自然界の色 【SDGs 平等】

   いわゆるビジネススーツには、左の襟にボタン穴があるのが一般的だが、その理由は、スーツの起源が軍服や騎士のゴルジェであるからだ。昔の軍服やゴルジェは、兵士が馬に乗って戦う際に首元を守るために襟高でボタンをしっかり留める構造になっていた。それらの服はやがてフォーマルな場で着るフロックコートへ変容を遂げ、今の形のスーツになった訳であるが、襟元でボタンを留めていた頃の名残りを残し、今でも襟にボタン穴があいているらしい。19世紀に入り、そのボタン穴にイギリス皇太子エドワード8世が花を挿して貴族のパーティに出たという話から、今ではこのボタン穴はフラワーホールと呼ばれている。一般の現代人はさすがに花は挿さないと思うが、会社に勤める人々は自分の会社の社章を留めていることが多い。

   最近ではこのフラワーホールに社章ともう一つ、17色のリング状のバッジをつけている人たちを見かけることが多くなった。国連をはじめ、今では政府、地方公共団体、教育機関、民間企業も取り組んでいる「持続可能な開発目標」の17の目標を表すカラーサークルである。国連グローバル・コミュニケーション局は、カラーサークルをはじめ、SDGsのロゴや17の目標のアイコンにおけるデザインや色の使用について詳細なガイドラインを出している。特に17の目標に使用されるアイコンの各色は、CMYK(色の三原色であるシアン・マゼンタ・イエローとブラック)、およびRGB(光の三原色であるレッド・グリーン・ブルー)の割合が明確に定義され、それ以外の色構成は禁止されている。例えば、SDGs目標1の「貧困をなくそう」のアイコンに使用される色は、CMYKで「C 1 M 100 Y 92 K 0」、RGBで「R 229 G 36 B 59」と定義されている。 指定された色の合成によって、あの鮮やかな赤い色となっているのである。

   色の三原色、光の三原色と言われても、電子関連の研究所、美術、デザイン、インテリアコーディネイト、映像技術などの学校、もしくはコピー機やテレビなどの電子光学系製品の会社などならともかく、一般にはあまり馴染みがないであろう。 色のことを学ぶとなると、色と光の三原色とそれぞれの補色に加え、網膜の錐体(すいたい)細胞や光の波長など、今まで聞いたこともない科学的なことがたくさん出てきて大変である。私も、かつて学校で絵を学んだ時にこの辺の知識は叩き込まれたことがあるが、理屈ではわかるが、直感的に理解できないことばかりである。今日はそんな「色」にまつわる話を少し書きたい。

   そもそも太陽光は、人間の目では見えない紫外線や赤外線なども含み、可視光線のあらゆる色が出している波長が混ざりあっているために、それ自体に色はない、というか、人間の目には太陽光の色が認識できない。 光が私たちの身近にあるものに当たると、それぞれの物質が光を反射するので私たちにはその物質が見える。この原理は小学生の理科の授業ですでに習っている。では、何故「葉っぱが緑に見えるか?」と聞かれてもすぐに答えることは難しい。たとえ答えが「葉緑素が光合成をするエネルギーのために太陽光から赤い光と青い光を吸収し、吸収しない緑色の光(赤と青が混ざった色であるマゼンタの補色)だけを反射するので緑に見える」と言われても何のことかわからない。

   光と色で理解しておきたいことは、光はすべてのものに平等に同じ割合で当たってるのだが、物質が吸収する色がそれぞれ違うので、物質から反射される色が別々である、ということだ。科学が苦手な私なりの例をあえて作ってみるとこうなる。ここに千円札、五千円札、一万円札が1枚ずつあり、合計は一万六千円である。千円札を光の三原色の赤、五千円札を緑、一万円札を青とする。光の三原色は同一に混ざると白になるために合計した一万六千円(三枚のお札を束ねた状態)は白とする。いま太陽が一万六千円ずつを、この世にあるすべてのものに平等にあげるのだが、葉っぱは三枚のお札の中から千円札(赤)と一万円札(青)を取り、五千円札(緑)だけを返す。 リンゴやイチゴは五千円札(緑)と一万円札(青)を取り、千円札(赤)だけを返す。ガードレールは一万六千円を受け取っても一切受け取らず、全部のお札を返すから白く見える。 茶色、水色、紫、黄緑…などの色に見えているものは1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、100円玉、500円玉などでお札以下のおつりを返していると考えてよいだろう。要するに私たちの目は、太陽が一万六千円をそれぞれの物質にあげたときに、それぞれの物質が返した「おつり」の金額を見ているようなものである。 日差しが強くなればなるほどできる影が暗く見えるのは、一万六千円を受け取った影がすべて自分の懐に入れて何も返さないためだ。すべての光が吸収されてしまうと私たちの目にはその物質は全く映らなくなる。夜が暗いのはそのためだ。

   このように、この世にあるすべてのものは太陽から同じだけの光を平等に注がれているが、それぞれの色の吸収性が違うために、それぞれの個性でいろいろな色に輝いている。私たちの生きる社会も同じように、本来ならばこの地球上で暮らす全ての人々に平等に教育、食糧、衛生環境、雇用の機会などが与えられ、その中で一人ひとりが幸せに輝くべきであるが、2020年の現在でも貧困が原因で普通の教育を受けられない6歳から14歳までの子供たちが世界で1億2400万人おり、7億人を超える子供たちは教育が不足しているために文字の読み書きができない。 国際NGOオックスファム・インターナショナルは、世界の最富裕層2153人が最貧困層46億人以上の財産をもっていると今年の最新の調査で報告している。また、全世界のどの国でも、ジェンダー、人種、民族、階級、宗教などで所得の不平等な扱いを受けている多くの人々がいる。 

   全世界の誰ひとりも取り残されないためにも、平等にすべての機会が与えられる社会が必要なのだ、と、自然界で輝く色を放つすべての物質は、私たちにそう教えてくれているように見える。

パンチョス萩原

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