つかう責任 【SDGs ごみ問題】

   昨日のコラムは、私たちが暮らしている環境に「コロナごみ」が増えてきたという話であったが、それと比較にならないほど膨大なごみが不法投棄やポイ捨てされている実態は、メディ、環境省や各都道府県のHPに掲載され、捨てる人たちに注意喚起している。

   実際、産業廃棄物であれ、それ以外の一般廃棄物であれ、不法投棄やポイ捨て、または廃棄方法を無視して不適正処理をした人は、環境大臣が定めている「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」によって処罰の対象となる。罰則規定にはさまざまな種類があるが、例えば第16条の「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。」に違反した場合は、「5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこの併科」となっている。コロナ禍では「せめて近くのバーベキューができる公園や河原で少人数で楽しもう」、なんていう家族やグループが増えているが、ごみをその場に放置したとたんにこの罰則が適用されることになるので、とんでもなく高い代価を払うバーベキューになりかねない。

   環境省の報道発表データによると、平成30年の一年で新たに発生した産業廃棄物の不法投棄量は15.7万トン、未処理のままの放置されている廃棄物の残存量は1561万トンにも及んでいる。旅客機に例えると、約5万機、普通乗用車では約1千万台に相当する産業廃棄物が、今も日本の山、河川、都市部など至る所に放置されていることになる。不法に投棄された一般家庭ごみやポイ捨ても合わせると、相当なものになっている。

   これらの産廃や家庭ごみを無断で捨てる人や業者は、あえてなかなか見つけづらい山奥や地中に廃棄するために、処理にものすごい手間とコストがかかってしまう。不条理な話としては、不法投棄された山や空き地の所有者にも処理費用を払う義務が発生する場合があり、捨てられた方は処理費用や不動産価値下落の憂き目にあい、たまったものではない。里山の貴重な生態系にも影響を及ぼす不法な廃棄物を何としても減らしていく必要がある。

   まずはごみの捨て方やリサイクル方法の理解と実践、そして絶対にポイ捨てなどしないプライドを持ち、普段の生活を送ることから始めたい。

   しかしながら、「不法投棄をなくそう」という問題は、「ごみをいかにして出さないようにするか」ということをまず考える必要があると思う。これには不法投棄されているごみだけでなく、普段、ごみ回収車によって適正に処理されるごみも含まれる。解決策の一つはリサイクルとして循環させることためにできる限り分別してごみを出すことがあるが、いずれごみとして廃棄するような不要なものを買わない行動や、環境に配慮したり、地域の産業発展のためになるものを買うという「エシカル消費」に努めるということも方法のひとつだ。

   本当に必要なものを買えば、長く使うし、ごみとして廃棄されることもない。安いからと言って100均で衝動買いしたものはすぐに飽きたり、生活で使わなくなったりして捨ててしまうことも多い。「断捨離」がブームになるのは、それだけ不要なものが家に溢れているということの裏返しであるが、そもそも生活に必要なものだけが家にあれば、それ以上買う必要もないし、経済的だ。また買ってきては捨てるを繰り返す膨大な時間的ロスも節約できるし、ものを長く使えば愛着も湧いて精神的にもプラスだ。

   生産者側も将来捨てられるだけの粗末なものを作るのではなく、長く愛されて各家庭で使われるとなればモチベーションも上がり、特に先進国の大量消費が減れば 森林樹木の過剰な伐採、海洋資源の過剰な乱獲の地球環境負荷も減るし、強制労働などの多くも課題も解決できるようになっていく。

   SDGs 12番目の目標「つくる責任 つかう責任」のターゲット12.5に、「2030年までに、予防、削減、リサイクル、および再利用(リユース)により廃棄物の排出量を大幅に削減する。」がある。一般的な日本人が一日に出すごみの量や920グラム、約1キロだ(環境省)。まずは生活と消費を見直し、今日から本当に必要なものを必要なだけ買うことを目指し、ごみを極力出さないように生活を改善していきたい。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

増え続けるコロナごみ 【SDGs 環境破壊】

   最近の夜は、コオロギなどの虫の心地よい鳴き声とともに涼しい風が窓から入るようになった。季節は夏から秋へと移ろいでいる。今年の夏はおおいに暑かったが、何よりもマスクで外を歩くのが大変であった。外の暑さとマスクの息苦しさで、知らず知らずに家からあまり出なくなったのは間違いない。

   今年の夏は、プラスチックの使用が例年に比べてかなり多くなったそうである。マスクに関して言えば、昨年の200倍ほどの売れ行きとなったそうだ。マスクをはじめ、コロナ感染防止のためのフェイスシールドやゴム手袋、ペットボトル、テイクアウト用のランチボックス、手洗い用泡せっけん・消毒用アルコールの容器、除菌ペーパーなどであるが、これら使われたプラスチックが新たな環境問題を起こしている、と日本経済新聞に出ていた(8月20日付)。世界中の河川や海でプラスチックごみが捨てられているのが見つかっている。プラスチックごみが細かく砕ける(マイクロプラスチックになる)と、漁業や生態系に影響を与える恐れもある。

   国連が公表した予測によると、これらの世界的に廃棄されているプラスチックが海に流れて漁業、海上輸送、観光などに与える影響額は年間400億ドル(4兆2千億円)に上るそうだ。国連貿易開発会議は、海岸や海を汚しているマスクや消毒液のボトル、食品トレーなどを「コロナごみ」と呼んで警鐘を鳴らしている。ごみを外に捨てないように心がけることは何にも増して大切なことであるが、プラスチックが含まれる不織布マスクや消毒用アルコールの容器、ランチボックスなどの食品トレーや容器は、コロナウィルス拡散リスクの観点と海洋汚染の観点から、絶対にポイ捨てなどしてはならないごみである。

   「コロナごみ」の行政としての対応は、環境省環境再生・資源循環局長が3月4日付で各都道府県知事・各政令市市長に対し、「新型コロナウイルス感染症に係る廃棄物の適正処理等について」という通知とガイドラインを出しており、それを受けて、ほとんどの市町村のHPには、新型コロナ対策として、家庭内での使用済みにマスクや、鼻をかんだティッシュ等の捨て方が記載されているが、家では適切に処分できても外に出てしまえば家庭内ほどに注意をしなくなって捨ててしまう人々もいるということなのだろうか。

   世界のあらゆる場所で、「コロナごみ」が今後も増え続けると、SDGsで掲げている環境や生態系の保護などの目標達成や、日本が昨年2019年のG20(20カ国地域首脳会議)で、新たな海のプラスチックごみ汚染を2050年までにゼロにする目標「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の達成が大きく後退しかねない。一人ひとりの環境問題への意識や、個人のモラルも大事であるが、現状はそれだけでは解決しないレベルとなっている。スウェーデンのように99%の家庭ごみをリサイクルするための国としての取組や、地方公共団体における具体的な処理対策と合わせ、企業の取組も必要だ。

   こうした中、世界各地で植物由来の素材を使ったマスクなどの開発が相次いでいる。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)では、木の繊維から、微生物によって水や二酸化炭素などに分解される「生分解性」のマスクを開発している。またイギリスの企業は、顔を覆う部分は木材パルプを使いながらも透明度を確保したプラスチックを使わないフェイスシールドの開発に成功した。日本でも同様の取組は始まっていて、植物から取り出したでんぷんなどを使ってマスクを製造する企業も出てきているそうだ。

   企業の中には、今後商品にプラスチック包装を減らす動きも出始めた。大手食品メーカーの「ネスレ」はキットカットなどのチョコレート菓子の袋を2019年9月から紙製に切り替えている。「不二家」も、50年以上前からプラスチック製だった主力商品のパッケージを先月8月から紙製に切り替えた。また、大手飲料メーカー各社はネット通販のペットボトル飲料についてはラベルをせずに販売する取り組みを始めている。紙製の容器を使ったミネラルウオーターも6月に設立したハバリーズ(京都市)や、紅茶などを手がける三井農林(東京・港)などから相次いで発売されている。

   コロナ禍以前でも日本人の1人当たりのプラスチックごみの排出量はアメリカに次いで2番目の多さだった(国連環境計画(UNEP)資料)。日本の商品は過剰包装が多く、レジ袋も大量に使っていた。環境に対する配慮を今一度思い起こし、繰り返し洗えるマスクや、ペットボトルを買う代わりに水筒を使うとか、少しずつ普段の生活の中で工夫しながらプラスチックごみを少なくすることを心がけていくしかない。

 

参照:NHKニュース (2020年7月23日付、9月8日付)

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

躙(にじ)り口を入れば 【SDGs 平等】

   「躙(にじ)る」という日本語がある。動詞で、「座ったまま、少しずつひざを使って進む。」という意味だ(大辞泉)。現在では、茶道の世界でしか使われていない言葉だと思う。

   茶会に客人が招かれて小間(四畳半以下)の茶室に出入りする玄関にあたる場所を「躙(にじ)り口」と呼ぶ。実際に茶室に行かれた方はご経験済みだと思うが、これがまたものすごく狭い。寸法は、高さが2尺2寸から2尺3寸(約67㎝)、幅が2尺から2尺1寸(約63㎝)なので、屈(かが)まないと茶室に入れない。入り方は、まず躙り口の手前の石(沓脱石(くつぬぎいし)、または踏み石)の上で草履(ぞうり)を脱ぎ、屈んで正座の体制で茶室内に入った後、両手をグーにして親指で畳を押しつつ体を前に進む。その後、180度向きを変えて沓脱石の上の草履の裏を合わせて石の横に立てかける(註:実際の作法には入る時に扇子を置いたり、戸の開け閉めの作法も加わる)。ようするに、狭い茶室の玄関である躙り口では、「躙る」しか入りようがないのだ。

   躙り口から茶室に入る作法を考案したのは千利休(1522-1591)である。利休の生きたのは、戦国の時代であり、封建的な上下関係に支配された世であった。だが、利休は、いかなる武将にも茶室に入る時に刀などの武器をはずし、頭を垂れて躙り口から入ることを求め、いったん茶室に入れば、そこは「上も下もない非日常的な空間」であることを示したのである。織田信長や豊臣秀吉をはじめ、多くの殿様や武士らを茶会に招いた際、躙り口から頭を垂れて正座をして入らなければならなかったり、普段は屋敷で家来よりも高い場所(上段、中段、下段など位による差はある)に座っているのに、茶を点(た)てる主人と同じ高さに座ったり、招かれた側の「えらい人々」はさぞかし戸惑ったに違いない。しかしながら、利休亡き後も現在に至るまで躙り口から同様に茶室に入るのが受け継がれてきたのは、その時代じだいの人々が、躙り口から入ることの精神的な意味をしっかりと理解してきたからだと思う。

   もともと人は平等で、本来上も下もないのだ。私たちは日常に暮らしていると、この当たり前だが当たり前でない事実をものの見事に忘れてしまう、というか、無意識に人との関係を「自分の方が上」「自分の方が下」と定義づけて、その定義に沿って自分の感情を合わせていくのである。

   心理学的に言えば、人がコミュニケーションをする相手に対する感情は大きく分けて2つしかない。その人が「好き」か「嫌い」かである。「好き」と決めた相手が、自分よりも立場や人間性、能力などが「上」であると感じた場合、「尊敬や依存」という感情が働いて、その人を頼ったり、その人に言われたことを守ったり嫌われたりしないような行動をとる。逆に相手が自分よりも「下」であると判断した場合、「慈愛や援助」の感情によって、かわいがったり、無償で何かを与える行動を起こすようになるのである。反対に「嫌い」と心が決めた相手に対しては、自分の方が「上」だと思える時には相手に対して「軽蔑や攻撃」の感情が湧き、服従させようとしたり、ハラスメントや虐待などの行為に及ぶケースもある。自分の方が相手より「下」だと思えば、「恐怖、回避」の感情が湧き、その人とのコミュニケーションでは緊張したり、早くその場から逃げ出したい衝動に駆られるのである。対等の立場と意識して付き合う友人、同僚、伴侶に対しても常に「上」「下」の定義づけによって日常の中で相手に取る態度が決められているのである。

   ここで大事なことは、相手との上下関係を定義しているのは常に自分を中心とした相対的な比較なのだ。そして、その定義に必要な材料、例えば財産、年齢、地位、学歴、人間性、経験などがどうだったら「上」で、どうだったら「下」なのかを決めているのも自分なのだ。東大を卒業し、財布に常に50万円の現金を持ち歩き、異性に人気が高い部長がいた場合、「とても羨ましく尊敬できる人」と評価するその人の部下もいれば、その同じ人をハーバード大を卒業し、預金に10億円の資産を持ち、人望も厚い大会社の社長から見た時の評価は違う。人に対して上下を決定づける絶対的な定義や条件など元から存在しないはずである。

   富める国に暮らす人たちの生活のために、貧困の国の労働力が使われ、彼らの大切な森や資源、生態系が破壊される。それが「当たり前」という定義がまかり通る場合、果たして経済力、もしくは貧富の差とはそんなに上下を決定づける要因なのだろうか、という疑問を持つ。SDGs17目標のうち、10番目の「人や国の不平等をなくそう」という表現は、富める国から見た場合には「上」からの目線感覚が芽生えかねない。「人や国はもともと平等であることを改めて再認識しよう」という意識が重要だと思う。

   茶室の狭い入口から入る際に刀を置き、頭を垂れて中に入った将軍には、本来の人としての価値しかない。同様に、富める国の人々も、自分が持っているものを基準として貧困国を評価するという概念を一旦すべて忘れれば、奴隷労働や経済的搾取などの貧困国に対する不平等などが当たり前となっている今の世の中を異常と感じるようになれるかもしれない。

   躙り口から入れば、人が本質的に平等であることがわかる。

 

参考文献:

斉藤勇著「対人感情の心理学」誠信書房1990 対人感情円環モデル 

安藤一重ほか著 産業カウンセリング養成講座テキスト(一般社団法人産業カウンセラー協会) 

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

夢とともに飛ぶ 【SDGs 先端技術】

   手塚治虫や鳥山明の漫画をはじめ、フィフスエレメントやバック・トゥ・ザ・フューチャーなど、さまざまな映画にも登場した「空飛ぶクルマ」が、今や現実のものになりつつある時代になった。トヨタ自動車の出身者が立ち上げたベンチャー企業、「SkyDrive」は、先月8月25日に愛知県豊田市で有人飛行試験を無事に成功させた。人々の移動できる範囲を飛躍的に広げられ、交通渋滞の解消や配達・物流サービスの効率化などにもつながることから、「空の移動革命」と注目されている「空飛ぶクルマ」に関しては、経済産業省が2018年8月より「空の移動革命に向けた官民協議会」を設立し、山間部や過疎村におけるドローンを使った物流や、人々の移動手段としての「空飛ぶクルマ」についてのさまざまな議論を続けている。

   「空飛ぶクルマ」の定義は、実際には複数のカテゴリーに区分されているようだ。まずはクルマのタイプによる区分けで、「空陸両用車」と「電動垂直離着陸機(eVTOL)」の2つだ。 

   「空陸両用車」は、すなわち地上も走るが、空も飛べるというものだ。外観としては翼を持ち、空へ上がるには滑走路による助走が必要となるタイプである。歴史は古く、1920年代に早くもHenry Ford氏が「Flying Car」の開発にチャレンジしている。近年では1997年に岐阜県工業会が「ミラクルビークル」を発表したり、1983年にPaul Moller氏が「Moller Skycar」の開発を開始した。最近ではTerrafugia社が2006年に発表した「Transition」が昨年2019年に市販される報道があった(動画 https://www.youtube.com/watch?v=nnF2yua4KIw)。印象としては翼が折りたためるセスナ機のようではある。

   「電動垂直離着陸機」で、ドローンが大型化したものである。滑走路を使わず、垂直に離陸と着陸を行なうものだ。現在では「eVTOL」が注目を集めている(https://jidounten-lab.com/u_evtol-flying-car-bk)。経済産業省の官民協議会もこのeVTOLの実用化について討議されていることが多く、冒頭の「Skydrive」が成功した有人飛行試験もこのタイプである。歴史としては、2010年にパロット社がマルチコプター型ドローンを販売したのをきっかけに、2011年e-voloが「Volocopter」を飛行試験、2018年にはAirbusが「Vahana」を飛行試験している。

   クルマのタイプでなくアプリケーションとしての定義では、「都市型航空交通(UAM=Urban Air Mobility)」や「Door―to―Door 移動サービス」がある。配車サービス大手の米ウーバーテクノロジーズでは、現在、「エアタクシー」や「空のライドシェア」の実現に向け、eVTOL機を利用した空の移動サービス「Uber Air(ウーバー・エア)」の2023年サービス開始を目指している。実現すれば、スマートフォンで空飛ぶタクシーを呼んだり、災害時の救助活動に役立つことになるだろう。

   今後開発が進めば主流となるのはeVTOLの公算が高く、ANAやJAL、川崎重工業などの大手企業も研究や制度作りに取り組んでいる。実用には課題もまだまだ多い。例えば、開発段階での柔軟な試験飛行許可や認証制度の構築・審査のありかた、eVTOLのバーティポート(離発着ターミナル)の整備、150m未満の低飛行高度における運航のルール、5Gに対応した通信機器や設備等の開発環境の整備や通信規格、バッテリーなどの開発などがある。

   「空飛ぶクルマ」は2040年には、世界の市場規模が150兆円を超えるという予想もあり、今後も参入する企業が増え、一生熾烈(しれつ)な開発競争が繰り広げられることとなるであろう。

   「いつかは空を自由に飛んでみたい」という私たちの夢を乗せて、今日も空飛ぶクルマの開発は進んでいる。

経済産業省 「空の移動革命における官民協議会HP」

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/index.html

パンチョス萩原

三方よしの「ESG金融」 【SDGs 経済成長】

   甲子園球場が17000個も入る巨大な湖が県の面積の6分の1を占め、国宝の彦根城や長浜ラーメンが有名な県、と言えば滋賀県である。関東圏の人々から見ると「ローカルな県」というイメージが強い印象だが、経済はとても活発だ。内閣府の調査ランキングでは、県内総生産に占める、加工・商品化などの第2次産業の割合(45.2%)と、県内総生産に占める製造業の割合(41.1%)ともに全国1位である。そのため、滋賀県が全国で抜きんでて出荷額が一番なものも多く、例として挙げれば、繊維業では、プレスフェルト生地や不織布、印刷業では凸版印刷物、化学工業ではセルロース系接着剤、プラスチック系接着剤などがある(経済産業省調査)。あまり目立たないが、滋賀県は日本人の生活に密接な製品を加工・商品化している工業県なのだ。

   そんな滋賀県の産業を支える金融機関の滋賀銀行(大津市浜町 取締役頭取 高橋 祥二郎)は、近年SDGs推進において非常に真面目に取り組み、持続可能な社会のためのユニークな金融商品も生み出してきた。2018年12月には、全国の金融機関として初めて政府のSDGs推進本部から「ジャパンSDGsアワード」の特別賞「SDGsパートナーシップ賞」を受賞している。この賞は、本業を通じ、パートナーシップを重視したSDGsの推進に取り組む企業に送られるもので、滋賀銀行の地域へのSDGs推進の取り組みが評価されたものである。

   滋賀銀行(通称しがぎん)は、近江商人の「三方よし」の精神を大事にする地方銀行として、従来より「地域社会・地球環境・役職員との共存共栄」の実現をCSR憲章に掲げて経営理念としてきた。その精神から2017年11月には「しがぎんSDGs宣言」を表明し、”お金の流れで社会を変える”と言うテーマを掲げ、金融を通じた社会的課題解決の取り組みで地域に変革をもたらそうとしているのだ。

   しがぎんのユニークな金融商品の一部を簡単に紹介すると、

  • ニュービジネスサポート資金(SDGsプラン)

取引先の社会的課題解決に向けたビジネス創出を資金面で支援する融資商品(ローン)で、社会的課題解決を基点とするアウトサイド・イン(銀行が外側から企業の内側の取り組みを評価すること)の視点で、SDGsに貢献する新規事業に取り組まれるお取引先に対し、最大1億円を、所定の金利から最大0.3%優遇して融資する

  • ニュービジネス奨励金「SDGs賞」新設

起業家育成を目的に、2000年から開講している「サタデー起業塾」。その中で、受講生の優秀なビジネスプランを表彰する「しがぎん野の花賞」に、社会的課題解決を基点とするビジネスモデルを評価する特別賞「SDGs賞」を新設

  • SDGs私募債「つながり」 …2018年9月取扱開始

2014年に取扱開始したCSR私募債を刷新。私募債発行企業に当行独自の「SDGs賛同書」を提出することでSDGsの普及を促進。私募債発行額の0.2%相当をしがぎんが拠出し、学校等に子どもたちの成長を支援する物品を寄贈したり、社会的課題解決を目指す認定NPO法人等に活動資金を寄付。

  • SDGsでつながるビジネス「エコビジネスマッチングフェア」

取引先の環境ビジネス拡大を支援している「しがぎんエコビジネスマッチングフェア」。「SDGs」をテーマに取り入れ、出展企業・ご来場の皆さまと持続可能な社会に向けた思いを共有できる場として開催した

  • 「誰一人取り残さない」住宅ローンLGBT対応開始

住宅ローンの申込みをする際の「配偶者」の基準に「同性パートナー」を含める取り組みを開始。性別や性的指向、性自認等に関係なく、誰もがありのままに自分らしく生活できる地域づくりに貢献する

   上記に加えて、しがぎんは昨年、環境保護などにつながる目標の達成度に応じて貸出金利を優遇する新たな融資「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」を開始した。ESG(環境・社会・企業統治)金融を加速することで、地域で持続可能な経営を普及させる目的だ。スキームは、融資先企業との間で、廃棄物処理でのリサイクル率や温室効果ガス排出量の削減などの目標をあらかじめ設定し、毎年成果を検証して、基準金利から一定の幅で上げ下げを決める。達成できなければ、金利が上がることもあり、企業はESGやSDGsの課題に真剣に取り組むことで環境と自社の経営の向上が可能になる。このローンは、その適格性に関して、国際的な第三者評価機関であるDNV GLによる公平な検証を受ける。しがぎんはローンの融資により、融資先企業の「伴走者」になり、近江商人の売り手、買い手、世間の「三方よし」の実現を目指す。

   すでに内陸工業県で全国1位の滋賀県であるが、持続可能な社会と環境保護を目指す企業を支援し、金利を優遇するといった画期的な「ESG金融」という分野を切り開いたしがぎんによって、今後ますます滋賀県の工業は発展していくであろう。

参照:滋賀銀行HP     https://www.shigagin.com/news/topix/1883/

https://www.shigagin.com/about/sdgs.html

 

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

残り10年のカウントダウン 【SDGs 持続可能な社会への取組】

   今年2020年は、国連総会でSDGs(持続可能な開発目標)が2015年9月に採択されてから、5年という節目の年である。SDGsの期限を迎える2030年までは残り10年となった。

   日本でも、首相が本部長、すべての国務大臣が構成員である「SDGs推進本部」が設置されており、予算も2兆円近くかけてさまざまな活動をしている。今年は「SDGs実施指針」が改訂された。また、この先10年間でするべき項目をまとめた「SDGsアクションプラン2020」も発表された。このアクションプランは、日本の「SDGsモデル」の3本柱である ①ビジネスとイノベーション,②地方創生,③次世代・女性のエンパワーメント に沿って,国内実施・国際協力の両面におけるSDGs達成に向けた具体的取組となっている(外務省HP)。

   世界に目を向けて見ると、各国もSDGsの活動に熱心に取り組んでいる。各国がどのくらい進捗しているか、成果を上げているかが評価されたものがある。「SDGs達成度ランキング」である。これは、「持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)」と「ベルテルスマン財団」が、国連加盟国193か国すべてを対象として、世界銀行、WHO、ILO、および研究センターや非政府組織を含む他の組織によって公開されたデータをもとに作成している。

   2020年6月30日に発表された今年の達成度ランキングによると、上位3カ国は、スウェーデン・デンマーク・フィンランドの北欧の国が占めている。他の北欧諸国では、ノルウェーは6位、エストニアは10位、ラトビアは24位、アイスランドは26位、リトアニアは36位と、193か国のうち、上位を占めている。ヨーロッパ勢ではフランスが4位、ドイツが5位と高かった。日本は17位であった。

   国土が日本の約1.2倍で人口1000万人のスウェーデンは、日本ではIKEAやH&Mが有名であるが、ゴミのリサイクル率が99%であることはあまり知られていない。家庭から回収された年間200万トンにもなるゴミは、50%が廃棄場で燃やされ、熱をリサイクル(地域暖房の熱と発電に利用)、33%はリサイクルで再生原料に、16%が肥料やバイオガスの生産になり、埋め立てられるのは1%に満たない。再生エネルギーでは、ストックホルムやマルメといった主要都市街の市バスは100%バイオガスを燃料としている。生ごみはこのようにすべて再生エネルギーや肥料にされているので、食品ロスの問題もない。

   2012年からは、国内にある32カ所の廃棄物発電所(WTE:Waste-To-Energy)に「燃料」を供給するため、イギリス、イタリア、ノルウェー、アイルランドから年間80万トンほどのゴミを受け入れている。ゴミを輸出するそれらの国が処理料をスウェーデンに支払っているので、ゴミを輸入することで再生エネルギーを作り出し、国の財政も潤っているので一石二鳥だ。実際にはバイオガスの利用でCO2も大幅に削減されるなど、多くのメリットが多い。

   ゴミの収集も世界に先駆けて最先端を突き進んでいて、有名なのはハマービー・ショースタッドという町で行なわれている「循環型都市環境システム」、通称「ハマービーモデル」だ。この町では、マンションや道路に取り付けた円筒形のゴミ箱があり、住民はそこのゴミ箱に分別したゴミを投入する。ゴミ箱は地下にパイプでつながっており、ゴミはコンピュータ制御により、自動的にパイプを下って処理場へ運ばれリサイクルされるという仕組みだ(参照:City of Stockholm https://international.stockholm.se/

   スウェーデンは、ゴミの再利用のほか、太陽エネルギー利用も充実しており、多くの建物の屋根に設置されたパネルを通じて発電や給湯に活用している。また、カーシェアリング、市バス、フェリー、トラムなどの交通システム、歩道や自転車専用道も発達しており、居住者・通勤者の約8割が公共交通機関、徒歩、自転車を移動手段としている。これだけ町が持続可能な環境に整備されていれば世界ランキングでも1位になることは何の疑問もない。

   上述のSDGs達成度ランキングとは別に、国連は2020年7月7日、SDGsの17目標で掲げた数値目標の達成度や進捗状況を公表した(The Sustainable Development Goals Report 2020)。それによると、2015年以降、世界では目標1の「貧困をなくそう」、目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、目標11の「住み続けられるまちづくりを」の3つの目標において、急速な進歩を遂げているそうだ。一方、目標2の「飢餓をゼロに」と、目標15の「陸の豊かさも守ろう」は、世界的に進展が見られておらず、むしろ状況が悪化している。グテーレス国連事務総長は、「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、目標の達成が一層困難になっている」という認識を示した。

   目標達成まで残された期間は10年。何をやるか、というのは、10年後にどんな世界に住んでいたいか、というビジョンから逆算してくればおのずと計画はできる。計画ができたら、あとは、有言実行するのみである。

 

参照サイト:

国際連合広報センター SDGs報告2020 https://unstats.un.org/sdgs/report/2020/

ハマービーショースタット https://www.urnet.go.jp/overseas/AseanSmartCityNetwork/lrmhph0000015tvv-att/14hamabi.pdf

 

持続可能な開発レポート2020 https://sdgindex.org/reports/sustainable-development-report-2020/

 

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

蟻の行列に学ぶこと 【SDGs 技術革新 まちづくり】

   かつて住宅用の断熱材メーカーに勤めていた時、工場のライン稼働最適化と在庫効率化を目指して、東京大学の西成活裕(にしなり かつひろ)教授と仕事を共にさせて頂いたことがある。顧客からの注文納期に対し、十分すぎるほどに在庫がある製品と、生産が追い付かずに欠品を起こしてしまう製品について、生産ライン~倉庫~出荷までのスムーズな製品の流れを構築するというものであった。

   西成教授は「渋滞学」の権威で、様々な場所に現れる「渋滞」現象のメカニズムを物理学的な視点から研究を続けており、世の中から渋滞をなくすことを目指している。日テレの「世界一受けたい授業」でも何度も登壇されている有名な教授である。私は打ち合わせのために東大工学部の研究室には2度ほど訪問したが、学生からもとても人気が高い印象を受けた。

   「渋滞学」は西成教授が、もともと流体力学の研究者として、大学院博士課程から水や空気の流れなどについてずっと研究したものを、モノや車の流れに応用した研究分野で、自ら「渋滞学、Jamology (Jam=渋滞からの造語)」と名付けた。25年間にわたり、車社会とあらゆるモノの流れから、渋滞をテーマにした学問体系を確立した。

   西成教授の渋滞研究で有名なのは、「蟻の行列」だ。常に速度が一定で全く渋滞がない蟻の行列の理由を観察を通して解明した。蟻は、ある程度列が混んできても、基本的に前の蟻と距離を詰めない。これをヒントに車の渋滞にも車間距離があれば渋滞しないことを発見し、計算と実証実験の結果、それが40mであることを突き止めた。さらに研究を重ね、今では車間距離よりも「車間時間」が大事であり、前の車と2秒あけると渋滞にならないことも実証している。三井ダイレクト損保のHPで「MUJIKOLOGY!(無事故+logyの造語)研究所」の所長として、渋滞がなぜ起きるか、また起こさないに車の走り方について動画で解説している。

   残念なことに、大都市や幹線道路の渋滞は依然としてなくならない。国土交通省は、高速道路4社(NEXCO東日本、NEXCO中日本、NEXCO西日本、JB本四高速)における2019年の渋滞ランキングを発表した。1位は東名高速上り(海老名JCT~横浜町田IC)、2位は、中央道上り(調布IC~高井戸IC)、3位は、東名高速上り(東名川崎IC~東京IC)と続く。1位の東名高速上り区間に関して言えば、この区間での渋滞することにより、年間、のべ171万人にも上る人々が1時間無駄にしているという。さらに、国土交通省の試算によると、全国の交通渋滞による年間の経済損失額は約12兆円にもなるという。排出されるCO2も考慮すると、経済面や環境面においても、交通渋滞の解消は深刻な課題の一つとなっている。

   西成教授の研究結果では、高速道路の渋滞原因で最も多いのは、なんと「緩やかな上り坂」だそうだ。緩やかな上り坂は、ドライバーにはさほど意識にならないが、坂に差し掛かると車はわずかに減速をする。すると後続の車との車間距離が短くなり、後続の車はブレーキをかける。その後ろの車はさらにブレーキをかける…渋滞の始まる典型的なパターンである。ランキング1位になった東名高速上りの区間には、大和(やまと)トンネルがあり、毎年GW期間やお盆、年末年始などは大渋滞になる場所だ。トンネルに入ると左右の壁からの圧迫感を感じて自然とスピードが低下してしまうことに加え、緩やかな上り坂のため、車間距離が短ければ短いほど渋滞がすぐに出来てしまう構図となっている。交通事故のおよそ20%は渋滞時に起きる、と西成教授は言う。事故が起きればさらに渋滞がひどくなる悪循環に陥ってしまうのである。実は事故が起きると反対側の車線の車も渋滞する。ドライバーたちが何事か?と減速して状況を見てしまうからだ。やはり、根本的に渋滞が出来るメカニズムを解消しなければならない。

   近年、自動運転の車の普及が始まりつつある。2018年のミシガン大学の研究によれば、自動運転のコネクテッドカーが1台走行するだけで渋滞が緩和されるそうだ(自動運転LABサイト)。自動運転の車は、常に適切な車間距離をとり、前に走っている車を常に監視しているため、その車のスピードが落ちてくればいち早く気づき、迅速かつ最低限のブレーキをかけるのだ。将来自動運転の車が増えてくれば、「蟻の行列」のように自動的に車間距離が保たれ、渋滞は大きく緩和されるに違いない。ただ、そんな自動運転技術の進歩を待つのでなく、私たちがもう少し車間距離を取りつつ運転することで、渋滞は大きく解消される。我先にスピードを出して追い越したり、急ブレーキを踏むような運転ではなく、それぞれの車が他の車に思いやりを持って譲り合い、ペースを合わせて走行することが今求められているのである。

   渋滞をなくすための自動運転技術や、走りやすい道路の建設などによる渋滞の緩和は、SDGsの17目標中、9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう」と、11番目の「住み続けられるまちづくりを」の実現に大きく貢献する。将来、レジャーや出張で高速道路を利用する場合には、渋滞情報など事前に見る必要がない日が来るかもしれない。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

東京一極集中化 【SDGs 持続可能なまちづくり】

   連日、どの放送局でも流される新型コロナウィルス関連のニュースでは、ほとんどのニュースキャスターが、「今日、東京都では感染者数が…」という形で始める。知事としてコメントを語るのも、だいたい小池百合子東京都知事だ。東京および東京近郊に暮らす人にとっては直接的な話だが、それ以外の地域に暮らす人々にとっては、もっと自分たちの道府県について詳しく知りたいのでは、と拝察する。

   東京都は、日本の国土面積から見ればほんの0・6%なのに、総人口の約11%を占める1400万人ほどの人々が暮らしている。特に港区、中央区、千代田区の三区には、政治・経済・マスメディア・教育・文化と芸能をはじめ、あらゆる分野が集中している。全国にある資本金10億円以上の企業の約半分、外資系企業に至っては80%が東京に本社オフィスを構える。そんな東京都のGDPは、日本全体約2割を占めている(東京都産業労働局資料ほか)。

   いま、新型コロナ禍で会社活動から「出張が減少」し、「テレワーク」や「オンライン会議」などがかなり浸透してきた今、「東京一極集中化」が ”再び” 見直されつつある。

   これまでも「東京一極集中化」を緩和する政策として、今より40年近く前から幕張新都心(千葉県)、みなとみらい21地区(神奈川県)、臨海副都心地区、つくば学園都市(茨城県)などの首都圏内および近郊の都市開発が進められてきたが、それでも東京都の政治や経済などの機能が移転しているとは思えない現状だ。大阪府でも今から2カ月後の11月1日に「大阪都構想」の是非を問う住民投票が行なわれる予定だが、こちらは東京一極集中化の緩和というよりも、大阪府と大阪市の二重行政をなくそうという目的の方が大きい。だが、ここへ来て、コロナの影響で大企業を中心にリモートワークが増え、「わざわざ都心の一等地に高いオフィスを構える必要がない」という声も多く聞かれるようになり、東京都心のオフィスの縮小や解約を報じるニュースも増えてきた。人材派遣大手のパソナグループ、東京の本社機能を段階的に兵庫県の淡路島に移すと発表した。経営企画や総務、財務経理、広報などの約1800人のうち1200人を9月から2023年度末までに順次移す計画である(日本経済新聞9月1日)。グループ代表の南部靖之(なんぶ・やすゆき)氏は、「自然豊かな環境で通勤ラッシュから解放されて働くという、心の豊かさにもつながります」と語る(日経ビジネス9月3日)。

   今後、パソナグループのように本社移転を考える企業が増えるかもしれないが、大事なことは、地方の受け入れ態勢と移転による地域経済効果だと思う。移転する企業に対しては、税金面の優遇であり、それに伴う人々の移転先の災害対策と医療体制の確保、保育園・学校などの教育施設の充実、行政サービスの拡充、道路、鉄道・バスを含む公共交通機関のインフラ整備も必要となる。受け入れる側に対しては雇用の創出や地域の商業活性化につながる政策が必要だ。こうした取り組みは、実はコロナ以前の2015年に「地域再生法」が施行された段階で政府が注力してきたが、実際の成果は未だ政府が当初目標とした水準の5%にとどまっているのが現状である。

   政府も東京都から三権(立法・行政・司法)の中枢機能を東京圏外の地域へ移転する構想、いわるゆ「国会等の移転」を打ち出し、平成11年に国会等移転審議会答申が出されてから、国会において検討が進められている。これまでの進捗や調査結果は国土交通省のHPで閲覧できる。さすが国土交通省、と言うべきか、移転先の自然豊かな地方都市や町で、どのように人が自然と共生するかを考える事前調査では、地域の緑地帯を二次林、植林地、農耕地等に区分し、里山型動物からみた生物多様性を地域ごとの哺乳類分布の特性に分け、里山に生息するキツネ、タヌキ、ニホンリスと、奥山に生息するツキノワグマの出現率を解析している。つまり、「どの地域に移転したらタヌキに遭遇する確率が高いか?」、といった内容で非常に興味深い。

   農山村の動向を分析する「持続可能な地域社会総合研究所」が過疎市町村の人口動態を調査した結果によれば、2014年と2019年を比較して30代女性の増減率を調べると、3割の過疎市町村で増え、特に山間部や離島で増加が顕著になっているそうだ。鹿児島県三島村、島根県知夫村、北海道赤井川村などで増えているらしい(日本農業新聞2020年8月19日)。

   都心で働く人々が自然に囲まれた地方で同じように働き、プライベートな暮らしも充実していけたら本当に素晴らしい。ポストコロナではさらにこうした動きが加速するかもしれない。SDGsが目指す「持続可能なまちづくり」が日本中の各地域で活性化していくことに期待したい。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

社会を支えるもの 【SDGs 職業】

   人が職業を選ぶとき、世の中にある膨大な数の職種の中から、自分の能力や適性、興味、さらには報酬や将来性などによって、自分にとって一番と思う仕事を選択するのが一般的だ。私も含め、多くの人たちは、就職するにせよ、自営や起業するにせよ、「自分らしく生きることができる仕事」を選ぶ。そのために学校で必要な学習や訓練を行ない、就職活動や開業準備を行ない、やがて希望の職種に就くことができればとても幸せなことだ。

   自分に合った職業を探す際によくあることとして、人はたくさんの特性や価値観を持っているために、やりたい仕事や勤めたい会社を一つに絞るのが難しい、ということがある。なので、良かれと思って希望する会社に就職しても、あとあと「これがやりたかったのか?」と疑問を持つようになったり、また、頑張って仕事を続けていても、今度は職場での人間関係や与えられた仕事に対する自分の能力や適性に対する悩みや、経済的な不安などが湧いてきたりして、職場に行くのが辛くなってしまうケースも本当に多い。反対に、周囲から実力が高く評価されて出世をしたのにも関わらず、「自分はただ運が良かっただけで、本当はこんなポジションになるほど才能も実力もない。いつか化けの皮が剥がれて人々から認められなくなる日がくるのではないだろうか。自分は人を騙しているのではないだろうか」などと不安になり、自己を過小評価してしまうインポスター(詐欺師)感情にとらわれてしまい、出世したことが大きなストレスになる人々も中にはいる。私たちはいかなる時にも多くの悩みや不安と隣り合わせで働いているのだ。

   今の時代は自分に合わない会社にずっと勤めるよりも、思い切って転職をしたり会社を起業したりする人々も特に珍しいことではなくなってきたが、どんな時でも「常に自分らしく生きることができる仕事をしたい」という思いが根底にある。政府や企業が推進している「働き方改革」は誰もが最も働きやすく、平等に楽しく働くことができる制度や環境にしていこう、という行動であるが、「何が最も自分らしく生きることができる仕事」なのかを定義し、いかに獲得していくかは、各個人の意思と行動に委ねられていることは間違いない。

   自分の力で「天職」を探すのが困難な場合、本当にその人にぴったりと合う職業に出会えるように、現在では職業コンサルタントや就職あっせん会社、ハローワーク、ヘッドハンターなどの職業支援をしてくれる会社が多数存在している。初めて就職する場合だけでなく、転職する時にもこれらサービスはとても役に立つ。しかしながら、どんな場合でも自分に一番合った会社や職種を探す際のキャリアガイダンスでは、冒頭に書いたような、その人の潜在的な能力(職業適性)、専門知識・技術・技能、獲得している教育や訓練、性格や価値観などの個人的特性、生活活動(趣味や余暇の過ごし方)、そして希望する組織や報酬体系、地域条件などをまず確認していく作業があり、その分析結果によって職業支援する側ではその人に一番ふさわしいと思われる職種や会社を紹介するしくみだ。転職に対する考え方はいろいろあるだろうが、より人生を豊かにするならば大いにチャレンジするのは良いと個人的に思う。また転職支援サービスを受けている中では、自分の性格や適性などを再発見することもある。

   人々が自分にベストフィットした職業に就きたいと思う中で、日本の労働市場を見てみると、今年はコロナ禍による営業自粛や休業要請によって経済・社会活動が大幅に停滞しており、雇用情勢が急激に悪化している。厚生労働省が公表した2020年5月の有効求人倍率(季節調整値)も、1.20倍と5カ月連続で低下している厳しい現実はある。だが、それでも一人の求職者に対し、企業からの求人数が1.2件あるので、欧米に比べると日本の失業率はこの7月でも2.9%にとどまっている(総務省統計局 労働力調査2020年7月分結果)のは救いだ。ただ、万が一このままコロナ禍が経済に与える影響が続くとすれば、既に全国で441件にも上るコロナ関連で倒産した企業(破産410件、民事再生法適用31件)と廃業した企業73件(帝国データバンク調査9月10日現在)も今後さらに増えることも予想され、自分らしく生きるためのキャリアに就くことはおろか、就職に困る人々も増えてしまうことも危惧されている。最近のビジネス週刊誌などでは「コロナ大失業時代」やら「コロナ氷河期」などで失業率も6%になり、さらに265万人が職を失う、だとか、倒産しそうな会社ランキングなど、個人的にはあまり読みたくもない見出しで人々の不安を煽るような内容のものまで登場している。

   テレビが伝える連日の感染者数や、低迷している経済状況など、確かに将来的な不安や心配もあるが、コロナ禍は日本のみならず、世界中のすべての国において何としても乗り越えていくべき試練であって、このような状況におかれた社会に暮らす私たちは、自分や家族の健康と安全を確保するためのウィズコロナにふさわしい生活にまず心がけ、自らのキャリアにおいては、前代未聞のコロナという危機の中でも、何とかビジネスチャンスを見出し、精一杯与えられた仕事を全うしていくほかない。今まで以上に大きく視野を広げ、社会的な助け合いや支え合いなど、自らの関わりによって社会が少しでも向上していくための利他的な行動を続けていくことで、厳しい状況を皆で乗り切っていくことが大事である。

   私たちは、多様性の中でそれぞれに合った仕事を見つけ働いている。仕事を通して生計を維持したり、自己実現をしているが、それと同じくらいに、お互いがおのおのの能力を社会のために役立てることで社会は成り立っているのである。これからの社会を支えていくのも、それぞれの役割を持つ私たち一人一人だ。社会をより良いものにしようという時、何かすごく大それたことをする必要はない。明日をどんな社会で暮らしたいのか、自分がどうありたいのか、ということを考え、実直にできることからやることが結局一番大事なことだと思う。決して平坦な毎日ばかりではないが、与えられている仕事にやりがいを持って今日も働く。

びっくりするような好プレイが、勝ちに結びつくことは少ないです。
確実にこなさないといけないプレイを確実にこなせるチームは強いと思います。
” (イチロー)

                                 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

日本における町の形成 【SDGs 住みよいまちづくり】

   日本と外国の都市を比較した場合、根本的に違うものは何か? そう聞かれたら、何を思い浮かべるだろうか。   

   私なら、「道路」のありかたと答えるだろう。日本の主要道路には、「国道1号線」や「県道17号線」などの名称はあるが、「〇〇通り」という名称は一部の大都市を除き、基本的についていない。実際、自宅の前の道に「さくら通り」とか「国際通り」とか名前がついていない道路の方がはるかに多い。ところが、諸外国ではどんな小さな通りにも名前がついている。しかも闇雲にではなく、道路の大きさに合わせた呼び名(Avenue, Boulevard, Street, Driveなど)や、名前の付け方にきちんとしたルールがある。通りに名前がついているので、住居表示も「〇〇通り△△番地」と非常にシンプルだ。中国でも同様で、タクシーに「〇〇路に行ってください」と言えば迷うことなく連れて行ってもらえる。

   これに対し、日本の住所は「××町〇丁目△番地◇号̻」と町のブロックごとに定まっているが、必ずしもブロックが順序正しく並んでいないので、住所はわかっても実際に探すとなると骨が折れる時が多い。これはもう、文化の違いとしか言いようがないのだろう。ちなみに住所を「〇丁目△番地…」とする仕組みは、日本と韓国で採用されていたが、韓国は2014年に、検討から17年もの歳月をかけて諸外国に合わせて道路名と建物番号を住所表示とする形にしたため、今では日本だけとなった。

   また、海外に旅行や出張で行かれた方々なら、町の様子も日本は外国と違っていることをお気づきのことと思う。外国の場合、町の中心にあるのは、教会か商業地や広場、もしくは歴史的なモニュメントだ。そこに人々が集まり、地域のコミュニティが生まれてきた。一方、日本の場合、江戸時代に日本橋を起点に伸びる東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道の五街道が整備され、人と馬が休息をとるための宿場町が街道沿いに生まれて経済が発展した。その後明治5年(1872年)に、新橋駅 – 横浜駅間で鉄道が開業してから全国に鉄道が普及するに従い、町の中心は鉄道駅となっていった。今では駅周辺や駅地下に大規模な商業施設が建設され、駅からほど近い場所に高層マンションが立ち並ぶ。この結果、駅前の商店街は大変賑わうが、かつて栄えたお城や寺院に近い商店街は生活物資というよりも、観光のお土産店などになってきた。

   しかし、最近は道路も負けてはいない。自動車の進化で交通事故率も減少し、公共バスの普及したことで、街道沿いの発展も目覚ましい。大規模なショッピングモール、ホームセンター、道の駅、ファミリーレストラン、ドライブスルーなどが国道や県道沿いに増えてきた。こうして、日本の町は鉄道駅や主要道路など、交通機関の利便性をもとに形成されてきたのである。

   令和の現在、日本列島をくまなく縦断する形で整備された高速道路は老朽化した箇所から随時リニューアル工事が行なわれている。かつてはトラック輸送を減らして電気で走る貨物鉄道を利用して低炭素な社会を実現していく「モーダルシフト」が注目されていたが、「CASE(Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字)」と呼ばれる新しい領域での技術革新が進んでクルマの概念が変わってきた。それにより、EV(電気自動車)の普及や自動運転が日常になってきたために、かつては環境問題でネガティブな立場であった道路の概念も変わりつつあり、今後も道路が人やモノの移動において大きな役割を持ち続けるであろう。

   国土交通省は、この2020年6月に、新型コロナ禍で生活が大きく変わったことによる「ニューノーマル」における道路の在り方や、今から20年後までに実現したい道路のさらなる付加価値創造についてのビジョンを掲げた。その中には、道路の価値を高めるさまざまなアイディアを盛り込んでいる。例えば5Gの大容量通信技術などでさらにテレワークの利便性が増し、人々が暮らしやすい郊外に居住すれば、都心まで通勤する必要がなくなるため、道路整備を都会から放射線状に広がる道(ハブ・アンド・スポーク)の形から多様な ODペア(出発地と到着地の組合せ)に対応したポイント・トゥ・ポイント型に移行し、人々が地方でより充実した生活を送れるような道路にしようという考えを打ち出している。また、道路にもっと楽しむ機能(旅行、散策、健康のためのウォーキングやランニングをはじめ、徒歩や自転車通勤しやすい道、気軽に休憩したりできるビュースポットやベンチ、オープンカフェ等を道路上につくることも目指していたり、最近多い災害に対して強い道路、すなわち、被災して通れなくなる道路でなく、むしろ救援するために使われる道路(道路に埋設したり隣接した電気設備や通信ケーブルが途絶えることなく被災地の支援に役立ち、救急車や災害支援の車がスムーズに通行できる道路、などの建設を目指している。構想の実現は2040年とのことだが、上述のような、安全、便利かつ環境アメニティの機能を備える道路が日本中にできれば、私たちの暮らしはさらに豊かなものとなることは間違いない。

   国土交通省が目指す、近未来の道路ビジョンは、実にSDGsの17目標のうち、11個の目標達成に向けた総合的な取り組みとなっていて、今後ますます道路は都市にとって大事なインフラとなっていくことだろう。道路がさらに人々の生活向上に貢献していけば、道路に対する親近感も湧き、いつかは町の小さな道路一つひとつにも素敵な名前がつく日が来るかもしれない。

参考サイト:

国土交通省「2040年道路の景色が変わる」

https://www.mlit.go.jp/road/vision/pdf/01.pdf

パンチョス萩原