繋げる側と繋がる側の責任 【SDGs 倫理】

   Facebook、Twitter、LINE、Instagram、Pinterest、YouTube、Linkedin、mixi、ニコニコ動画、WhatsApp、WeChat、カカオトーク、Snapchat、TikTok…。今やスマホを持っている人ならSNS(ソーシャルネットワークサービス)を利用していない人はほとんどいない。総務省の2016年の調査では、スマホを持っている10代、20代、30代の人々は、それぞれ81.4%、97.7%、92.1%の人々が何らかのSNSを利用している(総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」より)。2020年のウィズコロナにおけるニューノーマルな生活では、さらにSNSを利用者は増えているであろう。

   インターネットを介して人間関係を構築するネットワーク媒体は、iPhoneが2008年の夏に発売される前はパソコンが主流であった。人々はブログや電子掲示板などに自分に意見や共有したい情報を書き込んでいた。SNSでは「情報の発信・共有」に加えて「拡散」といった機能が広く使われるようになった。また発信するメッセージも短文で、「~に行ってきました。」「~を食べました!」「~ってすごいなぁ」と報告や感想の内容が増えた。スマホの性能が向上するに伴い、日常的な写真や動画をアップして、人気が上がると「いいね!」の数が増え、ものすごい注目や支持を集める、いわば「バズる」状態になる。

   SNS関連でも徐々に「新しい日本語」が生まれており、私も「映(ば)える」くらいは知っているが、「リプ(リプライ:返信するの意)」、「フォロバ(フォローバック:フォローされたアカウントを逆にフォローするの意)」、「リムる(リムーブ:フォローしていたアカウントを解除するの意)」、「ふぁぼりつ(いいね!を押すことと、リツイートを同時に行なうこと)」、「FF外から失礼します(フォローでもフォロワーでもない立場で意見をいうこと」などは、聞いてもよく意味がわからない。また、ユーチューバー、インスタグラマー、インフルエンサーなどの新しい職業もSNSで生まれた。今やSNSは生活の一部となっている。

   使い方によっては、とても便利で有益なSNSであるが、対応を誤ると人生を狂わすほどのとんでもないことが起きることもある。ささいな一言をネット上につぶやいたことで攻撃的なネット利用者から誹謗中傷を浴びせられて、いわゆるネット炎上の状態になったり、一旦ターゲットにつるし上げられれば、寄ってたかって侮辱的なデマを流されたり、プライベートな生活がネット上にさらされたりする。2015年に実際にジャスティン・サッコさんに起きた、ネット上の行き過ぎた炎上は有名で、英米のジャーナリスト兼ドキュメンタリー映画作家のジョン・ロンソン氏が「ネット炎上が起きるとき (原題:When online shaming goes too far)」というテーマでTed Talk に登壇した時のスピーチを下記のリンクからぜひ一度聞いていただき、ネット炎上の恐ろしさを疑似体験して頂きたい。(https://www.ted.com/talks/jon_ronson_when_online_shaming_goes_too_far/transcript?language=ja#t-897636

   上記のような、非難すべきターゲットを炙(あぶ)り出して、過剰な個人情報の特定・暴露や、誹謗中傷を目的とした大量の書き込みなどの行為をする人々は、ネット人口の0.5%に過ぎないという研究結果が出ている(田中辰雄ほか ネット炎上の研究 勁草書房 2016)。しかしながら、SNSの匿名性による罪悪感の欠如によって、「ネットいじめ」や「オンラインハラスメント」などは後を絶たず、最悪の場合自殺者を生んでしまうなど深刻な社会問題となっていることは耳に新しいことではない。

   こうした悲劇をなくしていくためには、まずはSNS利用者が平和的にネット上でのルールを守り、本来秘密にすべき事項を含んでいないか、現実世界でも非難を浴びるような内容でないかなど、毎回立ち止まって考える慎重さが必要であり、それによって発信前に書き込む内容を十分注意しつつ、自由に言論を行なっていくことしかない。総務庁のHPでも情報発信にくれぐれも気を付けるよう警鐘が鳴らされている(「国民のための情報セキュリティサイト」 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/security/enduser/attention/04.html

   SNSで怖いのはネット炎上だけではない。実際に私たちがSNSで発信した内容は、今やさまざまなものに利用されているのだ。

   まず第一に、企業の人事部門の採用担当は、面接に訪れる就活者がSNSでどのような発信や交友関係を持っているのかをチェックしているらしい。人事担当者は、会社の不利益となる人物は採用したくないので、履歴書やエントリーシートに合わせて、SNSの投稿内容を確認し、採用のミスマッチを防いでいるという。また、アメリカでは、入国者に対してSNSのアカウント情報提出を義務付けており、投稿内容から、国家の治安や安全に危険を与える人物か判断されているらしい(株式会社HRRTの関連記事より引用)。

   第二に、SNSを運営している会社が、利用者に無断で情報を収集し、履歴をすべてチェックしている。 米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は11日、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が、米グーグルの基本ソフト(OS)搭載のスマートフォンの識別番号を収集し、利用者の情報を追跡できるようにしていたと報じた(産経新聞 2020年8月12日)。 

   最後に、SNSに発信された情報をAIが分析し、本人の知能指数(IQ)や精神状態、生活習慣を見抜く実験が現実に総務省傘下の情報通信研究機構で行なわれており、無事に実験に成功し、米科学誌に論文を公表した(日本経済新聞 朝刊2020年8月30日)。例えばツイッターにつぶやいた内容から、発信者の「開放性」「誠実性」「外向性」「協調性」「神経症傾向」を分析するという。技術力を見せつけたい研究者らがSNSの解析を進めている。

   SNSはSDGsの課題である世界の貧困、ジェンダー不平等、気候変動、自然破壊などの現状や解決に向けた人々の取り組みなどを伝達する手段ではどんなメディアを叶わないほどの有益性を持つ。したがい、SNSユーザー側が平和的利用者として持つべき倫理観と、SNSを運営する側がプライバシー保護という観点からユーザーに対して持つ倫理観のなくしては、SNSが明日にも世界を滅ぼしかねないリスクを孕(はら)んでいることを忘れてはならない。

パンチョス萩原