火災予防の習慣と対策を 【SDGs 災害防止】

   「その火事を 防ぐあなたに 金メダル」 

   明日11月9日から15日まで総務省消防庁が開催する「秋季全国火災予防運動」の今年の標語である。ちなみに11月9日は「119番の日」だ。

   この季節、空気がとても乾燥し、朝晩も非常に冷え込むことから暖房器具の使用を増える。言い換えれば火災が発生しやすい時季を迎える。秋季全国火災予防運動は、一人一人が改めて火災を予防について考え、火災による死傷者の発生や財産の損失を防ぐことために、「119番の日」から一部の地域を除き7日間にわたり実施される。

   日本における「消防」は、市町村により運営されている。全国では726本部、職員数は16万人、消防団員数は83万人という大きな組織である。消防庁は、「消防」組織の本部として役割から、消防職員の技能向上と最新の消防資機材の適所配置を担当する。また、消防職員が安全かつ能率的に業務を遂行できるように環境整備も進めている。

   「消防」を規制する法律は、「消防組織法」であり、市町村の消防の広域化を進め、消防力の強化を図ることを目的としていて、平成18年6月に改正されたものが最新だ。

   「消防」と聞くと、火災の消火活動の消防車や病人や負傷者を搬送する救急車が真っ先に頭に浮かぶ人が多いと思うが、消防庁は英語で“FDMA=Fire and Disaster Management Agency”といい、実際には、「火災と自然災害を管理する」という重要な役割を持っている。

   火災や災害のない平常時には、火災・地震・風水害などによる被害の防止や軽減を図るための消防職員や消防団員の教育訓練、また迅速に組織が運営できるようにするための制度改革などを実施し、万が一火災や自然災害による被害が発生した緊急時には、災害対応の司令塔として、緊急消防援助隊のオペレーションや、官邸、関係府省、地方団体との連絡調整にあたっている。

   「消防」の課題においては、令和に入り、新型コロナの影響で今年は大きく生活様式も変わる以前から、各市町村における消防力の貴重な担い手の消防団員のなり手が減少傾向にあることが言われてきた。これには自営業者の減少とサラリーマンの増加など雇用形態の変化も大きく影響している。この課題に対し、消防庁では、消防団の重要性を人々に認知してもらうための広報活動や、特定の役割や活動に限って消防団員として活躍することができる「機能別団員・機能別分団」制度を導入し、気軽に消防団活動に参加しやすい環境を整備している。

   この秋季全国火災予防運動の期間に、改めて火災や災害時に備えたい。具体的には、燃えやすいものがストープの近くにおかない、ガスコンロをつけっぱなしで場所を離れたりしないなどの火災を防ぐための習慣を持つことだ。また対策として、住宅用火災警報器、防炎材の布団やカーテン、初期消火のための住宅用消火器などの整備、地震火災を防ぐための家具類の転倒防止や安全装置スイッチのある火気器具の使用など、この際に確認しておきたい。また、近隣とのコミュニケーションも大切だ。火災に限らず、地震や台風が発生した場合、近隣の高齢者や体の不自由な人々を守るためにも普段から避難時の協力体制などを整えておくことが大事である。

 

   「その油断、火から炎へ 災いへ」 ――― 「災い」 は、改めて多くの災害が「火」によって発生することを表している漢字だ。火の元には十分に注意して火災予防に努めていきたい。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照・引用

総務省消防庁

https://www.soumu.go.jp/shoubou/

https://www.fdma.go.jp/

暮らしを支える物流 【SDGs 産業】

   東名高速や首都高を夜間走る機会が多いが、印象として6~7割が物流トラックではないかと思う。遠くは鹿児島や北海道ナンバーの大型トラック、背中に「〇〇運送」「●●運輸」などの社名が大きく入っているもの、青や赤のイルミネーションが綺麗なものもあり、夜の高速をそれぞれの目的地を目指して走っている。

   公益社団法人全日本トラック協会によると、日本国内の貨物総輸送量は、年間約48億トンである(平成28年度)。トラック輸送は、道路が整備されている国々においてドアツードアの利便性とフレキシブルな時間調整ができるメリットを生かして、迅速さが求められる物流ニーズにマッチしている。

   コンテナ輸送が主流の船舶や鉄道、または航空機による輸送においても、末端輸送の大半はトラックによる輸送が必要であり、トラックは国内物流において重要かつ中心的な役割となっている。

   現代のトラックの原型が発展したのは戦後自動車の製造を禁じていたGHQがトラックに限って製造の許可を出したことにより、いすゞが戦時中に使用していた軍事用トラックを民間用に改良して量産したディーゼルトラックで、その後1964年の東京オリンピックのために全国に高速道路が建設されるようになり、1970年代以降、日本が大量生産、大量消費時代を突入することにより、トラックによる物流は急激に増えることになる。

   個人が利用する宅配も、近年のネット通販人気の影響で大きく増加している。国土交通省によると、トラックによる宅配便取扱個数は、42億9063万個(2019年度)で、前年比では3002万個の増加であった。今年は新型コロナの影響で経済活動が停滞したので物流扱い量は減っていると推測するが、個人用宅配の需要はニューノーマルなコロナ禍の生活様式の中で今後も伸びると考えられる。

   トラックによる物流が増える中で、大気汚染や交通事故の増加など、自動車社会の問題も表面化し、トラックの排ガス規制も厳しくなった。一層の環境保全の観点から各トラックメーカーが低公害のエンジンの開発や、石油由来のガソリンや軽油の使用を低減するハイブリッドトラック、水素燃料を使用するトラックなども開発中である。

   今や15兆円を超える市場規模となった日本のトラック輸送産業は、私たちの日常生活と経済のライフラインとして欠かすことができない存在である。自然災害の際も、トラックが機動力を発揮し、大量の緊急支援物資を輸送し、国民の「ライフライン=命綱」としての役割も担った。

   しかしながら、トラック輸送会社の99%が中小企業であり、少子高齢化による若年ドライバー不足が深刻であり、今後日本における物流の行く末に大きく影響する社会問題となっている。トラック運送事業者においても自助努力で生産性の向上や、ドライバーにおける働き方改革の推進など、行政と連携しつつ課題解決に向けたさまざまな取り組みを行なっている。

 

   私たちがいつでもスーパーやデパートで欲しいものが買えるのも、自宅に買ったものが届くのも、トラック輸送業者らの絶え間ない努力の賜物であると言っても良いだろう。そんな思いを込めて届けられた生鮮食品、日用品などを私たちも大切に消費していきたい。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照・引用

公益社団法人 全日本トラック協会 日本のトラック

輸送産業 現状と課題 2018

https://www.jta.or.jp/coho/yuso_genjyo/yuso_genjo2018.pdf

国土交通省 物流を取り巻く現状について 2018

https://www.mlit.go.jp/common/001258392.pdf

ガムの偉大な効用【SDGs 心と体の健康】

   「すべての健康は、良く噛んで食べることから」というのは本当らしい。

   歯というのは、歯根膜(しこんまく)というクッションのような器官に埋まっていて、一回噛むごとに30ミクロンほど沈み込むそうだ。その圧力で歯根膜の中にある血液が毎回3.5ml脳に流れるという。この噛むことによる血液ポンプが脳のさまざまな領域(前頭前野、運動野、感覚野、海馬など)を活性化し、記憶力をアップさせ、運動能力の向上にもつながる。また、物事を論理的に考えるのを助けたり、高齢者の認知症予防や集中力・注意力アップにも大いに効果がある。

   良く噛むと、口の中に唾液が多く分泌される。唾液の分泌は消化を助けるほか、味覚、嗅覚、舌ざわりなどの触覚、食べる音の聴覚などが増す。唾液が多くなることで殺菌効果も増し、虫歯になりづらく、口臭予防にもなる。また食事も時間をかけて噛む回数を増やすことで、歯根や顎(あご)を強くすることと、必要以上に食べ過ぎることがなくなるため、ダイエット効果も期待される。

   日本人は昔から魚中心の和食を食べてきたので、噛む回数は多かったが、戦後は日常的な食事へと変わり、あまり食事で噛まなくなった。なので、脳を活性化するためにたくさん噛むようにするには、歯に優しいガムを噛むことが良い、と歯科医も進めている。

   ガムを噛むと、ストレスが減るという。それは、ストレスがあるときに大きく反応する脳の扁桃体(へんとうたい)が、ガムを噛むとその神経活動が抑えられるため、ストレスを感じにくくなる。

     菓子メーカーの「ロッテ」は、もともとチューインガムで創業した会社だが、長年「噛むこと」について研究を重ねてきた。2018年度より「噛むこと」と全身の健康について研究を行う「噛むこと健康研究会」を発足した。この研究会は、歯学のみならず、医学や栄養学、スポーツ学など異分野の研究者が協力して「噛むこと」について多面的に研究する新たな研究プラットフォームである(ロッテ サステナビリティレポートより)。

   日本チューインガム協会でも、「噛むこと」の大切さと現代の子供たちがあまり噛まない(噛めない)食生活を送っている実態をデータで紹介している。また、「咀嚼回数ガイド」で、食品ごとに推奨される噛む回数を表に表している(引用:日本チューインガム協会HPより https://chewing-gum.jp/

    

   とかく歯の健康には気を使いがちであるが、今後は積極的に歯に優しいガムを噛むことで、改めて心と体に良い「たくさん噛む」という習慣を身につけたい。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照 

日本顎咬合学会(にほんがくこうごうがっかい)

https://www.ago.ac/

神奈川県歯科医師会

https://www.dent-kng.or.jp/

農林水産省 SDGs食品産業

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/

ロッテ サステナビリティレポート

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/

緑に染まりゆくEU 【SDGs 気候変動】

   菅内閣が発足し、もうじき2か月になろうとしている。積極的に行政改革を行なう姿勢が多くの人々に評価されているが、確実にこれまでの内閣より一歩踏み込んだのは、10月26日に菅首相が行なった所信表明演説中の「2050年までにカーボンニュートラルを実現を目指す脱炭素宣言」だと思う。

   来年2021年には政府は次期エネルギー基本計画を作成する予定だが、その中ではこの「脱炭素宣言」を受けて、必然的に 「太陽光」や「風力」などによる再生可能エネルギーを主力電源としていく政策をとるに違いない。

   「脱炭素」を進めるためには、言うまでもなく石炭や化石燃料などによる電力エネルギー供給を再生可能エネルギーに変えていかなければならないが、現在、ガソリンや石油由来の燃料をメインに消費している側も代替品に変更していかなればならない。具体的には自動車・トラックや航空機の燃料を電気や水素などに変えていく必要がある。道路や空で排出される温室効果ガスが減少すれば、確実に都市の大気汚染も減り、美味しい空気が増えるはずだ。

   この点、ヨーロッパは一歩も二歩も進んでいるように見える。2019年12月、欧州委員会は気候変動の対策として「欧州グリーンディール」を発表した。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「クライメイト・ニュートラル」を 「雇用を創出しながら」実施していくことを第一の目標に掲げている。平たく言えば、「欧州グリーンディール」は、今後10年ごとにヨーロッパとして喫緊の課題である地球温暖化に対してどのような具体的な対策をしていくか、という戦略であり、社会変革と経済変革を伴いつつ脱炭素社会を実現しようというゴールを持つ。

   欧州委員会の「欧州グリーンディール」政策サイトを拝見すると、非常に細かいレベルまでの数値目標を伴う行動計画が記載されており、 クリーンで循環型経済に移行することや、 生物多様性を回復しつつ汚染を削減すること、環境に優しい技術への投資などは、日本が今後行動していく内容において大いに参考になる。

   さらに、日本が見習うお手本となる動きとしては、「EUタクソノミー」がある。
   

   「EUタクソノミー」とは、簡単に言うとパリ協定とSDGsの目標を確実に達成するための持続可能な金融ならびに金融政策のことだ。「欧州グリーンディール」では「金融そのものを変える」ことを掲げるが、金融の対象となる企業・産業の変革を求めているのみにとどまる。「EUタクソノミー」は、その金融戦略の変革の具体的な手段であると解釈できる。

   実際に「EUタクソノミー」が行なう具体策は、SDGsの目標達成に支援を必要とすべき「グリーンな産業と業種」を分類することである。これによって、投資家の資金と企業の設備投資を「脱炭素化」に集中させる金融戦略が機能することになり、厳正な適格基準を数値化することで、見せかけ(いわゆるグリーンウォッシュ)だけの産業や業種を排除できる。

   例えば、 「EUタクソノミー」では、気候変動の緩和と適応、水資源、サーキュラー・エコノミー、公害防止、生物多様性などの環境目的に対し、いずれかに貢献するだけでは、「グリーンである」とは認定されず、業種別の適格基準値(閾値 いきち)をクリアしなければならず、さらに人権・労働課題を含む「ミニマム・セーフガード」に準拠すべきことが明文化されている。さすが「欧州グリーンディール」よりも数年早く構想が始まっただけあって、目標がきめ細かい。

   今後10年間、すなわち2030年までに 気候変動の課題解決に対するアクションプランはとても多い。しかしながら、これは決してヨーロッパだけの話ではなく、経済的にも政治的にもパートナーシップを組んでいる日本においても同等の水準で活動していくことが求められることになると思う。
   

   日本の脱炭素社会実現のためにも、私たちもヨーロッパのグリーン政策について、もっともっと学び、今後どのように暮らしと社会を変革していくかともに考えていこう。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照

欧州委員会 EU タクソノミー

https://ec.europa.eu/info/business-economy-euro/banking-and-finance/sustainable-finance/eu-taxonomy-sustainable-activities_en

A European Green Deal

https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en

エコに鮮度を保つ箱 【SDGs 工業品】

   最近、近くに総合スーパーマーケットが出来た。1Fにはスーパーとホームセンター、2Fにはドラッグストア、100均ショップ、歯科医院、美容院がある。駐車場も広く、生鮮食品の買い出しついでに日用品もほぼすべて買いそろえることができるので非常に利便性が高い。

   スーパーの生鮮食品も非常に趣向を凝らしている。例えば、鮮魚コーナーには、近海の相模湾で捕れたてのウマヅラハギやマダイ、ヒラメなどが市場で売っているのと同じように魚ごと発泡スチロールに入って売られている。魚をさばける人にとってはさぞかし嬉しい食材である。私自身は切り身や干物コーナーでアジやカマス、サケなどを買う。

   それにしても、主に魚の鮮度を保つのに使われる発泡スチロールの箱には昔から興味があった。造形の美しさもあるが、軽いし、なんといっても保冷性能がすごい。

   発泡スチロールは今から70年前の1950年、ドイツの世界最大の化学メーカーであるBASF社によって発明された。その4年後の1954年に日本への輸入が始まり、1959年から国産化されたらしい。その頃はまだ水産物の梱包や出荷には木箱やコルク材が使用されていたが、価格も安く、断熱性能も格段に高い発泡スチロールが人気となり、瞬く間に普及した。軽くて衝撃にも強いことから、生鮮食品の輸送や保管のみならず、家電やOA機器の緩衝材、住宅建材などにも用途を広げた。

   主に私たちの知っている発泡スチロールは、ビーズ法発泡スチロール(EPS)といって、小さな粒状のポリスチレン(PS)原料ビーズを約50倍に発泡させてつくられる。そのため、製品体積の約98%は空気(原料はわずか2%)なので非常に軽い。また成型も容易であるため、さまざまな形に加工され、幅広く用いられている。発泡スチロールと呼ばれる製品の53%はこのEPSである。

   発泡スチロールは上記のほか、発泡ポリスチレンシート(PSP)があり、いわゆる食品トレーである。また、押出発泡ポリスチレンは板状で、住宅の断熱材や床材などに使われている。全体に占める両者の比率はそれぞれ30%、17%だ。日本におけるこれら発泡スチロールの全体の年間使用量は約13万トンである(経済産業省データ、JEPSA資料)。

   発泡スチロールはリサイクルも容易で、協会(JEPSA)によると、現在ではリサイクル率は90%、燃やしてもダイオキシンを発生させず、環境にも優しいとされている。

   発泡スチロールの高い断熱性能はSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」において、省エネによるCO2削減に大きく貢献している。腐りやすい食品の保管や輸送に電気を使用した冷蔵設備を使わなくてもよかったり、住宅の断熱材として使用することでエアコンの消費電力を抑えることができ、省エネルギー効果を発揮する。また、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」においては、その軽さと衝撃に対する緩衝性能により、労働者の作業軽減に役立っている。

   私たちの暮らしに欠かせない発泡スチロールは非常に身近な存在だが、改めてその性能と省エネ効果に感銘を受けた。せっかく、近くのスーパーがとても新鮮な魚を置いてくれているのだから、いつかまるごと買って自分でさばいてみようと思う。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

発泡スチロール協会(JESPA)

https://www.jepsa.jp/index.html

コロナ禍がもたらす格差 【SDGs 貧困】

   新型コロナによって、新興市場国と発展途上国を中心に貧富の格差が拡大してきた。

   この20年間というもの、経済的に貧しい国々である新興市場国や発展途上国において、多くの貧富の格差改善努力がなされてきた。産業の発展や制度改革などにより、GDPが伸び、寿命も延びてきた。しかしながら、その成果が新型コロナのパンデミックによる影響で一気に帳消しとなるかもしれない事態になっており、さらに一層貧富の差が開きつつある。

   IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し(World Economic Outlook)」の最新版(2020年10月)によれば、コロナ禍により、世界規模で9,000 万人近くの人々が、2020年中に極度の貧困に陥ると予測されている。IMFの今回の予測では、2020年の景気後退については6月の時点で予測したものに比べていくぶん緩やかになっているが、依然深刻であることに変わりないと評価している。主要先進国における第2四半期のGDP実績値も大きくマイナスの結果であったことにも起因した予測である。

   新型コロナのパンデミックは、先進国よりも新興市場国や発展途上国の経済により大きな影響を及ぼす。人々の単位では、感染拡大防止措置によって一番影響を受けるのは、脆弱な労働者と女性である。たとえパンデミックが発生しても在宅勤務さえできればどうにか会社の活動をしていくことが可能だが、現場作業などの低所得労働者が就いている仕事は、在宅勤務をすることが困難である。そのためパンデミックに伴って仕事を失う可能性が高い。言い換えれば、高所得者層の労働者は在宅勤務などで雇用は安定されるケースが多い。

   IMFは、106か国についてコロナ禍にある2020年の所得分配の集約尺度(ジニ係数)と、その変化率を計算している。それによると、ジニ係数が高いほど格差が大きく人口全体の所得に占める高所得層の所得の割合が大きくなるのだが、その分析によれば、新興市場国と発展途上国でジニ係数の平均が42.7に上昇し、リーマンショックが起きた2008年の水準に並ぶことが示された。

   貧富の格差がさらに拡大すれば、ますます経済的に貧しい失業者とその家族が適切な医療や教育も受けられなくなる。さらに十分な栄養のとれる食事やコロナのワクチンも手に入れることが困難となり、生活自体が困窮してしまうばかりか、最悪の場合生きていくのも大変な状況になる。早急に失業保険の受給資格の緩和や金融緩和措置などによる資金的支援などを新興市場国や発展途上国に講じてゆく必要がある。

   世界に目を向けなくとも、日本国内においてコロナ禍がもたらしている失業の状況は深刻だ。総務省が10月にまとめた8月の完全失業率は3%、206万人を超えた。うち、39万人もの人が会社や勤め先の都合による失職である。中でも宿泊・飲食サービス業の落ち込みが著しい。また、生活に困った外国人労働者たちの家畜窃盗事件も起きている。

   日本、世界において、ますます経済的格差が拡がるリスクが足元にある中で、「誰一人も取り残さない」持続可能な対策を早急に各国が連携して実施していく必要がある。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照・出典:

IMF(国際通貨基金)

https://www.imf.org/ja/News/Articles/2020/10/29/blog-how-covid-19-will-increase-inequality-in-emerging-markets-and-developing-economies

日本経済新聞 2020年10月2日記事

「完全失業率3.0%に悪化、求人倍率1.04倍に低下 8月統計」より

Dog Star【SDGs 天体】

   「ミト!シリウスに向かって飛べ!」

   子供を人間にさらわれた王蟲(オウム)の大群が風の谷に怒り狂って突進する上空で、ガンシップを操縦する忠臣ミトに対して命じたナウシカのセリフだ。映画の中ではスピード感溢れる壮大なスペクタクルシーンであった(1984年 風の谷のナウシカ 宮崎駿監督)。

   「シリウス」は、おおいぬ座にひときわ青白い色で輝く、地球から見える21個の1等星の中で最も明るい星で、今の時期空が晴れていれば誰にでもすぐに見つけられる。地球から8.6光年離れているが、太陽の14倍の明るさを持ち、恒星の中では地球の近くに存在しているため、土星より明るく見える。冬の大三角形の1つで、あとの2つはオリオン座のペテルギウス、小犬座のプロキオンである。

   古代より「シリウス」は重要な星であった。紀元前3000年前のエジプト文明では、ナイル川が上流の肥沃な土砂を運んできたおかげで農耕文化が始まったが、1年に一度だけ決まった時期にナイル川が氾濫した。当時の人たちは、明け方前に東の空に「シリウス」が輝き始める日(夏至の頃)をナイル川が氾濫する時期と重なることに気づき、氾濫を予測し、農耕を守ることが出来たのである。そして「シリウス」が明け方前に輝き始める日を新年とした。これが世界最古の太陽暦となった。「シリウス」などの星の観測をもとに古代エジプト人が算出した1年の長さは、365.1428日ということで、現在のグレゴリオ暦における365.2425日とくらべても、ほぼ遜色のない精度である。

   ちなみに「シリウス」の意味は「灼熱」で、1年が始まる夏至の頃から暑い日々が始まることに由来しているらしい。また英語ではおおいぬ座に存在していることから「Dog Star」と呼ばれる。日本で丑(うし)の日に鰻を食べる夏の土用を盛夏を表す「Dog days」と英訳することがあるが、これも「Dog Star」、すなわち「シリウス」が東から上り始める時期ということに関係している。7月と8月の暑い時期に「シリウス」と太陽が共に東の空から現れるため、「Dog Starは太陽の炎に向かって吠え,太陽の暑さを2倍にする」と言われてきた。冬の空に輝く星である「シリウス」にこんな暑いイメージがあるとは知らなかった。

   ポリネシアでは、南にひときわ輝く「シリウス」が島々の真上を通ることを知っていて、まだ羅針盤などない太古の昔から、航海をする時に利用していた。天文学や宗教の世界でも「シリウス」は研究や崇拝の対象となり、歴史の中でも大きな影響を及ぼしてきた。また、歴史上の神話や文学、芸術に至るまでこの星は多く登場し、世界中の文化に溶け込んできた。

   月も太陽も北極星も確かに人々の暮らしに大きな影響を与えてきたが、「シリウス」も負けないほど人々の住みやすい暮らしに貢献し続けてきた「SDGsの星」である。

    

   空気が澄んで星空が眺めやすくなった。長い歴史の中で、世界中の多くの人々の生活の中に溶け込み、自然災害から生活を守り、学問の発達や航海術に寄与してきた全天で一番光り輝いている「シリウス」を南の空にぜひ見つけて眺めて頂きたい。きっと遥かナイル川からポリネシア、ひいては風の谷にまで思いを馳せ、ロマンチックな気分になれるにちがいない。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

日本一輝く街 御徒町 【SDGs 街の形成と産業】

   今日から11月である。自分の誕生月でもあるので何故か感慨深い。立冬を迎え、木枯らしも吹き始め、赤や黄色に染まった落ち葉が舞い落ちる風情もこの季節ならではのものだ。道端や公園の花もコスモス、リンドウ、バラ、ケイトウなどからポインセチア、カランコエ、ツバキ、ヒイラギ、コウテイダリアに変わっていく。

   月が替わると誕生石も替わる。誕生石は各国によって違うが、日本における誕生石は21種類ある(下段参照)。日本で11月の誕生石はトパーズ(黄玉)とシトリン(黄水晶)だ。個人的には全く生活の中でなじみのない宝石であり、所有したこともないが、宝石や天然石は長い年月をかけて自然が作り上げたもので何やら神秘的なパワーがある感じもするし、すべて一点ものでブレスレットやペンダントなどのアクセサリーとしてファッションにも欠かせないのは確かである。

   宝石などの宝飾品を扱う問屋が日本で一番多く密集しているのは、東京都台東区の御徒町(おかちまち)だ。御徒町の名前は、江戸時代に将軍が外出する際に、馬などに騎乗することが許されず徒歩でお供する下級武士である御徒士組(おかちぐみ、または御徒衆(おかちしゅう))に由来する。その御徒士組の屋敷や長屋が御徒町一帯にたくさんあった。

   江戸中期、この御徒士組は幕臣の中でも下級の武士だったため、ときに生活が苦しく、さまざまな内職をしていた。有名な内職としては朝顔の栽培もあったが、いつしか近くの上野寛永寺、浅草寺などの寺社のために仏具や銀器の飾りをつくる職人となっていく。また、台東区には古くは浅草、吉原、柳橋、黒門町、湯島、根津などの色街が多くあり、かんざしや帯留めなどの小物を制作する職人も増え始めた。やがて明治中頃になると、指輪の製作・加工業者が多くなり、宝飾品の扱いも増えていく。そして型を使用した量産技術が生まれると、御徒町は宝飾品を制作・輸入して販売するビジネスで一気に知名度を上げてきた。

   第二次大戦後には、上野界隈のアメ横に闇市が生まれ、米軍の兵士たちが時計やアクセサリーなどを売りはじめた。御徒町はアメ横のアクセサリーの修理を行なったり仲買機能を果たす場所となり、1964年(昭和39年)からは時計・宝飾業者同士の商品交換市も行われるようになって、宝飾品に加え貴金属を扱う店も軒を連ね、日本で最大の宝飾品問屋街となったのである。

   古くから宝飾品を扱ってきた御徒町にもSDGsの活動を営むお店も増えている。環境に配慮して持続可能な形で倫理的に宝飾品を消費することを意味する「エシカル・ジュエリー(ethical jewelry)」や「サステイナブル・ジュエリー(sustainable jewelry)」と呼ばれる概念が近年SDGsの波の中で台頭してきた。

   例えば、ダイヤモンドや貴重な天然石は、アフリカなど内戦が続いている地域での軍事資金獲得目的で不当な値で取引され、採掘の労働者たちは過酷な条件かつ低賃金で働かされたり、子供も働かされたりしている。また、採掘のために森林伐採や深く掘り下げることによる地下資源への影響などもある。こうした中、天然ダイヤモンドと何ひとつ成分的にも変わらず、自然環境も守ることができる人工ダイヤモンドは注目されている。人工ダイヤモンドを積極的に使用することにより社会的な課題の解決につながるため、エシカル消費者から多くの支持を得ている。

   また別のSDGsの取組と同時にESGにも力を入れている会社も多い。コンプライアンスを守りつつ現地の宝石生産者、輸入会社とのパートナーシップを強化して品質の維持や正しい利益分配に心がけたり、偽物などを排除したりする働きかけを非営利団体のRJC(責任ある宝飾品協会)が率先して行なっている。今では宝飾品問屋の多くのお店は独自のSDGsへの取組などをHPに記載するようになった。

 

   日本一の規模を誇る宝飾品・貴金属の問屋街である御徒町は、取り扱う宝飾品の輝きだけでなく、社会課題への解決に向けた取組姿勢においてもまばゆい輝きを増しているのである。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照

JTOジュエリータウンおかちまちHP

https://jto-net.com/about/page_04.php

RJC(Responsible Jewellery Council:責任あるジュエリー協議会)

https://note.com/jewelryandlaw/n/nee5f34430f2b

日本における誕生石一覧

1月 ガーネット(柘榴石)、2月 アメシスト(紫水晶)、3月 アクアマリン(藍玉) コーラル(珊瑚)ブラッドストーン(血玉)、4月 ダイヤモンド(金剛石)、5月 エメラルド(翠玉、緑玉) ジェイド(翡翠)、6月 パール(真珠) ムーンストーン(月長石)、7月 ルビー(紅玉)、8月 ペリドット(橄欖石) サードニックス(紅縞瑪瑙)、9月 サファイア(青玉)、10月 オパール(蛋白石) トルマリン(電気石)、11月 トパーズ(黄玉) シトリン(黄水晶)、12月 ターコイズ(トルコ石) ラピスラズリ(瑠璃、青金石) タンザナイト(灰簾石)

HalloweenとSDGs 【SDGs 文化】

   今日は10月31日、Halloween(ハロウィーン)である。今年は46年ぶりに十五夜の満月とHalloweenが同じ日になるそうだ。

   Halloweenの起源は、現在のアイルランド、英国、フランス北部地域に2000年前に暮らしていた古代ケルト人まで遡る。古代ケルトでは11月1日が新年で、前夜の10月31日(AllHallows Eve)から、秋の収穫物を集めた盛大な祭りである「サムハイン(=種まき)」が開かれていた。新年の前夜に、生者と死者の世界の境界が曖昧になって、先祖の霊が戻ってくると信じられていたらしい。

   その後、ローマ帝国やキリスト教の祭りと合わさって、聖なる焚き火やパレード、聖人、天使、悪魔などの衣装を着て、祭りを祝ったものが、現在の仮装パーティに名残を残して世界中でお祝いされている。

   日本でのHalloweenにおける経済効果は、2018年には1240億円であった(一般社団法人日本記念日協会)。この数字は2019年のバレンタインの経済効果の1260億円を見ても、ほとんどバレンタインと同じくらいに日本中に定着していることがわかる。

   “Trick or Treat(お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ)”というセリフは子供がHalloweenの期間中にお菓子をもらい歩く時の決まり文句だ。最近では子供たちに単にお菓子を配るだけでなく、子供たちを中心にお菓子教室を開いたり、ゴミ問題や環境について子供たちと考える機会を設けたりするイベントも各地で広まっている。また、仮装イベントや商店街のHalloweenセールなどの町おこしも訪れる人々と地元住民とのコミュニケーションや地域経済活性化につながっている。

   Halloweenの仮装文化とSDGs活動を融合させたユニークなものもある。昨年の事例では、新潟青年会議所が、「エキナンハロウィンTRICK OR SDGs」と名付けた市民参加型事業を企画し、新潟駅南口の中央広場を貸切って有名人を含む300名のコスプレイヤーとゆるキャラ、そのほか仮装した市民が大集合した。飲食ブースも多数出店したり、夜にはイルミネーションで会場が華やかに演出されるなど大盛況であった。今年は新型コロナの影響で各地で大きなイベントは控えざるを得ず、とても残念ではある。

   本来は収穫を祝ったり、先祖に感謝し死者の魂を弔ったりすることがHalloweenの目的なのだが、起源やこの祭りの意味も知られないまま日本で急速に広まったため、人々はただ仮装してどんちゃん騒ぎをする催しとなってしまった感じがある。渋谷での人がごった返す中でごみを散らかし放題にするといったマナーの悪さや、酒に酔った若者が軽トラックを横転させたり、暴行や痴漢行為、ひいては窃盗まで行なったりすれば、こちらは立派な犯罪行為となってしまったため、過去には逮捕者も出た。楽しく盛り上がることは多いに良いことだが、マナーをきちんと守り、住んでいる人々の町を決して汚さず、ごみは持ち帰るなどの心得は本当に大事なことである。

   楽しく身近な人たちとHalloweenをお祝いしつつ、世界的なSDGsの課題も考えてみてはいかがだろうか? SDGsの17目標のアイコンのHalloweenバージョンがあるのでご紹介しておきたい。万が一2030年までにSDGsの目標が達成できなかった場合の世界がデザインされているところがユーモアがあって面白い。

(出典:UNIVERSAL POSTAL UNION 万国郵便連合https://twitter.com/UPU_UN/status/1189953957864648705/photo/1

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

参照:

History.com

https://www.nvcb.or.jp/eventcalendar/000935.html

新潟市公式観光情報サイト エキナンハロウィン

https://www.nvcb.or.jp/eventcalendar/000935.html

スマート農業がつくる未来 【SDGs イノベーション 高齢化対策】

   毎年、秋になると新米が出荷され、店頭に並びはじめる。今年もその季節がやってきた。

   農業の発展に大きく影響するのは、農地面積と労働力である。日本における15歳以上の産業別就業者数は、平成30年で6664万人であるが、うち農業従事者は203万人で、全就業者の3%足らずである。最近農業の後継者不足で、高齢化が一段と加速しており、現在農業を営む労働者の70%が60歳を超えている(一般社団法人 農協協会)。

   今後さらに農業における高齢化が進めば、日本の自給率にも大きくマイナスとなることは必至だ。しかしながら、農業の現場では、依然として熟練の作業者による手作業でなければできない作業も多く、人手の確保、省力化や重労働などの軽減が深刻な課題となっている。

   そんな高齢化対策として、「スマート農業」がいま脚光を浴び始めた。平たく言えば、最先端技術を用いて農作物の収穫率アップと労働力不足の解消を目指す農業のことである。

   「スマート農業」として代表的なものは4つある。

   1つ目は「農業用ドローン」による肥料・農薬散布や、高精度カメラや多様なセンサーを搭載しての作物の生育状況のモニタリングなどに用いられている。

   2つ目は「Cloud:クラウド」や「ICT:情報通信技術」、「IoT:Internet of Things」によるデータ活用だ。例えば圃場(ほじょう:農産物を育てる場所)や畑に設置したセンサーやカメラにより、日々の温度や湿度などのデータをインターネット経由でクラウドに保存しておき、スマホやPCから水や肥料を供給する機器をコントロールしたりできるようになる。

   3つ目は「AI」技術により、野菜の色や形状などから収穫時期を計算したり、害虫がいる場所を画像認識技術で特定したりできる。また、気温や湿度などによって、作物ごとに最適な環境づくりができるようになる。

   4つ目は「農業ロボット」である。力のいる仕事や繊細な作業をこなすロボットを導入し、労働力不足と生産性向上に役立てる。ロボットトラクタや自動田植機、自動給水システムや自動給水システムのような無人で畑や田んぼを耕したり、収穫を行なったり、作物を自動制御でコントロールできる幅広いロボットの活用も検討されている。

   「スマート農業」は農地不足や生産者不足への対応として最先端技術を用いるものだが、自然災害や害虫の被害などに強い農作物の品種改良は、これまで通り、何世代もの交配、または育種を行うことで対応している。この交配や育種は、アメリカ・モンサント社などが進めてきた「遺伝子組み換え」とは自然の力で突然変異させるか、人工的に行なうかという差はあるが、どちらも農地や労働力の課題には解決策を与えていない。

   食の安全を守りつつ、価格も抑えて低農薬・高品質の美味しい農作物が食べられるようにするには、農業の保護と同時にイノベーションがかかせない。「スマート農業」の導入によって、農作物の生産が安全かつ効率的に行なわれ、高齢化による労働力不足も解消でき、次世代の若者たちにも農業技術を継承していければ、日本の自給率維持にも大きな支えとなるものである。

  

  スマート農業がつくる未来を待ち望んでいる。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照:

農林水産省

「スマート農業の展開について」

https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/index-110.pdf

「農業用ドローンの普及に向けて」

https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/pdf/hukyuukeikaku.pdf