パーム油の光と影 【SDGs 貧困・人権・経済発展・生態系破壊ほか】

   これまでに60本ちかくのコラムを書いてきたが、その中でも今回は特に心を揺さぶられた。今日のテーマは、パーム油生産現場の現実についてである。

   パーム油(アブラヤシの実から採れる油)は、私たちの日常的な食料品や家庭用品の約50%に含まれている。主たる生産国はインドネシアとマレーシアで、この2国による供給量だけでも実に全世界の85%をカバーしている。

   しかしながら、パーム油を生産するために、無計画な農場拡張により豊かな熱帯森林が破壊され、スマトラゾウやオランウータンなどの希少な動物たちが絶滅寸前のリスクにさらされ、貧困国から奴隷状態で連れてこられた労働者を含め、350万人の労働者がほとんど賃金も払われない不平等な状態で酷使され、農場有害な農薬から身を守る安全性も確保されず、子供までが強制労働を強いられている。そうした自然破壊や人権侵害によって利益を搾取している悪徳生産者から日本の大企業を含む世界中の企業がパーム油を買うことで彼らがさらに栄え、日本のメガバンクを筆頭に多くの金融機関が彼らの森林伐採や農園拡大のために多額の支援を貸し付けている。頼みの綱であるインドネシアとマレーシアの両政府も国の経済発展をパーム油産業に依存しており、たとえ悪徳生産者による人身売買があろうと、熱帯雨林伐採があろうと、希少動物が絶滅しようと、それらを真剣に取り締まろうとしないばかりか、積極的な対策をとろうとしていない。実にSDGs17目標にある課題すべてに抵触する悲惨な現実がそこにある。しかもこのような地獄はもう20年以上も続いているのだ。

   熱帯雨林保護団体(Rainforest Action Network=RAN)が作成した動画があるので、ぜひとも見て頂きたい。

「The Human Cost of Conflict Palm Oil (パーム油による人的損失)」

   RANは、現地で調査を行ない、悪徳業者らによって秘密裡に行われている奴隷を使った農園の実態や、それらの業者からパーム油を買っている企業名、それらの業者に金を貸している銀行名など、詳細なレポートを公表している。私たち日本人は、あまりにも現実を知らされずに、アブラヤシ農園で働く多くの貧困国の強制労働や森林伐採により生態系が破壊されることで滅んでいく動植物たちの犠牲のおかげで、日常的にカップラーメン、ポテトチップスなどを食べ、キッチン用洗剤、ボディソープやシャンプーなどを使っているのである。

   しかしながら、希望もないわけではない。日本では、Kaoなどのキッチン・トイレ製品の企業を中心に、「持続可能なパーム油の調達への取り組み」が始まっている。確かに先進国の中では遅れているものの、近年、ようやく流通小売企業へと取り組みが広がり、徐々に日清などの食品業界へも波及してきたところだ。

   熱帯雨林を破壊せず、現代奴隷を使わずにパーム油を生産した農場からだけ購入する企業も増えてきており、持続可能なパーム油の生産・利用のサイクルが芽生えようとしている。それらの農場で作られた製品を識別するために、国際的な認証制度の「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」による認定マークが商品につけられるようになってきた。最近のカップヌードルにも緑色のヤシをイメージさせるマークがついているものがある。最低でもこれらのマークがあるものを購入すれば、知識不足からアブラヤシ農場の強制労働者や自然破壊の担い手になるリスクは起きない。

   一刻も早い日本企業の購入ルート変更と、日本のメガバンクによる貸し付け抑制を願うばかりである。

   尚、世界の現代奴隷の実態については、8月27日付コラムの「Delta 8.7」の中で書いているので、そちらもお読み頂ければ幸いである。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)