「絶対に緩まぬ」熱い想い 【SDGs 技術革新】

   ギターのコード進行の基本にドミナント・モーションというのがあって(例えばG7→C、A7→D、E7→Amなどの展開)、80年代のハードロッカー達はこの進行でどのような熱いアドリブ演奏を弾いていたのかと「ハードロック」というキーワードで検索していたところ、「ハードロック工業株式会社」という会社がヒットした。いかなるロックな会社か非常に興味をそそられたのでサイトを拝見した。

   ハードロック工業株式会社(本社大阪府東大阪市 資本金1000万円 若林雅彦社長)は、英語表記では「Hard Rock」ではなく「Hard Lock」であり、従業員90名のボルトやナットをつくっている下町の工場である。「絶対に緩まないナット(商標名HLN)」を1974年の創業以来作り続けている会社だ。

   16両編成の新幹線には2万ものボルトが使われているという。時速280キロで走行中にそのボルト一つでも緩んだら重大な事故に繋がるが、ハードロック工業のナットは絶対に緩まない。その原理は、内側を偏芯加工した凸ナットと真円加工を施した凹ナットの2種類を組み合わせることにより、「クサビ」のような強力なロック効果を力学的に発生させているからだという。この特許は、現在社長を退き会長となった若林克彦氏が神社の鳥居を見て思いつき、半世紀に渡って振動に強いナットの開発を研究し続けている。日本の新幹線すべてに彼の発明したナットが採用され、これまで一度もナットが緩んだことによる重大事故は発生していない。

   この「絶対に緩まないナット」の原理に関する論文は日本機械学会や国際会議などの場で公表されており、「ハードロックナット(HLN)」は世界から注目されている。イギリスでは、2002年Potters Bar駅で起きた鉄道事故の原因を検証した番組がBBC Channel1で放映され、HLNの有効性が紹介された(Potters Bar – The Truth 2006年12月14日)。その後すべての鉄道車両にハードロック工業のHLNが採用されている。そのほか、ポーランド、オーストラリア、中国、台湾、韓国の鉄道でも採用されている。

   鉄道車両以外の分野でも、HLNを採用することによる安全性の高まり、メンテナンスフリーという省力化・省人化が高く評価されて、削岩機、杭打機、電鉄会社のレール、架線、高速道路、発電所、製鉄所、橋梁、鉄塔、住宅、高層ビルなどの耐震性を重視した多岐に渡る構造体に使用が拡大しており、最近ではアメリカ航空宇宙局(NASA)の発射台や、東京スカイツリー、スポーツ界では日本代表のボブスレーのソリにも採用されている。

   SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、これから経済発展していく国々のインフラ整備や技術革新を進めていくためにあるが、今後ますますハードロック工業の絶対に緩まないナットはそうした国々でも活躍し続け、人々の暮らしに大いに役立っていくだろう。

   ハードロック工業の経営理念に「アイデアの開発を通じ人と企業と産業社会の発展に貢献する」がある。また、「この社会は我が社の為の道場であり、見るもの触れるもの全て我が師である」という製品開発に対する「絶対に緩まぬ想い」がある。

   80年代のハードロッカー達のアドリブ演奏以上に熱いハードロック工業の若林氏とその従業員らの想いとたゆまぬ努力のおかげで私たちの生活が支えられてきたといっても過言ではない。彼らの素晴らしい製品は、今日も目立たないところで大活躍している。

 

参考・引用サイト:

ハードロック工業 HP https://www.hardlock.co.jp/

日本弁理士会 関西会 HP http://www.kjpaa.jp/aboutus/case/hardlock

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)