人生100年 【SDGs 超高齢化】

   2017年9月11日、首相官邸の4階大会議室で、『ライフシフト』や『ワークシフト』などの著書でも知られるロンドン・ビジネス・スクール教授のリンダ・グラットン氏ら13名の有識者を招いて、第一回目の「人生100年時代構想会議」が開催された。議長は安倍総理、議長代理は茂木人づくり革命担当大臣(当時は経済財政再生担当大臣と兼務)、そして構成員には麻生副総理や菅内閣官房長官をはじめ、当時の文部科学大臣、女性活躍担当大臣、一億総活躍担当大臣、経済産業大臣など錚々(そうそう)たる顔ぶれであった。

   会議のテーマは、世界一の長寿国である日本において、超長寿社会の新しいロールモデルを構築するための取組について、また超長寿社会において、人々がどのように活力をもって時代を生き抜いていくか、そのための経済・社会システムはどうあるべきなのかを議論し、政府が今後4年間に実行していく政策のグランドデザインを検討することであった。この「人生100年時代構想会議」については首相官邸の政策会議HP上で、2018年6月までに9回にわたって開催された議事録と配布資料が掲載されている。

   会議の中では「リカレント教育の実現」というのがキーワードとして出ていた。リカレント(Recurrent)は、「再発」とか「回帰」とか言う意味だが、ほとんどの人々が義務教育または基礎教育を終えた後、就職や社会に出てしまえば、極端に勉強の機会が減っている現状の中で、生涯にわたって労働と教育を交互に行うという教育システムを国としても考えていこう、という発想である。言い換えれば、これまで「教育」→「仕事」→「引退」という3つのステージで括(くく)っていた人生を、「教育」―「探求」―「会社勤め」ー「組織にとらわれない雇用の在り方」―「仕事とさまざまな活動の組み合わせ」などの繰り返し→「引退」というマルチステージの人生にしましょう、ということだ。

   こうした社会的システムの構築により、超高齢化社会にあっても、シニアの人々も、生きがいを持ってと労働や社会活動を生涯つづけることができ、ひいては少子化による人口減少の中で労働人口の激減も防止していくメリットが生まれる。

   WHO(世界保健機関)では、「65歳以上」の人のことを「高齢者」と定義している。65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としている。しかしながら現実には今の65歳の方々は本当に若々しく見えるし、昔のような「老いぼれ」というイメージの欠片もない。雇用面では日本では2013年の改正高年齢者雇用安定法により、60歳の定年制度がある会社でも、希望すれば65歳まで働けるようになり、2025年には全企業に適用される見込みだ。来年2021年4月には、さらにこの法律が改正されて、企業が70歳まで雇用を継続する努力することや、定年制度を廃止し、生涯働けるような体制を整備することを盛り込むことが決定している。いずれ70歳定年になる日がくるかもしれないが、年金を受け取れる年齢もどんどん高くなっていくことになる。

   超高齢化者の課題は、こうした雇用安定だけではなく、人間が年を重ねることで必然的におこる肉体の衰えやさまざまな病気、心理的変化、生活環境な変化などがある。高齢化がマイナスのイメージで捉えられがちな傾向もあるが、一方でクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)の観点からのサクセスフル・エイジング、長寿時代の豊かな社会を実現するための研究も進んでおり、医学、心理学、生理学などの自然科学から経済学、社会学、社会福祉学、教育学、法学などの社会科学、ひいては理工学まで、幅広い分野を総合的学問体系とした「ジェロントロジー」が生まれた。これは老年学、加齢学とも言われるもので、日本は欧米に比べるとスタートが遅かったが、東京大学高齢社会総合研究機構や桜美林大学大学院老年学研究科では老年学専攻の博士前期課程と博士後期課程も設けられている。

   もともと「ジェロントロジー」は、発達心理学(人間の一生における心と体の成長やその発達の過程を研究する学問)が発展したものであるが、第2次世界大戦後から高齢化社会が進行した欧米先進諸国で、早くから生理的老化の原因解明や寿命をどこまで伸ばせるかといった老年医学や、高齢化が医療や福祉などの社会制度や経済にどのような影響を及ぼすかといった社会科学がテーマであった。日本でも高齢化の急速な進行に伴って、現在では大学や企業の間でジェロントロジーの学科や講座、研究機関を設置する動きがさかんになってきている。日本産業ジェロントロジー協会による産業分野に特化した活動であったり、ジェロントロジーコンサルティング会社による人事部門や経営者層向けセミナーやマネジメント研修などが台頭し始めた。今年6月にはシニア層向け人材派遣会社のキャリア(マザーズ上場)が東京大学と新たなシニア向けサービスに向けた共同研究を開始すると発表したとたんに株価が大幅に上がった。 

   いかなる人も老いは避けられない。一人ひとりが現在生きている時代をどのように元気で乗り切り、最後に「生き切った人生」と振り返りつつ終焉を迎えるか、何十年生きたか、ではなく、いかに人生を生きたかという「人生の質」が重要である。今日という日が自分の人生では一番若い日だ。何だってやってやる!という希望とチャレンジ精神で溢れる毎日を積み重ねていこう。

パンチョス萩原