声の伝達を超えて 【SDGs 技術革新】

   「カステラ1番、電話は2番、3時のおやつは文明堂~」とオッフェンバッハの「天国と地獄」の軽快なテンポに合わせて小熊たちがラインダンスをするテレビCMは、私が子供の頃からある。CMの「電話は2番」は本当か?と、文明堂のHPを見てみると、文明堂東京本社の電話番号03-3351-0002に続き、ほとんどの支社、工場も下4桁は「-0002」となっている。

   文明堂の電話がいつの時代の「2番」なのかは寡聞にして存じ上げないが、日本で初めて電話のサービスが始まったのは、イギリスから磁石式のガワーベル電話機が輸入された明治23年(1890年)である。明治23年は、初めて衆議院の総選挙が行われたり帝国議会が開かれたりして、日本の近代化が本格的に始まった年だ。当時の電話加入数は、わずか197世帯(東京155世帯、横浜42世帯)と非常に少なかった。設置された電話は役所や通信社、交換所などがほとんどで、加入者は1番から順に割り当てられていた。1番は現在の都庁(東京府庁)であった。個人名での登録は大隈重信、渋沢栄一など政治やビジネスのトップランナーぐらいしかいなかった。電話と電話は交換所で交換手によって手動で繋げていた。当時の電話代は1カ月契約で現在の貨幣価値で約15万円、東京~横浜間は通話5分2250円ほどだ。一般庶民の給与で到底加入できるレベルではない。

   日本人が初めて電話機を見たのは、上記からおよそ40年遡(さかのぼ)った1853年、ペリー提督が浦賀に来航した際、日本側に献上したエンボッシング・モールス電信機というもので、ペリーは2台アメリカから黒船に積んで持ってきていた。実演はペリーらがいた応接所と地元役の家の間に1マイルほどの電線が張られ、アメリカ人民間技師2名が操作した。ペリーが記した遠征記に、その時の状況が残されている。「両端にいる技術者の間に通信が開始されたとき、日本人は烈しい好奇心を抱いて運用法を注意し、一瞬にして消息が英語、オランダ語、日本語で建物から建物へと通じるのを見て大いに驚いた。毎日毎日役人や多数の人が集まって技手に電信機を動かしてくれるようにと熱心に懇願し、通信が往復するのを絶えず興味を抱いて注意していた。」(原文ママ 引用「城水元次郎著 電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの」)。目を丸くして電話機を眺める当時の日本人たちが偲ばれる。

   庶民らに電話が身近になったのは、町に公衆電話が設置された明治33年(1900年)である。上野駅と新橋駅(当時は停車場といった)にそれぞれ屋内に1台ずつ設けられた。その当時はようやく1万世帯まで電話加入数は増加し、「もしもし」という電話の挨拶が定着してきた。しかしながら、一般家庭に普及はしていなかった。

   昭和の時代に入ると、電話機の進化と通信関連の行政化が進んだ。いわゆる「黒電話」の元祖となる「3号自動式卓上電話機」が登場した。昭和8年(1933年)には、郵便や通信を管轄していた逓信省(ていしんしょう)によって、日本国内で制式化され、やがて、現在のNTTの前衛であった日本電信電話公社(昭和27年(1957年)設立)に管理が引き継がれていく。ダイヤル式が普及する中で、ボタン式のプッシュポンが昭和44年(1969年)に登場する頃には黒だけでなくグレー、ホワイト、グリーン、レッドなどのカラー機も人気となった。昭和55年(1980年)にはコードレス電話が登場した。そうして、ようやく今から25年ほど前の平成7年(1995年)、デジタル化されたコードレス電話PHSのサービス開始となったのである。誰もが「ピッチ」と呼んでいたこのPHSの普及で、働き方が大きく変わった。

   平成9年(1997年)になると、インターネットに接続できる携帯電話が登場し、やがてコンパクトに折りたためる「ガラケー」となり、ついに平成20年(2008年)、ソフトバンクがiPhoneを販売し始めたことで、日本でもスマートフォン(スマホ)が普及し始めた。今年現在の携帯電話普及台数1億2590万台のうち、8割に近い台数は既にスマホだそうだ。歴史的にみて、日本に電話が誕生して150年、スマホの歴史は実に12年しかないが、高速ブロードバンド通信の技術革新とスマホ自体の進化は年々目覚ましく、これから訪れる5G世代の通信速度は20Gbs(1秒間に200億ビット)で、30年前の電話と比べると速度は1万倍だ。

   総務省情報通信白書(平成27年度版)によれば、全世界の携帯電話加入数は2003年には13億8520万人であったが、2014年70億6390万人に増えており、大塚商会のHPでは出典元は調べ方が悪かったのかよくわからなかったが、2020年の加入数予測が88億人という数字が記載されている。特にアフリカでの携帯電話普及率が近年爆発的となっており、携帯電話利用が、電力や水道などの他のインフラの普及に先行し、アフリカ諸国等の低所得国を含む全世界へと広がっている形だ。アフリカ諸国等では、普及した携帯電話を活用して、金融、医療などの様々な分野での産業革新や生活改善が行われている。

   近代日本の発展に大きく貢献した電話の普及。そして現在、携帯電話の普及を契機とした社会経済の急激な変化の「モバイル革命」が起きている。持続可能な社会に通信は欠かせない。ネット販売などの商業利用、災害時での使用、遠隔地における教育、ひいては健康管理やライフワーク支援、通信の発達で人の移動せずに済むことによる省エネルギー化など、本当に多岐に渡ってSDGs目標に貢献している。

   カステラ1番だが、「電話も1番」だと思う。

出典:

KDDI Time&Space  https://time-space.kddi.com/

参照文献:

城水元次郎著 電気通信物語―通信ネットワークを変えてきたもの(2004年 オーム社)

明治時代の「1円」の価値ってどれぐらい? man@bow  https://manabow.com/zatsugaku/column06/

NTT西日本 電信電話の歩み https://www.ntt-west.co.jp/info/databook/34/index.html

総務省 電気通信サービスの提供状況・利用状況 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd232210.html

平成27年版 情報通信白書 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/pdf/n2300000.pdf

ITU World Telecommunication/ICT Indicators 資料ほか

 

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)