夢とともに飛ぶ 【SDGs 先端技術】

   手塚治虫や鳥山明の漫画をはじめ、フィフスエレメントやバック・トゥ・ザ・フューチャーなど、さまざまな映画にも登場した「空飛ぶクルマ」が、今や現実のものになりつつある時代になった。トヨタ自動車の出身者が立ち上げたベンチャー企業、「SkyDrive」は、先月8月25日に愛知県豊田市で有人飛行試験を無事に成功させた。人々の移動できる範囲を飛躍的に広げられ、交通渋滞の解消や配達・物流サービスの効率化などにもつながることから、「空の移動革命」と注目されている「空飛ぶクルマ」に関しては、経済産業省が2018年8月より「空の移動革命に向けた官民協議会」を設立し、山間部や過疎村におけるドローンを使った物流や、人々の移動手段としての「空飛ぶクルマ」についてのさまざまな議論を続けている。

   「空飛ぶクルマ」の定義は、実際には複数のカテゴリーに区分されているようだ。まずはクルマのタイプによる区分けで、「空陸両用車」と「電動垂直離着陸機(eVTOL)」の2つだ。 

   「空陸両用車」は、すなわち地上も走るが、空も飛べるというものだ。外観としては翼を持ち、空へ上がるには滑走路による助走が必要となるタイプである。歴史は古く、1920年代に早くもHenry Ford氏が「Flying Car」の開発にチャレンジしている。近年では1997年に岐阜県工業会が「ミラクルビークル」を発表したり、1983年にPaul Moller氏が「Moller Skycar」の開発を開始した。最近ではTerrafugia社が2006年に発表した「Transition」が昨年2019年に市販される報道があった(動画 https://www.youtube.com/watch?v=nnF2yua4KIw)。印象としては翼が折りたためるセスナ機のようではある。

   「電動垂直離着陸機」で、ドローンが大型化したものである。滑走路を使わず、垂直に離陸と着陸を行なうものだ。現在では「eVTOL」が注目を集めている(https://jidounten-lab.com/u_evtol-flying-car-bk)。経済産業省の官民協議会もこのeVTOLの実用化について討議されていることが多く、冒頭の「Skydrive」が成功した有人飛行試験もこのタイプである。歴史としては、2010年にパロット社がマルチコプター型ドローンを販売したのをきっかけに、2011年e-voloが「Volocopter」を飛行試験、2018年にはAirbusが「Vahana」を飛行試験している。

   クルマのタイプでなくアプリケーションとしての定義では、「都市型航空交通(UAM=Urban Air Mobility)」や「Door―to―Door 移動サービス」がある。配車サービス大手の米ウーバーテクノロジーズでは、現在、「エアタクシー」や「空のライドシェア」の実現に向け、eVTOL機を利用した空の移動サービス「Uber Air(ウーバー・エア)」の2023年サービス開始を目指している。実現すれば、スマートフォンで空飛ぶタクシーを呼んだり、災害時の救助活動に役立つことになるだろう。

   今後開発が進めば主流となるのはeVTOLの公算が高く、ANAやJAL、川崎重工業などの大手企業も研究や制度作りに取り組んでいる。実用には課題もまだまだ多い。例えば、開発段階での柔軟な試験飛行許可や認証制度の構築・審査のありかた、eVTOLのバーティポート(離発着ターミナル)の整備、150m未満の低飛行高度における運航のルール、5Gに対応した通信機器や設備等の開発環境の整備や通信規格、バッテリーなどの開発などがある。

   「空飛ぶクルマ」は2040年には、世界の市場規模が150兆円を超えるという予想もあり、今後も参入する企業が増え、一生熾烈(しれつ)な開発競争が繰り広げられることとなるであろう。

   「いつかは空を自由に飛んでみたい」という私たちの夢を乗せて、今日も空飛ぶクルマの開発は進んでいる。

経済産業省 「空の移動革命における官民協議会HP」

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/index.html

パンチョス萩原