渡り鳥に想う 【SDGs 陸の豊かさ 生態系】

   先週末からの4連休は各地で人出が多く、主要な高速道路でも久しぶりに大渋滞のニュースが流れていた。私も神奈川と千葉の車の移動で都心を抜けて往復したが、何箇所かで渋滞にはまった。休憩に千葉県内の自然に囲まれた野呂パーキングエリアに立ち寄った。春から夏にかけては、主にトイレ棟の軒下の至るところにツバメが巣をつくって可愛いヒナたちが顔を覗かせていたが、連休最終日に天井を見上げると、どの巣も既に空っぽであった。今頃は、越冬のために日本から遠く2000キロ以上離れた東南アジアを目指して飛んでいることだろう。そして、来年の初夏の季節にまた同じ場所に戻ってくる。

   ツバメのような渡り鳥は、その年の季節の進み具合によって飛来する時期が変わる。渡り鳥は、大別すると夏鳥と冬鳥があり、代表的な夏鳥のツバメ、カッコウ、キビタキ、オオルリなどは、日本が冬の間は東南アジアで過ごし、初夏には日本に飛来して繁殖する。反対に、代表的な冬鳥のカモ、ハクチョウ、ガンなどは、シベリアなどで夏を過ごして繁殖した後、秋になると日本にやってきて冬を越す。ちょうどこれからの季節が各地でこれらの冬鳥の便りが聞かれ始める。環境省では、全国39カ所の地点で毎月3回、月の初旬、中旬、月末近くに渡り鳥の飛来状況の調査を行ってHP上で公開している。

   考えてみれば、何故、渡り鳥は危険を冒しつつも遠い地へ移動するのか、何故、休まずに飛び続けられるのか、何故、道に迷わず正確に目的地に到着できるのか…、などの疑問が湧く。さまざまな渡り鳥の関連サイトや科学系の雑誌などの記載を見てみると、鳥に備わった偉大な能力と習性に驚かされる。

   渡り鳥が長距離を飛行する目的は、簡単に言うと天敵がいない場所で繁殖したり、なるべく競争が少ない環境で食べ物が豊富な場所を選んだりすることが理由だ。何故、長時間飛べるのかは、鳥は半球睡眠(はんきゅうすいみん)と呼ばれる能力が備わっているため、体力の消耗を極力抑えられることが理由である。平たく言うと、半分寝ながら(片方ずつ脳を休ませながら)飛んでいるのだ。渡り鳥の中にはキョクアジサシのように北極圏から南極圏まで移動している鳥もいるが、直線距離でも2万キロあるのに、大気中の風を効率的に利用するために実際の飛行は片道8万キロに及ぶというから驚きだ。

   また、正確に長距離を飛ぶことができるのは、太陽や星座の位置、地球の磁場を感知して方角を計測したりしている。そして、目的地にある程度近づいたら、地形の記憶を頼りに飛び、最後は目で確認して目的地へたどりついているらしい。飛行距離は鳥の大きさによって限界があるので、どの季節にどの場所で過ごすのかという戦略は鳥ごとに違っていて、一番リスクの少ない選択をしている(環境省、日本野鳥の会、Honda Kidsほかを参照)。

   日本は、かような渡り鳥の生態を保護するための取り組みとして、特に絶滅のおそれのある渡り鳥の類を相互に通報し、その生息環境の保護に力を入れている。現在では「二国間渡り鳥等保護条約または協定」を、米国、ロシア、オーストラリア及び中国とそれぞれ締結している。

   渡り鳥に限らず、水鳥の生息地を保護する働きは、1971年にイランのラムサールで開催の国際会議で締結された「ラムサール条約(正式名称は、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)」によって各国における環境保護活動が続けられている。ちなみにラムサール条約で保護されている湿地の数は2018年地点で世界では1832箇所、日本では52箇所である。水鳥が食物連鎖の頂点である湿地の多様な生態系を守ることを目的として締結された本条約は、世界的に破壊が進む熱帯雨林やサンゴ礁の保護と合わせて国々のパートナーシップにより尊重され、進められているのである。

   過ごすのに最適な場所を記憶していて、毎年同じ場所を目指してやってくる渡り鳥たちにとって、いま、森林破壊や都市化などが生態系を脅かすことになっている。帰る場所がなくなれば繁殖することもできないし、鳥を頂点とした食物連鎖も大きく崩れてしまう。経済的な理由から貧困国などでは、商業発展を第一とした自然との共存をないがしろにした無計画な農園経営などによって渡り鳥が生息できなくなる事例も多くある。例をあげれば、南米のコーヒー農園の拡大による森林伐採がある。

   このような状況を打破するため、“米国立スミソニアン動物園保全生物学研究所のスミソニアン渡り鳥センターは1999年から、「バードフレンドリー認証」制度を開始し、持続可能な森林農業(アグロフォレストリー)の観点から、木陰栽培コーヒーを支援している。同認証を取得するには2つの条件があり、一つは有機栽培。もう一つが、自然林に近い植生でのコーヒー栽培。コーヒーが育成されている地域で、木陰を作り出している他の樹木の樹高や樹種が審査される“(原文ママ、Sustainable Japan 2017年5月4日 コーヒー栽培と渡り鳥の生態系保護。バードフレンドリー認証の意義より引用) 。

   SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」には、多様な陸の生物における生態系保護に加えて、それらの生物が暮らす環境の整備も含まれている。渡り鳥は数千キロもの長旅を終えて毎年同じ場所に戻ってくる。来年もそしてそれから先も、同じように渡ってくる鳥たちをいつまでも迎えられる環境を維持していきたい。

 

パンチョス萩原 (Soi コラムライター)