日本における町の形成 【SDGs 住みよいまちづくり】

   日本と外国の都市を比較した場合、根本的に違うものは何か? そう聞かれたら、何を思い浮かべるだろうか。   

   私なら、「道路」のありかたと答えるだろう。日本の主要道路には、「国道1号線」や「県道17号線」などの名称はあるが、「〇〇通り」という名称は一部の大都市を除き、基本的についていない。実際、自宅の前の道に「さくら通り」とか「国際通り」とか名前がついていない道路の方がはるかに多い。ところが、諸外国ではどんな小さな通りにも名前がついている。しかも闇雲にではなく、道路の大きさに合わせた呼び名(Avenue, Boulevard, Street, Driveなど)や、名前の付け方にきちんとしたルールがある。通りに名前がついているので、住居表示も「〇〇通り△△番地」と非常にシンプルだ。中国でも同様で、タクシーに「〇〇路に行ってください」と言えば迷うことなく連れて行ってもらえる。

   これに対し、日本の住所は「××町〇丁目△番地◇号̻」と町のブロックごとに定まっているが、必ずしもブロックが順序正しく並んでいないので、住所はわかっても実際に探すとなると骨が折れる時が多い。これはもう、文化の違いとしか言いようがないのだろう。ちなみに住所を「〇丁目△番地…」とする仕組みは、日本と韓国で採用されていたが、韓国は2014年に、検討から17年もの歳月をかけて諸外国に合わせて道路名と建物番号を住所表示とする形にしたため、今では日本だけとなった。

   また、海外に旅行や出張で行かれた方々なら、町の様子も日本は外国と違っていることをお気づきのことと思う。外国の場合、町の中心にあるのは、教会か商業地や広場、もしくは歴史的なモニュメントだ。そこに人々が集まり、地域のコミュニティが生まれてきた。一方、日本の場合、江戸時代に日本橋を起点に伸びる東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道の五街道が整備され、人と馬が休息をとるための宿場町が街道沿いに生まれて経済が発展した。その後明治5年(1872年)に、新橋駅 – 横浜駅間で鉄道が開業してから全国に鉄道が普及するに従い、町の中心は鉄道駅となっていった。今では駅周辺や駅地下に大規模な商業施設が建設され、駅からほど近い場所に高層マンションが立ち並ぶ。この結果、駅前の商店街は大変賑わうが、かつて栄えたお城や寺院に近い商店街は生活物資というよりも、観光のお土産店などになってきた。

   しかし、最近は道路も負けてはいない。自動車の進化で交通事故率も減少し、公共バスの普及したことで、街道沿いの発展も目覚ましい。大規模なショッピングモール、ホームセンター、道の駅、ファミリーレストラン、ドライブスルーなどが国道や県道沿いに増えてきた。こうして、日本の町は鉄道駅や主要道路など、交通機関の利便性をもとに形成されてきたのである。

   令和の現在、日本列島をくまなく縦断する形で整備された高速道路は老朽化した箇所から随時リニューアル工事が行なわれている。かつてはトラック輸送を減らして電気で走る貨物鉄道を利用して低炭素な社会を実現していく「モーダルシフト」が注目されていたが、「CASE(Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字)」と呼ばれる新しい領域での技術革新が進んでクルマの概念が変わってきた。それにより、EV(電気自動車)の普及や自動運転が日常になってきたために、かつては環境問題でネガティブな立場であった道路の概念も変わりつつあり、今後も道路が人やモノの移動において大きな役割を持ち続けるであろう。

   国土交通省は、この2020年6月に、新型コロナ禍で生活が大きく変わったことによる「ニューノーマル」における道路の在り方や、今から20年後までに実現したい道路のさらなる付加価値創造についてのビジョンを掲げた。その中には、道路の価値を高めるさまざまなアイディアを盛り込んでいる。例えば5Gの大容量通信技術などでさらにテレワークの利便性が増し、人々が暮らしやすい郊外に居住すれば、都心まで通勤する必要がなくなるため、道路整備を都会から放射線状に広がる道(ハブ・アンド・スポーク)の形から多様な ODペア(出発地と到着地の組合せ)に対応したポイント・トゥ・ポイント型に移行し、人々が地方でより充実した生活を送れるような道路にしようという考えを打ち出している。また、道路にもっと楽しむ機能(旅行、散策、健康のためのウォーキングやランニングをはじめ、徒歩や自転車通勤しやすい道、気軽に休憩したりできるビュースポットやベンチ、オープンカフェ等を道路上につくることも目指していたり、最近多い災害に対して強い道路、すなわち、被災して通れなくなる道路でなく、むしろ救援するために使われる道路(道路に埋設したり隣接した電気設備や通信ケーブルが途絶えることなく被災地の支援に役立ち、救急車や災害支援の車がスムーズに通行できる道路、などの建設を目指している。構想の実現は2040年とのことだが、上述のような、安全、便利かつ環境アメニティの機能を備える道路が日本中にできれば、私たちの暮らしはさらに豊かなものとなることは間違いない。

   国土交通省が目指す、近未来の道路ビジョンは、実にSDGsの17目標のうち、11個の目標達成に向けた総合的な取り組みとなっていて、今後ますます道路は都市にとって大事なインフラとなっていくことだろう。道路がさらに人々の生活向上に貢献していけば、道路に対する親近感も湧き、いつかは町の小さな道路一つひとつにも素敵な名前がつく日が来るかもしれない。

参考サイト:

国土交通省「2040年道路の景色が変わる」

https://www.mlit.go.jp/road/vision/pdf/01.pdf

パンチョス萩原