ビッグマックとトール・ラテ 【SDGs 経済】

   以前、よく海外出張に出かけていた頃、出張先での食事はもっぱらファストフード店で済ますことが多かった。広州白雲(バイユン)国際空港のBurger Kingや、パリのルナール通り沿いのマクドナルドなど、現地のレストランに一人で入る緊張感が苦手な私にとって、日本でも食べ慣れてハズレがないハンバーガーを食べようという戦略であった。ところが、アヴィニョン(フランス南部の町)のレピュブリック通りのマクドナルドでビッグマックを頼んだ時に、店員から「サラダはいるか?」と聞かれ、「ノン(いいえ)」と言って待つこと5分で出てきたビッグマックにはビーフパティが2枚でレタスもトマトもピクルスも何も野菜のたぐいが入っていなかった。おそらく何かを聞き間違えたのだろう。いい思い出である。

   経済学に「ビッグマック指数」というものがある。マクドナルドが世界100か国以上、37000店舗以上あることを利用して、国ごとのビッグマックの価格を米国での価格と比較することで、それらの国の通貨が現在の為替レートで高いのか安いのか(過大評価されているか、過小評価されているか)を把握するために考案された経済指標のことだ。前提として、自由な市場経済において「同一市場の」「同一時点における」「同一の商品」は「同一の価格」であるという「一物一価の法則」に基づいているのだが、簡単に言うと、それぞれの国で全く同じ製品が売られている場合、「価格は全部同じ」、という考え方のことだ。ただ、国ごとに通貨が違うので、例えば、日本ではビッグマックが2020年8月現在390円であるが、アメリカでは5ドル26セントだ。この2国間のビッグマック価格を比較してみよう。計算式は、390円/5.26=74.14円となる。この結果、現在の日本円が対ドル105円であれば、「1ドル=105円は74円になるべきだ。なのでますます円高になるだろう」、と予測されるのである。逆に日本でビッグマックが600円ならば、600円/5.26=114.07円となり、「現在の為替レート105円は本当は114円であるのが妥当なので、これからは円安になっていくだろう」、という予測となる。この「ビッグマック指数」は、イギリスの経済誌「エコノミスト」が毎年2回発表している。注意しなければならないのは、ビッグマックは、どの国でも販売していても消費税率が異なったり、人件費が高い国や安い国での価格への調整が入ったりするので、必ずしも米国のビッグマックとの値段比較でその国の為替レートの先行きが完全に決まるものでない。最近は、より比較がしやすいスターバックスの製品を用いた「トール・ラテ指数」が登場した。さらにアップル社の「iPod指数」もある。どれも世界各国で売られているために比較がしやすく、参考にはなるが、為替レートを正確に予測できるツールではない。

   いずれにせよ、これらの経済指標は、「各国通貨における為替レートが長期的にどのように決定されるのか?」ということを2国間で売られている同じ製品をその国の通貨換算の価格で比較することで決定づけようと試みたものである。この理論を唱えたのは、スウェーデンの経済学者カール・グスタフ・カッセル氏であり、「購買力平価(またはPPP=Purchasing Power Parity)説」と名付けられた。この「購買力平価」は国ごとの同一製品・同一サービスの値段は同じ、という概念でなりたっているので、この理論を利用し、現在では為替レートの比較分析のみならず、公益財団法人日本生産性本部が、時間当たりの労働生産性を国別に比較したり、国際通貨基金(IMF)などが世界各国の名目GDPを購買力平価ベースで再評価したりするのに利用している。

   2020年5月19日、世界銀行が、「国際比較プログラム=International Comparison Program (ICP)」において、国による生活費の違いを反映した2017年の購買力平価(PPP)を発表した。ちなみに、このICPは世界最大規模の統計事業であり、国連統計委員会の支援の下で、世界銀行が調整を担当しており、50年を超えるICPの歴史において、9回目の比較調査となった今回のICPラウンドは、2017年を基準年として176カ国の参加を得て実施された、世界経済の動向が非常にわかるものとして高い評価を得ている。

   その調査結果によると、 新たな購買力平価(PPP)で測定した2017年の世界経済の規模は120兆ドル弱となり、経済活動全体の半分以上が低・中所得国で行われたことを明らかにした。世界人口の17%を占める高所得国がPPPベースの世界の国内総生産(GDP)に占める割合は49%だった。この割合は、世界人口の36%を占める上位中所得国では34%、世界人口の40%を占める下位中所得国では16%、世界人口の8%を占める低所得国では1%未満だった。2017年にPPPベースのGDPが最も大きかった国は中国と米国であり、いずれも20兆ドル弱だった。この2カ国で世界経済の3分の1を占めた。”。(引用:世界銀行HP https://www.worldbank.org/ja/news/press-release/2020/05/19/new-purchasing-power-parities-show-low-and-middle-income-economies-account-for-half-of-the-global-economy

   上記を読んだだけでは、たくさんの数字の羅列や、難解な言葉だらけで何のことだかわからない気もするが、要するに、2017年では、世界経済の規模が日本円で1京2600兆円(京は兆のひとつ上の単位)で、人口が世界の17%である高所得の国が世界経済活動の49%を占め、残りの人口83%を占める低・中所得の国々が51%の経済活動を行なった(中でも人口8%を占める低所得国は世界全体の1%にも満たない水準であった)、ということで、世界における富める国と貧しい国における経済格差が浮き彫りとなった形だ。そして、この調査結果をもとに、貧富の格差を埋めるための努力が国連を中心として世界中で行なわれているのである。

   購買力平価で再評価された、さまざまな経済の指標を見ていると、円という通貨が持つ価値、日本の経済活動規模などの姿が世界との比較の中で正しい形で見えてくる。見方によっては、各国の生活感も見えてくるので大変勉強になる。

   最近はマックやスタバにもあまり行っていない。久しぶりに世界経済を占う主役のビッグマックやトール・ラテを注文しに足を伸ばしてみたくなった。

パンチョス萩原

ESGラジオの収録

本企画は、ESGに関するニュースを取り上げて
心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく語る
という、カジュアルなトーク番組です。

ニュースを読むだけではわかりづらい用語や構造を
たとえ話も交えながらやさしく解説します。

ESGに因んだ川柳も披露します!

近日公開予定です。

ノスタルジックを未来へ 【SDGs ふれあい まちづくり】

   今の小学生のおよそ3分の2は、学校帰りに塾や習い事に通っているそうだ(2019年NTTコムリサーチ調査)。塾に通わず友達と遊ぶにしても、自宅にそれぞれ帰ってから対戦型のオンラインゲームなどにアクセスして遊ぶのだということを聞いた。私の幼いころなどは公園で野球か、友達の家に上がり込んで少年チャンピオンや永井豪などの漫画本を読むか、ほとんど毎日そんな感じであった。決まって公園や友達の家に行く前に集合場所となるのが、近所の駄菓子屋だった。友達は、よっちゃんいかやカレーあられ、チーズあられ、ヨーグル、餅太郎などを専ら好んでいたが、私はほぼ、きなこ飴→糸ひきあめ(フルーツ引き)→くじ付きの玉ガム(ボタンを押して出た玉ガムの色により当たりがあるくじ)のローテーションであった。今ではスーパーの一角に駄菓子コーナーがあったり、ショッピングモールにたまに駄菓子ショップがあるのを見かけるが、あの昭和のノスタルジックな駄菓子屋は随分と姿を消した。

   経済産業省の商業統計によると、駄菓子屋などが該当する「菓子小売業(製造小売を除く)」では、30年ほど前には7万件くらいあった事業所が、2016年は1万6千件ほどになったという。時代の流れと後継者事情があるのだろう。

   「駄菓子」という言葉が生まれたのは江戸時代だそうで、庶民には手の届かない白砂糖で作られた高級な「上菓子」に対し、麦・ひえ・あわ・豆・くず米などに飴(あめ)や黒砂糖などをあしらって作った安価で大衆的な菓子のことを「駄菓子」と呼んだ(駄菓子辞典HP)。町内警備をする「自身番」の詰所が副業で草鞋(わらじ)や蝋燭(ろうそく)などを売るついでに安い菓子を売ったことから「番太郎菓子」、また値段が一文で買えることから「一文菓子」などとも呼ばれたそうだ。

   現在、スーパーやコンビニなどで見かける駄菓子は、明治時代から戦後に発達したものがほとんどで、加工技術や包装技術の発展、また食品衛生法などで原材料や着色料が昭和に入り改良されて種類も豊富となった。さすがにグッピーラムネやマルカワガムは私の子供時代の5円ではないが、それでも30円程度でまだ駄菓子が1つ買えるものもある。値段は物価もあるが、最近ではパッケージに子供に人気のスポーツ選手やアニメキャラクターを使用するためか、そういった意味で駄菓子は100円ショップに売られている通常のお菓子とあまり変わらない値段のものも多くなった。

   流通経路から見ると、昭和期には店頭に10円で遊べる電子ゲームや縁側を並べた駄菓子屋などが全国の街角に見られ、駄菓子といえば駄菓子屋しかなかったのだが、一時代を築いていたそんな駄菓子屋は現代のサプライチェーンからは遠ざかり、近年はコンビニや大型ショッピングセンター、スーパーマーケット、菓子専門店チェーンなどで販売されるようになった。駄菓子の製造業者である、株式会社やおきん、丸川製菓株式会社、よっちゃん食品工業株式会社、オリオン株式会社、チロルチョコ株式会社などは今も健在である。製造メーカー側や問屋側からすれば、駄菓子屋は少なくなり、コンビニや大手スーパーへ駄菓子市場が移ったことで、配送効率は上がり、物流コスト的には現在の方が良いのかもしれない。

   とはいうものの、製造機械の劣化や、高価なスナック菓子や洋菓子、さらには高齢化によるせんべいや和菓子への移行などでどの駄菓子製造メーカーも苦戦している。タバコ型の砂糖菓子「ココアシガレット」で有名なオリオン株式会社は、シリーズの新商品として2018年に大人向けの「マイコス(myCOS)」を発売するなど、時代に即したチャレンジをしている会社もある。「マイコス」という商品名は電子タバコが由来で、フレーバーはメンソールさながらの「脳天直撃ミント味」。外箱には「マイコス」にちなんでか「舞子」のイラストに「2011年からオリオンはあなたの禁煙を応援します」と書かれている。

   駄菓子屋の衰退は、店主の高齢化や都市開発による区画整理など、さまざまな要因が考えられるが、一番は現代の子供たちの遊びの選択肢が多様化したことなのではないだろうか。私の頃のように駄菓子屋に集まること自体が遊びの一環であった時代が、今はオンラインゲーム機やスマホで個人で遊ぶような文化も醸成されている。また、商品に記載されたバーコードの読み取りなどのレジに対応したり、コストをかけて電子マネー決済を進めることも駄菓子屋には困難な要因になっていると思う。

   昭和の子供たちは、駄菓子屋に集まり、ああだこうだと知らない近所の子供や友達の兄弟たちとのコミュニケーションを通じて、その地域の素晴らしい子供ネットワークを作っていた。子供たちの間でもSNSでのバーチャルな付き合いがリアルな生活の一部である現代において、駄菓子屋のような存在はコミュニケーションを多様化する一つの素晴らしいツールになり、SDGsの目指す「住みよいまちづくり」に大きく貢献するものと信じている。駄菓子屋の復興が来る日を心待ちにしている。

パンチョス萩原

人生100年 【SDGs 超高齢化】

   2017年9月11日、首相官邸の4階大会議室で、『ライフシフト』や『ワークシフト』などの著書でも知られるロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏ら13名の有識者を招いて、第一回目の「人生100年時代構想会議」が開催された。議長は安倍総理、議長代理は茂木人づくり革命担当大臣(当時は経済財政再生担当大臣と兼務)、そして構成員には麻生副総理や菅内閣官房長官をはじめ、当時の文部科学大臣、女性活躍担当大臣、一億総活躍担当大臣、経済産業大臣など錚々(そうそう)たる顔ぶれであった。

   会議のテーマは、世界一の長寿国である日本において、超長寿社会の新しいロールモデルを構築するための取組について、また超長寿社会において、人々がどのように活力をもって時代を生き抜いていくか、そのための経済・社会システムはどうあるべきなのかを議論し、政府が今後4年間に実行していく政策のグランドデザインを検討することであった。この「人生100年時代構想会議」については首相官邸の政策会議HP上で、2018年6月までに9回にわたって開催された議事録と配布資料が掲載されている。

   会議の中では「リカレント教育の実現」というのがキーワードとして出ていた。リカレント(Recurrent)は、「再発」とか「回帰」とか言う意味だが、ほとんどの人々が義務教育または基礎教育を終えた後、就職や社会に出てしまえば、極端に勉強の機会が減っている現状の中で、生涯にわたって労働と教育を交互に行うという教育システムを国としても考えていこう、という発想である。言い換えれば、これまで「教育」→「仕事」→「引退」という3つのステージで括(くく)っていた人生を、「教育」―「探求」―「会社勤め」ー「組織にとらわれない雇用の在り方」―「仕事とさまざまな活動の組み合わせ」などの繰り返し→「引退」というマルチステージの人生にしましょう、ということだ。

   こうした社会的システムの構築により、超高齢化社会にあっても、シニアの人々も、生きがいを持ってと労働や社会活動を生涯つづけることができ、ひいては少子化による人口減少の中で労働人口の激減も防止していくメリットが生まれる。

   WHO(世界保健機関)では、「65歳以上」の人のことを「高齢者」と定義している。65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としている。しかしながら現実には今の65歳の方々は本当に若々しく見えるし、昔のような「老いぼれ」というイメージの欠片もない。雇用面では日本では2013年の改正高年齢者雇用安定法により、60歳の定年制度がある会社でも、希望すれば65歳まで働けるようになり、2025年には全企業に適用される見込みだ。来年2021年4月には、さらにこの法律が改正されて、企業が70歳まで雇用を継続する努力することや、定年制度を廃止し、生涯働けるような体制を整備することを盛り込むことが決定している。いずれ70歳定年になる日がくるかもしれないが、年金を受け取れる年齢もどんどん高くなっていくことになる。

   超高齢化者の課題は、こうした雇用安定だけではなく、人間が年を重ねることで必然的におこる肉体の衰えやさまざまな病気、心理的変化、生活環境な変化などがある。高齢化がマイナスのイメージで捉えられがちな傾向もあるが、一方でクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の観点からのサクセスフル・エイジング、長寿時代の豊かな社会を実現するための研究も進んでおり、医学、心理学、生理学などの自然科学から経済学、社会学、社会福祉学、教育学、法学などの社会科学、ひいては理工学まで、幅広い分野を総合的学問体系とした「ジェロントロジー」が生まれた。これは老年学、加齢学とも言われるもので、日本は欧米に比べるとスタートが遅かったが、東京大学高齢社会総合研究機構や桜美林大学大学院老年学研究科では老年学専攻の博士前期課程と博士後期課程も設けられている。

   もともと「ジェロントロジー」は、発達心理学(人間の一生における心と体の成長やその発達の過程を研究する学問)が発展したものであるが、第2次世界大戦後から高齢化社会が進行した欧米先進諸国で、早くから生理的老化の原因解明や寿命をどこまで伸ばせるかといった老年医学や、高齢化が医療や福祉などの社会制度や経済にどのような影響を及ぼすかといった社会科学がテーマであった。日本でも高齢化の急速な進行に伴って、現在では大学や企業の間でジェロントロジーの学科や講座、研究機関を設置する動きがさかんになってきている。日本産業ジェロントロジー協会による産業分野に特化した活動であったり、ジェロントロジーコンサルティング会社による人事部門や経営者層向けセミナーやマネジメント研修などが台頭し始めた。今年6月にはシニア層向け人材派遣会社のキャリア(マザーズ上場)が東京大学と新たなシニア向けサービスに向けた共同研究を開始すると発表したとたんに株価が大幅に上がった。 

   いかなる人も老いは避けられない。一人ひとりが現在生きている時代をどのように元気で乗り切り、最後に「生き切った人生」と振り返りつつ終焉を迎えるか、何十年生きたか、ではなく、いかに人生を生きたかという「人生の質」が重要である。今日という日が自分の人生では一番若い日だ。何だってやってやる!という希望とチャレンジ精神で溢れる毎日を積み重ねていこう。

パンチョス萩原

Ecology (エコロジー) 【SDGs 環境保護】

   日本語というのは時代とともに移り変わり、昔と今では同じ言葉でも違う意味になるものがある。例えば、「情けは人のためならず」は現代では「人に親切にすることは必ずしもその人のためにならないこと」だが、昔は「人に親切にすると、それが回りまわって自分のところに帰ってくる」という意味だった。「役不足」も「自分には到底できそうもないこと」の意味で使われることも多いが、本来は、「与えられた役目が自分の実力よりはるかに低いこと」である。後者の場合、正しくは「力不足」だが、いつの頃からか人々の中で別の意味で使われるようになった。言葉は進化していくものなのだろう。

   「エコロジー」という言葉も、元は「生態学」という、生態系、生物の個体、集団の生活、他の生物や環境とのかかわり合いを研究する学問のことであったが、現代では「環境に配慮した、環境に優しい、エコな」など、自然環境を保護する活動や、環境負荷の少ない原材料や製法で作った製品のことを指すようになった。環境問題や公害対策などで、生態系に及ぼす影響を考える時に生態学が応用されたことから、いつの間にか広い意味で環境全般の言葉を持つようになったのだと思う。Googleで「エコロジー」という言葉で検索してみると、0.35秒で17,800,000件がヒットし、「エコロジーとは生態学」のことだ、という定義が解説してあるサイトがまず現れる。しかし、続けて画像検索してみると、ほとんどが森や植物、もしくは透明感のある緑色の環境保護を謳ったサイトが画面に現れる。画像では生態学のイメージは皆目見当たらないところはとても興味深い。これから先は、「エコロジー=環境に優しい」でいこう。

   さて、環境保護では、環境省が「環境基本法」を制定し、その法律に基づいて、毎年、「環境・循環型社会・生物多様性白書」を編纂している。この白書さえ読めば、世にあるSDGsの環境に関する書物を買う必要が一切ないほど内容が濃くて勉強になるのでお薦めだ。また、省内で環境関連の法案づくりや、環境影響評価などを行なう総合環境政策統括官グループは、総合環境政策の一環として、現在では第五次に突入した環境基本計画を推進中だ。これもまた世の中にたくさんのエコロジーの取り組みについての解説やNGOや企業による活動を紹介するサイトがあるが、その中枢として国が推し進めている意義や背景、目標などがよくわかる内容なので、ぜひともご高覧いただきたい。

   では、私たち一般の消費者に身近なエコロジーとは何があるだろう? 

   一番わかりやすいものといったら、買い物をするときにエコロジー製品についている環境表示マークだろう。「エコマーク」は、アルファベットの “e” の形をした両手が、地球を抱きかかえているようなマークである。さまざま商品(製品およびサービス)の中で、「生産」から「廃棄」にわたるライフサイクル全体を通して環境への負荷が少なく、環境保全に役立つと認められた商品につけられている(出典元:公益財団法人日本環境協会 エコマーク事務局HP)。あとはゴミとして廃棄する時にReuse(再利用)やRecycle(リサイクル)をすることために分別を求めるマークが製品に貼ってあるものがある、例えば「アルミ缶」、「スチール缶」、「PETボトル」、「紙製容器包装」、「プラスチック製容器包装」などである。缶ビールやペットボトルを見ると必ずこれらのマークを見かける人がほとんどであろう。あと、あまり馴染みはないが、「グリーンマーク」というのもあり、これは財団法人古紙再生センターグリーンマーク実行委員会による認定マークで、原料に古紙を規定の割合以上利用している古紙利用製品に表示できるマークだ。また、「Rマーク(再生紙配合率マーク)」は、ゴミ減量化推進国民会議の提唱による再生紙の配合率を表したシンボルマークで、古紙パルプがどのくらい配合されているのかが一目で判るようにしたものである。申請や届出は不要で、誰でも自由に無料で使用できる。

   この他にも環境省のHPに、日本中の環境表示マークがまとめて紹介されているので、サイトを貼っておく(https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/f01.html)。もしかしたらすべての環境表示マークを集めているマニアな方もいるかもしれない。

   SDGsの17目標中、12番目の「つくる責任 つかう責任」は、持続可能な生産消費形態を確保することを目的としている。私たちにすぐにでもできることは、モノを買うならばエコマークなどの環境表示マークのついた製品を買うとか、ゴミの再利用のために分別をきちんと守ることである。そうした日々の小さなアクションが、天然資源の持続可能な管理と効率的利用、食糧廃棄や廃棄物の削減、化学物質などの放出の低減につながることになる。つくる側の生産者とつかう側の消費者がお互いに良きエコロジストとなり、コラボレーションしつつ環境を保護していこう。

パンチョス萩原

Delta 8.7 【SDGs 人権】

   東京都福祉保健局が2016年に行なった調査によると、一定の住居を持たず、都内のインターネットカフェなどで夜を過ごす、いわゆる「ネカフェ難民」は、一日4000人ほどいるそうだ。またそうした場所にも滞在せず路上などで寝泊まりしているホームレスの人たちは、厚生労働省が2018年に実施した調査によると全国で4977人で、都内はうち約4分の3を占めている。さまざまな理由があって家を持たない生活なのだろうが、そんな人たちに声をかけ、生活保護を受給させて自分が経営するアパートに住まわせ、毎月4~5万円の家賃を払わせた不動産業者らがその所得を申告しなかったことによる脱税容疑で逮捕された報道があった。ニュースの中心は家賃収入3億9800万円の所得隠しによる脱税8900万円に対する法人税法違反であるが、深刻なテーマはもっと別のところにあると思う。社会的立場の弱いこのような人々を利用し、金を毟(むし)り取って私腹を肥やす行為に対し、もっと光を当てられないか。

   「奴隷」という言葉を聞くと、歴史の授業で習った、17~18世紀にかけてヨーロッパ・西アフリカ・西インド諸島で行われていた三角貿易(奴隷貿易)のことや、19世紀が米大統領のリンカーンが南北戦争中に南部連合が支配する地域の奴隷制度を廃止することを命じた奴隷解放宣言などを学んだことを思い出す人もいることだろう。映画「ルーツ」の中に登場する奴隷船や、手と足を拘束されて過酷な強制労働を強いられている奴隷たちを描いた絵画などが、私たちの頭の中に奴隷に対するイメージとして残ってはいるが、もう過去の産物との認識が強いのではないだろうか。

   ところが、21世紀の現代にも依然として、奴隷制度、人身取引、強制労働、児童労働などは存在している。国連大学によると、現代でも奴隷制の被害にあっている、「現代奴隷」と称される人々の数が世界で4030万人に上るという。戦争などにより住む場所をなくして移民や難民となったり、人種的、社会的な理由から貧困に陥った人々が過酷な労働条件を無償か極度の低賃金でを強いられたり、人身取引で無理やり結婚されられたり、街で声をかけれた女性が詐欺や誘拐にあい、犯罪組織の支配下におかれて風俗店で、性的労働を強要させられるなどの被害者たちをはじめ、学校へ通うことが許されず労働を強いられる児童たちなども含まれる。日本でも、冒頭に書いたネカフェ難民やホームレスの生活保護受給金を強制的に搾取したりするケースや、不当な低賃金で働かされる海外からの留学生や研修生、風俗店での強制労働、もこの「現代奴隷」の犠牲者である。ウオークフリー財団の2019年世界奴隷指数(Global Slavery Index)によれば、日本でも、人権を阻害されて奴隷状態に陥っている人々の数が29万人を超えている実態が浮き彫りとなっている。

   「現代奴隷」に関しては、貧困問題、世界にまたがる犯罪組織、宗教、文化など、さまざまな要因がある中で各国が撲滅を目指して行動している。英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015年3月制定)をはじめ、シリヤなどからの難民を受けて入れている欧州諸国、米国などの対策に続き、2018年にはオーストラリアでも現代奴隷法が制定されている。それらの現代奴隷抑止政策の中で特に力を入れているのは、企業に対する社会的責任だ。例えば英国現代奴隷法では、企業が自らのビジネス活動において(主にサプライチェーン活動(仕入業者からの購入に始まり、工場での生産、顧客への物流にいたるまでの一連の活動)の中で、奴隷労働と人身取引がないことを担保するために行なっている活動や取り組みを年次の事業報告書の中で報告することを義務付けしており、これは英国内で事業を営む日本法人にも適用される。

   日本でも近年、SDGsやESGの取組みや声明を発信する会社も出てきている。住友化学は「現代奴隷・人身取引に関する声明」を発表し、170社に及ぶ子会社を含め、グループ全体で英国現代奴隷法第6章54条、オーストラリア現代奴隷法、および米国カリフォルニア州サプライチェーン透明性法に従って人権を尊重した経営を行なっていることを述べている(出典:住友化学HP)。現代奴隷撲滅のためにも、企業がこの問題を真剣に受け止め、社会的責任を果たしていく必要がある。

   国連には「Delta 8.7」というサイトがある。 これはSDGsの17目標中、8番目の「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」という目標の下にある行動ターゲット8.7に、「2025年までにあらゆる形態の児童労働を、そして2030年までに強制労働、現代の奴隷制、人身取引をなくす」というものがあるが、このたった1つのターゲットだけのために開設されているサイトである。 「デルタ」というのは「差・差異・変化」という意味だ。各国が協力して人権問題に取り組み、世界中の現代奴隷を年々どれだけ減少させることができるのか、去年から今年、今年から来年、と年を重ねるごとに改善できた数字の差を追っていこう、というのがこのサイトの目的である。8.7は、全世界の人々に平等に存在すべき人権を尊重するためにあるターゲットであり、私たち一人ひとりが真剣に向き合うべき最重要のテーマである。

   今から10年後には、「奴隷」という言葉が、歴史的な過去のものとして教科書に載っていることを願っている。

Delta 8.7 サイト: https://delta87.org/what-is-delta-8-7/

パンチョス萩原

一人ひとりが幸せに 【SDGs 雇用と労働】

   ややこしい日本語がある。「改善」と「改革」という言葉だ。

   大辞典や国語辞典などを引いてみたが、どちらも ”物事を変えて新しくすること” の意味に落ち着くが、違いがよくわからない。いろいろと他も調べてみたが、最後に株式会社日本産業能率コンサルティングのサイトに書かれていた定義がしっくりときた。それによると、 改善とは「現状肯定の観点から改良する 」ことで、改革とは「現状否定の観点から新しい姿にする」ということらしい。また、”言い換えると、改善は「現状の延長線上で方法や手続きを変える」ことで、改革は「将来志向から考え方を変革する」”との説明がある(引用元のサイトは文尾に記載)。

   イメージとしては、改善はいまある形のものを是正したり、修正したり、手直ししたりしてより良きものにすることであり、改革は全く新しいものに変えるということなのだろう。   

   私たちの「働き方」を変えていきましょう、と政府が提言するのは、この「改革」の方だ。少子化により1995年以降年々減少している日本の人口推移を受け、約90年後の2110年には生産年齢人口も半分になってしまい日本経済が回らなくなっていしまうとの内閣府の予測に基づき、政府は一億総活躍社会の実現に向けて働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する必要に迫られた。そんな中で、現在の働き方で問題となっている長時間労働、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などのために具体的にな措置を講じる目的で、厚生労働省が「働き方改革関連法案」を国会に提出し、2019年4月から施行された。法案の内容は、どちらかというと労働者自身というよりも、企業側に具体的なアクションを求めるものとなっている印象だ。企業側の取組とされているものを列挙すると、残業時間の上限を規制・勤務間インターバル制度の導入・1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得を義務づけ・中小企業でも月60時間を超える残業には、割増賃金率を引上げ(25%→50%)・労働時間の状況を客観的に把握することを企業に義務づけ・働く人の健康を守る措置を義務化(管理職、裁量労働制適用者も対象)→罰則つき・フレックスタイム制により働きやすくするため、制度を拡充・労働時間の調整が可能な期間(清算期間)を延長(1か月→3か月)・子育て・介護しながらでも、より働きやすく・専門的な職業の方の自律的で創造的な働き方である「高度プロフェッショナル制度」を新設などである(厚生労働省HP)。時間もコストもかかり、企業側からしてみれば大きな変革を迫られている。

   この「働き方改革」は、これまでの時間制約型の勤務体系や年功序列型の昇進・昇格に慣れ親しんだ方々の心理から見れば、まさしく「革新」的なものであり、最近にわかに脚光を浴び始めた「ジョブ型の雇用形態(経団連による指針。それぞれのポストについて、職務内容や報酬を明確にし、最適な人材を起用するというもの。有能な人ほど難易度が高く待遇も良いポストに就くので、必然的に成果型の人事制度となる)」に至っては、ある日突然同僚や部下が社長になる奇跡も起こりうるので、まさに働き方「革命」に近い印象を持つ人もいると思う。私自身は外資系の会社での勤務経験が長いので、こうした「ジョブ型」は全く疑問も抵抗も感じることはないが、社員ひとりひとりに「職務分担(Job Description)、職務分掌(Segregation of Duties)、権限移譲(Delegation of Authority)を明確に与えるガバナンスを整えることは、現在までの日本の企業文化ではかなりのチャレンジだと思っている。良い意味でも悪い意味でも、日本の会社の多くは一人ひとりの役割と職務があやふやなところがあるし、遺憾ながら上場会社でも完璧だとは言い切れないと感じている。はっきり言って、働き方改革関連法が施行されて早一年が経つが、振り返ってドラマチックに自分の働き方が変わった、と言える方々はどのくらいいらっしゃるのだろうか? むしろ政府が企業に義務付けた上述の関連法案よりも、新型コロナ禍における不可避的な勤務スタイルの変化の方が、社員らの働き方を変えているのではないかと思うくらいだ。

   働き方改革は、ようやく最近になって、企業のかなり斬新な取組みが新聞などで紹介されるようになってきた。いくつかの事例を紹介してみたい。丸紅では、今年10月から、他部署に協力した社員に報奨金を支給する制度を設けるという。縦型の組織でサイロ化している知見やノウハウを他部署にも積極的に共有して新たな事業を生み出しやすくする狙いで、社員はその貢献度に応じ、最大200万円までの報奨金をもらえるということだ。私が以前勤めたLIXILでは、ナレッジマネジメントが充実しており、社員がさまざまな業務上の知識や仕事の手順などを共有できるサーバ上のプラットフォームにアップして、貢献した人々をランキングにして毎月発表して社員らのモチベーション向上に役立っていたが、これも丸紅が導入した横連携の強化の良い例である。丸紅のように、社員の貢献度に応じて報奨金を出す仕組みは、ディスコ(半導体製造装置大手)が取り入れている社内通貨「ウィル」があるが、丸紅でも同様の社内コインを導入して、1コイン1万円として賞与などに反映する計画らしい。武田薬品工業は今年6月から、社内で異なる業務を期間限定で掛け持ちする新しい制度を導入した。社員が自分が所属する担当部署の業務に加え、別の希望する部署で勤務できるようにした。業務上関わりがないが、とても関心のある他部署の業務に携わることでスキルアップや自身の適性に合った仕事を見つける狙いもあるらしい。同様の社内副業制度は、KDDIも行なっていて、国内約1万1千人の正社員を対象に、就業時間中の最大2割を上限に他部署でも働ける社内副業ルールを作った。さらに紹介すると、もっと大胆な雇用制度を導入既に3年前の2017年から導入している会社があった。タニタである。社員に一度、会社を「退職」してもらい、「個人事業主として会社と契約を結び直す」というものだ。切り替えは強制ではなく、あくまでも本人の希望に基づいてこの制度は適用されるが、今年現在、社員の約1割にあたる27名が個人事業主として働いているそうだ。個人事業主になれば就業規則に縛られないため、毎日会社に来る必要はないし、1日の勤務時間も全く自由である。柔軟な働き方で副業も制約が全くない。

   上述したのはほんの一例に過ぎないが、今後もさまざまな会社が斬新なアイディアを持って、具体的な働き方改革を推進していくことだろう。

   SDGsの8番目のゴールである「働きがいも 経済成長も」の中のターゲット 「8.3 生産活動や適切な雇用創出、起業、創造性、およびイノベーションを支援する開発重視型の政策を促進するとともに、金融サービスへのアクセス改善などを通じて中小零細企業の設立や成長を奨励する。」や「8.5 2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性および女性の、完全かつ生産的な雇用およびディーセント・ワーク、ならびに同一労働同一賃金を達成する。」 というターゲットがある。働きがいのある会社でなければ、仕事はただの苦役になってしまう。ハラスメントや不平等が会社にあれば、人格そのものが病んでしまうことになりかねない。働き方改革はその意味で非常に重要なテーマだ。

   改革は英語では「Reform」という。住宅などのリフォームでは痛んだ壁や天井を変え、間取りや古い設備を刷新するときなどに使う言葉だが、どんな場合でもリフォームはあくまでも住む人の幸せのためにするものである。改めて、「働き方改革」という言葉を別の表現で「一人ひとりが幸せになるワークスタイルの実現」と呼びたい。

パンチョス萩原

引用元:日本能率協会コンサルティング 経営改革の知恵ぶくろ https://www.jmac.co.jp

Lean startupの仮説検証

前回のSDGs講義では、SDGs部署を立ち上げ担当の方や
既存事業・営業活動にSDGsを活かしたいとお考えの方に
ご参加いただき、各々の事業計画を作成しました。

その中で、共通するお悩みや難しさを知りました。

講義の後、講師の方とのオンライン会議で
ボトルネックや壁を突破して、SDGs事業を推進するには?
と議論をしながら、企画をブラッシュアップしました。

MBA Entrepreneurshipの授業では、Lean startupを学びました。
今まさに、仮説検証を実践しています!
高速の仮説検証は、ビジネスにもSDGsにも大切ですね。

▼次回のSDGs講義の詳細はこちらから
http://www.soi-soi.com/seminer-detail/

放射平衡を取り戻そう 【SDGs 地球温暖化】

   昭和レトロな喫茶店はコーヒーを落ち着いて飲めるので大好きだ。よく足を運んだのはのは、神保町の「神田伯剌西爾(ぶらじる)」や「ラドリオ」、神田の「CHOPIN(ショパン)」、上野の「丘」や「王城」、台東区日本堤の「カフェ・バッハ」などである。いつの間にか、人形町の「RON(ロン)」は残念ながら営業をやめてしまった。スタバもタリーズも良いが、東京にも、まだまだ昭和に創業した古き良き時代の喫茶店は山ほど残っているので訪れてみてはいかがだろうか?

   これらの昭和レトロ喫茶店のマスターは、見ていると必ずといってよいほど銅製のコーヒーサーバーで一杯ずつ丁寧にコーヒーをドリップしている。決してガラスや陶器のポットは使わない。これは、銅製のサーバーが一番お湯が早く沸くためで、言い換えれば銅の熱伝導率がどの素材より高いのだ。熱伝導率を数値で見ると、銅が398W/(m・K) (ワット毎メートル毎ケルビン)で、アルミは237、鉄は80、ステンレスは27、耐熱ガラスは1.1、陶器は1.0~1.6となっている(出典:エフアールカンパニー株式会社HP フライパン倶楽部 新・加熱講座4 調理道具と熱の関係より)。数字が大きければ大きいほど熱伝導率が高い。

   銅は他のどの素材よりも一番早く水が沸騰するが、その分冷めるのも一番早い。一番温まりにくいガラスや陶器は、その代わり一度熱くなったら、なかなか冷めにくい。私が幼いころに家にあった魔法瓶は内側がガラス製であったし、いま単身赴任先で重宝している土鍋でおでんや寄せ鍋を作ろうとすると、沸騰してガスを止めてもしばらくグツグツと沸騰したままである。

   陶器はご存じの通り焼き物で、木節(きぶし)粘土・蛙目(がいろめ)粘土などの花崗岩の風化によって出来た粘土を主な原料にしている。同じ焼き物でも、よりガラス質の磁器には、陶石、長石、珪石、カオリンなどを粉砕して粘土質にしたものが原料として使われている。陶器と磁器などを総称してセラミックというが、このセラミックは焼く過程で炭素を多く吸収するので、他の物質よりも遠赤外線を多く出す性質がある。七輪や遠赤外線ストーブなどは、セラミックが熱を吸収して、強烈に遠赤外線を放射する熱を利用しているのである(ちなみに赤外線はその波長によって、近赤外線、中間赤外線、遠赤外線に分けられるが、波長の長い遠赤外線は物質の内部にまで届くのでモノを内側から温める性質を持っている。焼き芋を焼くのに遠赤外線を出す石が使われるのはそのためだ)。

   このように、熱しやすく冷めやすい銅は、フライパンにしたり、お湯を沸かしたり、冷えたアイスコーヒーなどを飲むのに適していて、熱しづらく冷めにくいセラミックは、温かい鍋物や熱いお茶、または耐熱性と蓄熱性からレンガなどの外壁に適しているのである。

   ところで、地球の大気はさまざまな気体やガスが成分であり、JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)のHPによると、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素一酸化炭素、ネオン      ヘリウム、メタン、クリプトン、一酸化二窒素、水素分子、オゾン、水蒸気などで構成されているそうだ。地球の表面は太陽から一度温められ、熱エネルギーである赤外線を宇宙に向けて放射する(ちなみに赤外線は、新型コロナの検温で使われるサーモグラフィや非接触型の体温計などで、その人が放出している赤外線量を測るのに利用されている)。すると今度は地球の大気中にある水蒸気や二酸化炭素やメタン(温室効果ガスと呼ばれている)が地表から放射された赤外線を吸収し、その一部をまた地表に向けて放射する。その放射された赤外線によって、地表の温度はバランスよく保っている。

   温室効果ガスは炭素水蒸気や温室効果ガスがなければ地表から放射された赤外線は宇宙に出て行ってしまうので、地表は再び温められることなく冷えてしまうが、逆に温室効果ガスが増えすぎれば地表に戻される赤外線が多くなるために地表の温度が厚くなってしまう。以前コラムにか書かせて頂いた地球上の氷期と間氷期の10万年という長いサイクルもこの放射平衡が原因ではあるが、産業革命以降に人類が化石燃料を用いた大量生産と、大量消費によって、特に20世紀の後半は、主要な先進国が位置する北半球高緯度地域を中心に地表の温度上昇が観測されていて、原因は大気中に二酸化炭素などの温室効果ガスが増えたことによる、と推測されている。いわゆる「地球温暖化」である。「オゾン層の破壊」は、よく地球温暖化などのトピックでも登場するが、実際は太陽からの地球に届く人体に危険な紫外線を吸収してくれているがこのオゾン層であって、二酸化炭素やメタンの温室ガス層は、地表から放射された赤外線を吸収し、また地表に再放出するので、オゾン層の破壊が温暖化を生んでいるわけではないのである。温室効果ガスは上述のように地表の温度をバランスよく保つためになくてはならないものなのだが、増えすぎてしまうと一旦温まるとなかなか冷えづらいために、原理上は地表がどんどん熱くなってしまうのである。

   温暖化に対する国際的な取り組みは、1997年に京都で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された国際条約である「京都議定書」が有名であるが、その後継として、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みのパリ協定も耳に挟まれた方は多いだろう。温暖化防止の代表的なアクションは「二酸化炭素(またはCO2)排出量を削減する」ことであり、理由は温室効果ガスをこれ以上増やさないためだ。アクションは国の抜本的な対策から、各家庭でできる身近な取り組みまで多岐にわたる。エアコンを1℃下げる、車のアイドリングはなるべくしない、LED電球を使う、エコバッグを使ってプラスチック袋を減らす…、なかには炊飯器の保温を止める、テレビを見る時間を毎日1時間減らすなどの行動も奨励しているサイトも見かけた。まずは出来るところから始めたい。

   SDGsの13番目の目標である「気候変動に具体的な対策を」は、まさにさらなる地球温暖化を阻止しようとするためのアクションを促すものである。これには一市民として、ささやかではあるが積極的に取り組みたい。

   こんなコラムを書いていたら、コーヒーが飲みたくなった。さて、一度温まると冷めづらい陶器でコーヒーが飲める昭和レトロな喫茶店に出かけて、私の温暖化対策に向けた情熱も冷めないように温め直すとしようか。

パンチョス萩原

循環する水 【SDGs きれいな水】

   ブラジルから鉄鉱石を運ぶために商船三井がチャーターしていたパナマ船籍のばら積み貨物船「WAKASHIO(わかしお)」が、7月25日に「インド洋の貴婦人」と呼ばれるほど美しい島国のモーリシャス共和国のポアントデニーのサンゴ礁に座礁した。積み荷はなかったが、船の動力のために積載していた4000トンほどの燃料の重油のうち、1180トン以上が海上に漏れ出し、全長300メートルの船体は真っ二つに裂けた。ターコイズブルーの海がまたたく間に流出した重油で黒くなり、海岸に漂着した油状物でマングローブが覆いつくされていく勢いを見たモーリシャスの政府は、直ちに環境非常事態宣言を出して国際的な協力を呼びかけた。

   世界各国の緊急対策チーム、国連の専門家チーム、ならびに日本からも国際緊急援助隊の6人の専門家チームが事故発生から1週間以内にそれぞれ現地入りした。海に流出した重油を回収するためのオイルフェンスには、自分たちの大切な海を守るために集まった住民らが自ら切った髪の毛も材料に使われた。その甲斐あって、現在では何とか海上に漂っている重油回収はほぼ終わった。一方で、海岸に流れ着いた油の回収は現地の方々も協力して日々人海戦術で続いている状況だ。海岸に打ち寄せた油状物の撤去にあたっては、畑から藁(わら)で油の流入を食い止めたり、サトウキビの葉をつかって油をすくい取ったり総出で作業が続いている。

   1997年1月に日本海で座礁したロシアのタンカー「ナホトカ」号の重油流出事故の時は、福井県から石川県の沿岸一帯が重油で汚染されたこともあってか、当時日本のメディアは連日テレビ、ラジオ、新聞で報道していたが、今回モーリシャスが誇る希少なマングローブ林や多くの魚の生物、さまざまなサンゴ礁を有する湿地帯が壊滅的な危機にさらされている史上最悪の海洋汚染ニュースは、日本のメディアに登場する機会が少ないように感じる。重大なニュースには違いないが、新型コロナの影響で、日本から遠く1万キロも離れたモーリシャスに取材班を送るのが困難なことも、もしかしたら背景にあるかもしれない。

   いずれにせよ、ナホトカ号の事故も、WAKASHIOの事故も、一番の犠牲となったのは重油で汚された海域や沿岸の生態系で暮らす「生き物」たちと、「水」そのものである。一旦汚れてしまった水を再び綺麗にするのは並大抵のことではない。例えば、天ぷら油(500ml)を一般家庭のバスタブ(300L)に注いて水を汚した場合、再び魚が住める水に戻すためには同じバスタブで560杯分もの綺麗な水で薄めなければならないという。マヨネーズ大さじ1杯(15ml)でさえ、バスタブ13杯分の水が必要なのだそうだ(神奈川県藤沢市下水道部 下水道管路課HP)。

   ところが、地球の地表面内部、大気圏中に存在する水は、海、湖、川などからの蒸発→空からの降水→再び川などの地表流→土壌への浸透などを経て、地球上を絶えず循環しているものの、地球が生まれた45億年前から総量は全く変わっていないので、いったん水が汚れてしまえば綺麗な水がどんどん減ってしまうことになる。

   内閣官房水循環政策本部事務局によると、この地球上の水の総量は、およそ14億立方キロメートルで、内訳は、海水(97.47%)と淡水(2.53%)に分かれる。淡水のほとんどは南極と北極の氷や氷河として存在する水や地下水であって、人が容易に利用できる河川や湖沼等の水として存在する淡水は、地球上に存在する水の量のわずか0.008%**だそうである。太陽エネルギーによって海上や地表などから蒸発した水が雲となり、雨となって再び降り注ぐ、といったこの水循環によって、塩分を含む海水も蒸発する際に淡水化されたり、北極や南極に氷として蓄えられたり、深層海洋水となって世界の海を周回したりして地球上の水は維持されてきたのである。なので、私たちが利用している飲み水や生活用水などの淡水資源は、この大きな水循環のサイクルの中で地球が常に作り出しているものを利用していることに他ならないのである。なので、この水循環を健全に保つことが持続的な社会を築く上で極めて重要なことであり、地球上で暮らす私たち一人ひとりが毎日使う水についての理解を知識を深め、水を汚さないように、またすべての人が衛生的な水を利用できるようにアクションをとる責任がある。

   日本でも近年、ようやく水循環に対する政府としての取り組みとして、「水循環基本法」が平成26年4月2日に施行された。これは、内閣に水循環政策本部長、副本部長、政策本部員を組織し、本部長には内閣総理大臣、副本部長には内閣官房長官及び水循環政策担当大臣、そして、政策本部員はすべての国務大臣をもって充てる、という錚々(そうそう)たる内容の法律である(第24条、第25条要約)。第3条には「水については、水循環の過程において、地球上の生命を育み、国民生活および産業活動に重要な役割を果たしていることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復のための取組が積極的に推進されなければならない(原文ママ)」と記されている。

    水の循環は、SDGsの169あるターゲットのうち、6.6「2020年までに、山地、森林、湿地、河川、帯水層、湖沼を含む水に関連する生態系の保護・回復を行う。」と、15.1「2020年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する。」に密接に関係している。ターゲットの期限が今年なので達成が難しいが、私たち一人ひとりが真剣に考え、取り組んでいかなければならない問題だ。

   今日蛇口をひねって出てきた水は、45億年もの長い間、地球のあらゆるところを旅してきた水であり、今日手を洗うのに使った水は、また地球のあらゆるところに旅に出かけていく水である。健全な水循環の維持と回復を本当に心から願っているのは、対策チームを組織した内閣の大臣たちよりも、むしろ、他ならぬ地球そのものかもしれない。

パンチョス萩原

**:サントリーのHP上の「水大事典」上では、総量は13億3800万立方キロメートル、人が利用可能な淡水量は0.01~0.02%と少し細かい記載であった)