日本の比較優位を考える 【SDGs 経済成長戦略】

   フランスと言えばワインとチーズ、スイスと言えば時計、アメリカと言えば牛肉や大豆など、その国が主力として世界中に輸出する食品や製品がある。日本は自動車や電子部品などが強い。

   どの国もすべてのものを生産し国民に供給できればよいが、「人・モノ・金」にも限界があり、それは叶わない。そこで、その国が一番得意なものを集中して生産・輸出し、それ以外のものを他国に生産を任せて輸入をする方がはるかに優位かつ効率的であり、経済的にも豊かになれる。こうした現象を「比較優位」という。

   「比較優位(comparative advantage)」は、イギリスの経済学者デヴィッド・リカード(1772-1823)が提唱した概念であるが、その国が優位に立てる生産を行なえる労働力、設備などを準備できる経済力、天然資源量などで製品や食品が選択されてきた。日本が自動車や最先端技術を駆使した電子部品などに強い背景には、天然資源や農業などが他国と比較して少ないということもあり、日本が世界の中で生き残っていくために「人」というリソースが一番活躍しているのである。アラブ諸国のように石油が豊富な国であったら、日本は全く別の現在を迎えていたに違いない。

   いま、この伝統的な国際貿易論上の比較優位が大きく変わりつつある。

   現代は第4次産業革命の時代と言われている(内閣府)。インターネットやコンピュータ技術の発展に伴い、IoTやビッグデータ、AI技術など、その国が保有する「人・モノ・金」に囚われない新たなビジネスが次々と生まれ、「超スマート社会」の実現に向けた付加価値の高いビジネスが起きている。3Dプリンタの技術革新と低コスト化などで金型技術に乏しい国々も知恵を働かせ、多くのビジネスチャンスを生み出している。日本は電子部品やコンピュータ分野などでは最先端を誇っていたが、デジタルを利用した行政サービスや電子マネーなどは世界に後れを取っており、99%の行政サービスを電子化し、「e-Estonia」と呼ばれるエストニアなどに大きく溝を開けられている。つい先週も東証のシステムが不具合を起こし、3兆円に及ぶ株取引がまる一日出来ない事態に陥った。

   一方、生産国における「環境汚染問題」などは半世紀前から各国の比較優位を決める大きな要因となってきたが、ここ数年では別のフェーズに入った側面がある。SDGsやESGの取り組みによって、人権蹂躙や自然破壊が行われている産業構造となっていれば取引は控えられ、現地の産業を守るフェアトレードや地球環境に負荷をかけない生産に対する認証などの制度化が比較優位の再定義をもたらしている。

   今後もこの比較優位におけるパラダイムシフトはさらに加速し、高齢化による労働人口のシフト、自律ロボットやスマホ社会の取引形態の変化等によって、産業構造が大きく変わっていくにちがいない。天然資源に依存できない日本においては、5年先、10年先を見据えた比較優位性の獲得が必要となることは間違いない。

 

内閣府 https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html

 

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)