協働 【SDGs 産業技術】

   「ロボット」という言葉が最初に使われたのは、今から100年ほど前の1921年、旧チェコスロバキアの劇作家 カレル・チャペックの 「R.U.R.(Rossum’s Universal Robots=ロッサム万能ロボット会社)」 という戯曲の中である。ロボットとは、チェコ語で「強制労働(robota)」とスロバキア語の「労働者(robotníkロボトニーク)」という言葉からの造語だ。複雑で奥の深い、この戯曲のストーリーを簡単に書くならば、未来のとある孤島で、生理学者のロッサム氏がバイオテクノロジーを駆使して、偶然「生きた原形質」を人工的に作り出すことに成功したため,ロボット製造工場を建て、人の生活に役立つためのロボットを作るのだが、やがて人間たちは優秀なロボットにすべてを任せて自堕落的に何もしない毎日を過ごすようになる。それら人間たちに対して怒りを覚えたロボットたちが反乱を起こして1人を残して人類を滅亡させるが、最後は男女一組のロボットの間に愛が芽生え、彼らが新しい人類の「アダム」と「イヴ」となっていく…というような感じである。ここで登場するロボットは私たちがイメージする機械的なロボットとは違っていて、アンドロイドのようなロボットである。日本でこの戯曲が1923年に翻訳された時、このロボットに使われた言葉は「人造人間」であった。

   物語ではなく、実際の産業用ロボットのあけぼのは、1954年に米国の技術者であり起業家でもあったジョージ・デボル氏が教示再生型の 「Programmed Article Transfer」 についての特許出願が最初と言われている。その後、デボル氏のアイディアをもとに1961年米国の技術者エンゲルバーガーが数名と「ユニメート」と呼ばれる産業用ロボットの実用機第一号を作った。このユニメートは,ジョイスティックなどにより操作し、その動作を記憶させて、それを何度でも反復実行するという点で大きな反響を呼び、今でもエンゲルバーガーは「産業ロボットの父」と呼ばれている。その後,日米欧で盛んにロボットの研究が行われ、「ロボティクス」「ロボット工学」という工学分野が形成された。現在のロボット研究は,ロボットの動作研究から、ロボット言語、ロボットの知能化、VR(ヴァーチャルリアリティ)、その他様々な分野にまで広がり、ロボット自体も腕のような形のものから、より人間に近い手の形のものまで様々な形状を有するようになってきた。

   産業用ロボットは、高速で正確な反復作業、また人が作業するには危険な状況などでも生産性が一定のため、現在では多くの工場で当たり前のように導入されているが、今年に入り、新型コロナウイルス禍で工場での感染リスクが問題となってからは、生産ラインで作業者のすぐ傍(かたわ)らで作業できるロボット、いわゆる「協働ロボット」の需要が高まっているそうだ。従来の産業ロボットとの違いは、「協働ロボット」は動作速度が遅く、センサーで人を感知して止まる機能も備えており、あくまでも「人間をサポート」するロボットである。

   国内最大手の産業ロボットメーカーであるファナックによると、2021年中に本社工場(山梨県忍野村)の産業ロボット生産量を3倍に増産するという。また、三菱電機や芝浦機械も、食品工の包装済みの製品を箱詰めする作業向けや家電工場でのネジ止め作業用の産業ロボット市場に参入する。産業ロボット市場のニーズは生産性の向上であるが、今年に入り、「3密」を回避するため、日用品や食品など従来は手作業だった生産現場にも導入が広がりつつある。。調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、世界市場は26年に20年比で8倍の8530億円に広がるとの見方もある(2020年9月6日 日本経済新聞)。

   協働ロボットのマーケットでは、現在、2005年にデンマークのオーデンセに設立されたベンチャー企業ユニバーサルロボット社が5割以上のシェアを占めている。世界最大のロボット市場である中国においても、今後、労働力不足を背景に需要が高まる見通しで開発競争が激化してくるであろう。

   SDGsの17目標中、9番目の「産業と技術革新の基盤をつくろう」という目標は、「強靭なインフラの整備」、「包摂的で持続可能な産業化の推進」、そして「技術革新の拡大を図る」ことを指している。産業用ロボット、AI技術、自動運転技術など多くの分野で日進月歩の中、特に日本では最近頻繁に発生する台風や歴史的な大雨などの自然災害もあり、万が一災害が起こっても復旧しやすい設備の研究や技術開発、実証実験が行われている。

   一方、開発途上国では生活に必要なライフラインのインフラも、産業化もまだまだ未整備となっている状態であり、先進国がサポートをして持続可能な産業になるように支援していく必要がある。先進国がさらに産業技術を発展させ、自国の生産性向上ばかりでなく、産業用ロボット技術をはじめ、ドローン技術、AI技術、自動運転制御技術などを使って開発途上国における砂漠での水源開発、地雷が埋まる地区での開拓、ジャングルでの電力・水道のパイプライン建設等を積極的に支援し、基礎インフラや産業を興すことを推し進めていければ、全世界で23億人にのぼる基本的な衛生施設を利用できていない人々や、安全な水を手に入れることができない8億人の人々の生活を大きく改善させることができる。そういう意味で、産業技術は先進国の経済発展や、人の作業を楽にしたり、人々がVRや音楽などの娯楽を楽しんだり、自動運転などの安全性を確保したり、というものを超えて、地球上に暮らすすべての人々の生活を良くしていくためにあるのだ。

   「人とロボット」の協働、「先進国と開発途上国」との協働―――今後、どちらもさらに発展していくことに期待したい。

 

参考文献・サイト

一般財団法人 日本玩具文化財団HP

岐阜大学 工学機械工学科知能機械コース 川﨑・毛利研究室HP

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「NEDOロボット白書」

日本ロボット工業会HP

SDGs ジャーナルHP

 

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)