顔の革命 【SDGs ハーモニー】

   30年も前のことだが、「顔の革命」という子供向けの愉快な物語を聞いた。確かこんな話だった。

   あるとき、顔の中の、「口(くち)」がこう切り出した。「あぁ、忙しい! 私はいつでもご主人様がしゃべる時や、ごはんを食べたり、ジュースを飲んだりする時は、ずっと働いているのよ。本当に休む暇もない!何でこんなに私ばかり忙しいのよ!」すると、双子兄弟の「目(め)」がこういった。「何を言ってるんだい、口さん、俺たちの方こそご主人様が見たいものをいつでも見せているんだよ。俺たちの方が忙しくてたまらないよ。」「いやいや、待ってよ。」と今度は双子姉妹の「耳(みみ)」が喋りだした。「あたいたちはご主人様が他の人と話をするためにその人の声を伝えたり、素敵な音楽を聴かせたり、あたいたちが一番忙しいんだ!」「何言ってるの?私よ!」「俺たち目が一番だ!」「いやいやあたいたちよ!」…と口と目と耳は自分が一番忙しい、と言い合って譲らない。言い争いは果てしなく続いた。

   しばらく経った時、ふと、目がこう言いだした。「…、ちょっと待てよ?…なぁ、みんな。ふと思ったんだんだが…。ほら、俺たち全員がいる顔の真ん中にもう一人いるだろ…ほら、「鼻(はな)」だよ、鼻。いったいあいつは何してんだ?」 「え? あ、いるわね、そういえば、鼻が。だいたいあのヒトは顔の真ん中にでんと胡坐(あぐら)をかいて座っているくせに何もやっていないじゃないのよ」、耳たちもそうつぶやいた。「本当ね。鼻って何の役にも立っていないじゃないの。こっちがこんなに忙しいのに、ホント腹が立つわね!」、口も続いた。

   「おい、鼻、お前いったい何やってんだ?俺たちがこんなに忙しいのに、何の役にも立たないお前がそこにいるとこっちがいい迷惑だよ!」と目が鼻に向かって叫んだ。「そうよ、そうよ」「ほんとに役立たずなんだから!」

   すると、じっと静かに聞いていた鼻がのそっとした声で言った。「…そうですか…、皆さんお揃いで私が役に立っていないから邪魔だと言うんですね…。いいでしょう。では私は働くのをやめるとしましょう。さようなら」、そう言って、鼻はシューっと二つの穴を閉じてしまった。

   鼻がつまってしまったおかげで、しばらくも立たないうちに、呼吸が苦しくなり、口はハァハァと息が荒くなった。目からは涙がボロボロ流れ、耳はキーンとものすごい耳鳴りがしだした。「やゃ、これはたまらん!鼻が動かなくなるとこんなことになるなんて!わ、わかったよ、鼻さん、ごめんなさい。頼むから閉じたままにしないで!」

   「ごめんなさい」「ごめんね。もう役立たずなんで言わないよ。」「なぁ、みんな。僕たちはそれぞれ色々な役割でご主人様のためにみんな働いているんだね。もう誰が忙しいかなんて言い合うのよそうね。」

   「顔の革命2」の話もある。

   あるとき、またまた「口(くち)」が愚痴をこぼし始めた。「みんな忙しいのはわかったけど、何で私が顔の中で一番下にいなきゃあならないのよ。これじゃ私が一番の下っ端ってことじゃない。そんなの許せないわ! ねぇ、「目(め)」さん、ちょっと場所変わってよ。あなたたち一番上でズルいじゃないの!」 そう言ったが早いか、口は無理やり目を押しのけて顔の一番上に収まった。目はしかたなく口がいたところに移動し、鼻は目が移動するときにぶつかった拍子でくるっと逆さになってしまった。一番上に収まった口は嬉しくて大満足だった。

   しばらくしてご主人様が牛乳を飲み始めた。口は牛乳をきちんと受け止めていたが、慣れない場所に来たので、途中、口から牛乳をドバドバとこぼしてしまった。するとこぼれた牛乳が上を向いている鼻の穴の中に流れ落ち、そして目の中に入った。「いててて、いてて」「痛いよー、助けてぇ!」鼻と目は悲鳴を上げた。「だ、だめだよ、口さん、これじゃあ毎日たまったもんじゃないよ!」目がたまらず叫んだ。「ご、ごめんなさい、鼻と目さん。私がどうして顔の一番下にいるのか、今、よーくわかったわ。そこが私にとっても、みんなにとっても、最高の場所ってことも。」

   100冊のSDGs関連の本を読むよりも、この2つの物語は、人と人との相互依存、適材適所の意味と大切さを教えてくれる。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)