都市の爾今(じこん) 【SDGs 住みよいまちづくり】

   今、東南アジアの不動産が熱い。REIT(リート:不動産投資信託)の市場が世界的に低迷している中、東南アジアの市場は急速に拡がり、市場規模は10兆円に迫っている。

   REITとは、信託会社などの投資者からの資金を運用管理する会社が、投資家から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買益を原資として投資者に配当する商品のことだ(参照:三井住友トラスト・アセットマネジメントHP)。投資者は、REITを通じて間接的に様々な不動産のオーナーになり、不動産のプロによる運用の成果を享受することができるため、不動産の知識がない人でも気軽に投資ができる。また、手軽に始められ税金面でも優遇されている株式投資のNISA、今では個人投資としても人気の高いFX(外国為替証拠金取引)、ひいてはハイリスク・ハイリターンの商品先物取引に比べると、REITは比較的安定したリターンを得やすい。株や為替は企業や国の動向で乱高下するし、商品先物は天候や消費動向にも大きく左右されるため、リターンはいわば未知数であるが、REITの投資先は主に不動産賃貸収入を得ている会社なので、リターンが大きく変動することは少ないのである。JAPAN-REIT(不動産投資信託ポータル)が発表している分配金利回り一覧でも、数多い投資信託会社の平均的な年利回りは6%を超えているほどだ。

   東南アジアへの不動産投資がヒートアップしている背景は、不動産物価が先進国と比較しても安く、経済新興国であるカンボジア、ベトナム、フィリピン、マレーシア、タイ、ミャンマーなどが経済特区やインダストリアル・ゾーン(工業地帯)などを急ピッチで進めて外資を招致していることから、今後の地価や不動産の高騰が期待されているからだと思う。5年前くらいまでは大都市といえども、電力・水道などのインフラが不十分であったが、今では高速道路や鉄道などの整備が進み、物流の高度化が進行中である。また、中国のように東南アジア諸国も今や主要都市へ労働者が集中し、アパートやマンションなどの需要にも拍車がかかっている。

   しかしながら、2020年に至っては、新型コロナの影響でこれまでどの主要な東南アジアの国々も平均6%以上維持していたGDP成長率は、22年前のアジア通貨危機以来の大きな落ち込みとなる可能性はある。個人的には、その要因の一つに観光業の激減があり、必ずしも全体の経済が落ち込んでいるわけではない、と分析している。ただ、これ以上の経済の悪化が続けば、東南アジアの国々は決して財政基盤が強いわけではないので、弱い国から資金がどんどん流出していく懸念もあり、世界経済のインフレを招くことにもつながるリスクはあるので、今後も注意が必要だ。

   一方、冒頭にも述べたが、世界的にはREIT市場は低迷していて、新型コロナ下における「ニューノーマル」では、働き方の多様化が進み、日立製作所や富士通などの大企業、さらにはIT企業やベンチャー企業などでは本社オフィスの縮小や廃止するといった、「オフィス不要論」まで登場し出して、さらに都心部のオフィスビルのテナントが減少していくようにみえる。 これに対し、三井不動産社長の菰田正信(こもだ まさのぶ)氏は8月20日付の日本経済新聞のインタビュー記事の中で、“ただ利用面積が減少の一途をたどるとは思えない。本社に集まる拠点型が残るか分からないが、社員の自宅近くなどにオフィスを分散させる企業は増える。拠点型と分散型の面積を足せば全体の利用面積は減らないだろう。本社などは密集などの感染症リスクを防ぐため、増床する事例も考えられる。入居企業と一緒に考えながら使い方などを決めていく”と語る (引用元:そこが知りたい オフィス不要論どう臨む~拠点分散の需要は伸びる https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62825340Z10C20A8TJ2000/

   東南アジアの不動産投資が盛り上がっても、先進国の不動産市場が盛り返しても、コロナ禍では、そこで働いたり、生活を営む人々が安心して過ごすことができる施設と環境が最優先だ。特にビルやマンションの感染予防のための換気は重要で、換気が十分でないと、集団感染などのリスクが増大化することになる。また、ドアやエレベーターの非接触対策なども課題になっている。換気対策については、さすがに飛行機のように3分ごとに機内の空気が入れ替わるような換気は困難であろうが、ANAなどで使用されているHEPAフィルター(0.3ミクロンの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもつ)などを導入すれば、飛沫感染は防ぐことができるので、今後不動産会社はビルの風通しや換気システムなどに、今まで以上のアイディアを盛り込んで課題解決をしていくことであろう。

   コロナによる生活の変化に合わせ、今後世界中の商業施設や居住施設で、さらなる「住む人、使う人が中心」のハイテク化が推進されていけば、活潑潑地(かっぱつはっち)な東南アジアの不動産市場は無論のこと、低迷している先進国のビル建設の在り方にも大きなパラダイムシフトが起きるかもしれない。そうなれば、SDGsの17目標中、「3.すべての人に健康と福祉を」、「6.安全な水とトイレを世界中に」、「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「8.働きがいも経済成長も」、「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」、「11.住み続けられるまちづくりを」、「12.つくる責任 つかう責任」の各課題を包括的に解決するすべとなり、世界の人々の幸せに一歩近づけることは間違いないだろう。

パンチョス萩原