日本の水の管理者 【SDGs 資源】

   現在、私が勤める自動車関連部品会社は、神奈川県秦野市にある。丹沢の山々に囲まれた秦野市は、神奈川県では唯一の盆地である。地下構造が地下水を貯める天然の水がめ(水文地質学上は、地下水を含む「帯水層」が多数集まる「地下水盆」)の構造となっているため、周囲の山々から長い年月をかけて、じっくりと、しかし豊富に秦野市の地下水は蓄えられているのだそうだ。秦野市のHPによると、地下水量は膨大で、およそ2億8千万トンに及ぶ。また、現在では市内の21箇所で天然の湧き水が湧き出している。その一つが私の住むアパートから徒歩10分のところにある。1200年の歴史を刻み、水を司る神様として知られる曽屋神社の境内にある「井之明神水」と呼ばれる御神水である。人がほとんどいない静寂な神社の裏手にこんこんと湧いており、近隣の人々がペットボトルや水筒を持参して天然のミネラルウォーターをありがたく頂くことができる。何でも秦野市は、明治23年に函館、横浜に次ぎ、日本で3番目の近代水道の給水が開始された地域でもあるそうだ。

   綺麗な湧き水は全国的にも有名で、私自身は秦野に来る前は全く知らなかったのだが、環境省が平成27年に実施した全国200箇所の名水を対象とした「名水百選選抜総選挙」では、「おいしさが素晴らしい名水部門」で、総投票数13329票中、7504票を獲得し、見事1位となっている。そんな美味しい天然水を秦野市では水道の蛇口から飲める。湧き出る天然水に必要最低限の塩素消毒加工を施して水道水となっているからである。秦野市ではこの水道水をペットボトルにつめて、「おいしい秦野の水〜丹沢の雫〜」という商品名で販売しているが、秦野市民にとっては、同じ水が家の蛇口をひねれば出てくるのだから、何とも贅沢な話である。しかも水道代は東京都よりも確実に安い。

   ふと、日本の水の管理は誰が行なっているのだろうか?という疑問が湧いたので、水道局や関係省庁などの情報を手当たり次第に調べてみたところ、それぞれの管轄は以下のようであることがわかった。

1.飲料水→厚生労働省

2.工業用水道→経済産業省

3.ダム・水資源→国土交通省

4.水産物・農業用水→農林水産省

5.日本の名水→環境省

   興味深い事実としては、上記5つの省に加え、学校のプールは「遊泳用プールの衛生基準」という観点から文部科学省が管理している。具体的な管理は各省庁内の水担当部署や外部団体によって管理されていて、例えば、農林水産省では農村振興局整備部設計課、水道課、林野庁、水と緑の田園通信など、経済産業省では資源エネルギー庁など、国土交通省では、土地・水資源局(水資源)、都市・地域整備局(下水道)、河川局などがそれぞれ管理している。ここまでお読みになって感じる方も多いと思うが、日本での水の管理はものすごい縦割り行政なのだ。これに地方公営企業法の適用を受けて地方公共団体が運営する上水道の供給を所掌する水道局が各都道府県の市町村にあり、世界でも有数な日本の安全な水が管理されているわけだ。

   一つの資源がこれほどまでに細分化されてさまざまな組織で管理されているものは水しかないであろう。あまりにも縦割りすぎることから、現在では、それぞれ水を管轄する関係5省は、「健全な 水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」を発足させており、健全な水循環系構築のために協力体制を敷いている。また、水質管理などでは、地域の状況によって各地方自治体が条例でさらなる規制を敷いているところもある。

   余談かもしれないが、現在の新型コロナの殺菌に有効だとされる消毒水「次亜塩素酸水」は、消毒や除菌方法については厚生労働省と消費者庁が協働して管轄しているが、次亜塩素酸水自体の品質については経済産業省の管轄となっていることが経済産業省のHPを見る限り分かる。かように分断されている現在の行政では、水を一元管理する省庁の設立や、水担当大臣などは、ほぼ実現しないであろうと思う。消費者の立場としては、水というかけがえのない資源や附帯する管理に対し、国や都道府県がこれからもさらに風通しの良いコミュニケーションによって、迅速に対応して頂くことを祈念するのみである。 

   「金を湯水のように使う」という諺が存在し、安全な水を当たり前のように日々得ることができる日本において、世界の水問題を理解し、そのために働きかけをすることは大切なことである。TOTOのHPに世界各国の各家庭が毎日使用する水量が国ごとにグラフに表されて掲載してあるが、それによると、世界の平均では一人当たり186リットルだそうだ。日本人は平均のおよそ2倍にあたる300リットル以上使っているらしい。年で換算すると、一人当たり135トンにもなる。TOTOの調査によると、風呂とトイレの使用量が61%を占めており、次いで炊事が18%、洗濯が15%と続く。今の日本はふんだんに水を使っても枯れることのない豊かな国の印象があるが、水資源は確実に年々減っている。水の大切さを改めて認識したい。いかに縦割り行政、多くの組織で水が管理されようとも、最終的に使う消費者である私たちに、この国の水資源の行く末は託されている。

パンチョス萩原