代表 古山 明男)」は、オルタナティブ教育を現代の義務教育に対する教育改革という位置づけに賛同した教育関係者、一般の主婦、企業人などが集まり、自由に教育について語り合い、子供たちを支援している。よりオルタナティブ教育の本質がわかる文章がHPにあるので、そのまま引用させて頂く。“オルタナティブ教育には、ある一つの特徴があります。それは「平和を教える」のではなく「平和に教える」ことです。結論の押しつけ、競争による序列付け、賞罰による動機付けなどを、暴力的なものと見ているのです。平和の礎を、子どもを一人の人間とし て、その尊厳を尊重するところに置こうとしているのです”(引用元:http://altjp.net/classification/article/83?trackback

   SDGsの17目標の4番目にある「質の高い教育をみんなに」には、「2030 年までに、すべての子どもが男女の区別なく、適切かつ効果 的な学習成果をもたらす、無償かつ公正で質の高い初等教育及び中 等教育を修了できるようにする。」というターゲットがあるが、私たちは、まず、「教育とはいったい何を教育すべきなのか?」をしっかりと考え、行動していきたい。

パンチョス萩原