神無月と和の精神 【SDGs 伝統】

   10月の和読みは「神無月(かんなづき)」である。全国津々浦々の八百万の神々のほとんどが、島根県出雲市の出雲大社へ会議に出かけてしまうため、こう呼ばれることになったらしいが、反対に出雲の国(島根県)ではたくさんの神様をお迎えするので、「神在月(かみありづき)」と呼ばれている。

   神々を迎えるために、夕刻から御神火が焚かれ、神々の先導役となる龍蛇神が海に向かって配置される。高張提灯(たかはりぢょうちん)が並び奏楽が奏でられる中、参拝者が続き、浜から出雲大社への「神迎の道」を延々と行列が続く。荘厳な神迎神事(かみむかえしんじ)の解説は、出雲観光ガイドのHPにあるのでそちらをご覧いただきたい。(https://www.izumo-kankou.gr.jp/6404

   コロナ禍の中、今年の出雲大社における神々の集まりがソーシャルディスタンスを保ちつつ行なわれるのか定かでないが、旧暦10月10日~18日(現在の暦では11月)に亘って開催される会議のアジェンダは、出雲大社が日本における縁結びの神々の総本山として、まずは誰と誰を結婚させようかなどの人の縁(えん)や人の命について、そのほか迎える年の天候、農作物や酒の出来など、多岐に亘るらしい。今年はぜひともコロナ収束についてもお話して頂けたらと思う。   

   全国から神々が出雲大社へ行かれる一方で、各地方に留守番をしている神々もおいでになる。

   七福神の中で唯一の日本古来の神様であり、商売繁盛、農業・漁業などの神様の「えびす様」は留守番役として残る。なので、この時期には留守番をしているえびす様にお参りしてご利益を願うという祭事の「えびす講」が各地のえびす様ゆかりの地で開催される。商売繁盛、大漁祈願、五穀豊穣など内容は各地でさまざまであるが、「えべっさん」として親しまれている関西では「福笹(ふくざさ)」という、竹の枝に縁起物を飾り付けたものを毎年買い替えるのが習わしとして有名である。

   東京の日本橋ではえびす講として400年もの歴史を持ち、いまや秋の風物詩ともなった「べったら市」が毎年10月19日と20日に開催されるが、残念ながら今年はコロナの影響で中止となってしまった。

   神社仏閣における神事や各地で開催される祭りは、伝統行事として日本の生活に溶け込み、多くの人々の心を癒しているのと同時に伝統技術や無形文化財としての芸術の継承、建築技術や現地の産業発展にも寄与している。昨今では神社などのSDGsへの取組も紹介されており、福島県耶麻郡猪苗代町の陸奥会津藩初代藩主・保科正之を祀(まつ)る「土津神社(はにつじんじゃ)」は、神社ならではのSDGsへの取組を紹介している(土津神社HP https://hanitsujinja.jp/sdgs/

   京都でも日本伝統文化や芸術にSDGsを取組んでいる例がある。私が一時期日本画を学ばせて頂いた京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)に昨年4月にSDGs推進室が設立されたことを大学の機関紙「瓜生通信」のHPから知った。SDGs推進室長は、京都府八幡市に位置し、2016年に本殿など10棟と附棟札(つけたりむなふだ)3枚が国宝に指定された石清水八幡宮の権宮司である田中朋清氏である。京都で芸術を学ぶ学生をはじめ、古来からの日本の伝統の再発見や、日本にある人生観や和の精神が国連のSDGs17目標における社会的問題の解決の一助になることを伝えている。

   1000年以上にわたり持続可能な発展を遂げてきた日本の神社やお寺の在り方は、宗教という枠を超えてSDGsの社会問題の解決で世界的な注目も受けている。食物の大切さを説く精進料理や人のこころとしての茶道、地域への教育や地球環境に優しい生活スタイルなど世界の人々が日本から学ぶものも多い。   

 

   ぜひ、この週末にお近くの神社仏閣へ訪れたり、日本の伝統行事に触れてみてはいかがだろうか。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

 

参照・出典

京都芸術大学 瓜生通信 一人ひとりが「SDGs」にどう取り組むか?―SDGs推進室 田中室長✕在学生 特別鼎談

https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/516