障子(しょうじ)の美学 【SDGs 住みやすい街づくり】

   人口減少に伴い、日本では年々住宅着工が減少し続けている。NRI(野村総合研究所)が今年6月9日発表した、「日本における2020~2040年度の新設住宅着工戸数」によると、90年代には160万戸を超えていた着工数は、2020年はコロナの影響もあり73万戸、そして2040年には41万戸まで減少すると予測している。一般的な在来工法で建てられた木造住宅の耐用年数は、法定では22年であるが、たとえそれ以上に住めたとしても2040年までには建て替える必要が必ず来るはずである。これまでの30年間、毎年100~160万戸ほども建てられてきた住宅が古くなり、建て替え需要があるにも関わらず、これからの20年で年間41万戸まで落ち込むということは、内装だけリフォームすることで何とか対応しようという人が増えているケースだけでは説明は困難である。間違いなく、日本が抱える現実、2017年の時点で既に人口の27.7%が65歳以上の高齢者(総務省調査)のますますの高齢化や少子化が加速しつつ人口が減少していく構造や、生活の多様化で子供が東京などの都心に移動することで親が建てた土地に住み続けることがなくなる場合など、さまざまな要因が重なるのだろう。

   それにしても、時代の流れか、いかにも「昭和らしい家」というのが少なくなった。洋風の外装で一室を畳、障子(しょうじ)、襖(ふすま)などを配置した「和風」にする家が大多数なのではないだろうか。もともと伝統的な和の建築には屋根は瓦、外壁は漆喰、土壁、焼き板などを使用し、内装は湿気をコントロールする木、畳、和紙などの自然素材を用いるエコなものであり、高温多湿な風土に合わせて冬は暖かく、夏は涼しく過ごせるように続き間や縁側などの意匠を凝らして生活の知恵が息づいていた。

   それが時代の流れとともに、コストと機能性を重視するプレハブ住宅メーカーの台頭により、屋根は軽くて耐久性の高いスレートや、セメントに無機物や繊維を混ぜて工場でタイル調や石積み調のデザインで洋風の外観にするサイディングの外壁や、壁の中にグラスウールや発泡ウレタンなどの断熱材をいれ、石膏ボードにクロス貼りする内壁など、日本の住宅の大半は洋風建築に変貌した。また、生活スタイルの変化によるアパートやマンションなどの増加も和建築の減少に拍車をかけている。伝統的な和建築では、大工、左官屋、建具屋などの職人の手が入るためコストも高く、工期も長くなるので、今後さほどの和建築再復興は起きないかもしれないが、たまにはそんな日本のエコな住宅のもつ素晴らしさを再認識してみる機会も良いだろう。

   今日はそんな和建築の建具の一つ、「障子」に注目したい。

   和建築の建具の中でも個人的にエコNo.1として一押しなのが、この障子である。平安時代から今に至るまで、さまざまな形のもの、例えば、最もスタンダードな荒組(あらくみ)障子に始まり、横組(よこぐみ)、横繁(よこしげ)、竪組(たてぐみ)、竪繁(たてしげ)、枡組(ますくみ)、吹寄(ふきよせ)、変組または組子(かわりぐみ・くみこ)、などがあり、機能の分類では、水腰(みずこし)、腰付(こしつき)、雪見または摺上雪見(ゆきみ・すりあげゆきみ)、額入(がくいり)、太鼓(たいこ)、猫間(ねこま)、書院(しょいん)、柳(やなぎ)、夏(なつ)障子などがある。障子は美しいだけでなく、自然光を40~50%の通過性に和らげ、和紙や木枠によって室内の湿度を調節し、ガラスとカーテンの組み合わせよりも断熱性と遮熱性が高い。世界中いろいろな建具があるなかで、はて、出入り用のドアとしての機能、風と採光を調整する窓としての機能、必要な時に目隠しとなる防犯機能、手軽なメンテナンス性などを一度に満たすものが障子以外にあるのだろうか?と思う。また、人に与える心理的な作用も秀逸で、障子は自然素材の木と紙でできているため、癒し効果も高く、仄(ほの)かに香る木の味わいと相まって、心身ともにリラックスできる。私自身が障子で好きなポイントは、ピーンと張っている和紙が背筋を真っすぐに伸ばしたくなる緊張感を与えてくれるところであるが、皆様はいかがだろうか?

   SDGsの17目標の11番目に、「住み続けられるまちづくり」がある。都市の住みやすさといえば、安全性、医療の充実、教育施設、上下水道・電気・ガスなどの生活インフラ、自然など多くの基準が頭に浮かぶ。日本の建築が伝統的な和建築だけであった江戸時代までは、日本人は外壁にガラス戸もなく、障子や障子をはめ込んだ戸で快適に暮らしていた。防犯上もかんぬきや横木だけであった。そこには町に住む人々が、お互いに信頼し合い暮らせる、道徳感と安心感にあふれた人間の絆があった。今日のように、防犯カメラが至るところに配置され、犯罪とセキュリティ対策のイタチごっこを見ていると、どんなに素晴らしい街づくりを進めても、住む人の考え方で街は変わる、ということを改めて感じる。障子が家の中心にあった時代の豊かさ、人の在り方に思いを馳せてみたい。

パンチョス萩原