小さな島々の大きな課題と、大国の小さな意識 【SDGs 人と国の不平等】

   SDGsの持続可能な17の開発目標とその169のターゲットをすべて読まれていらっしゃる方も多いだろう。私はSoiでコラムを毎日書かせて頂いている関係から、これでもよく目を通す方だと勝手に自負しているのだが、たった一箇所、10番目の目標「人と国の不平等をなくそう」の10.bに出てくる漢字がどうしても読めなかった。「小島嶼開発途上国」の「嶼」という漢字である。外務省のHPで調べてもフリガナがなく困った。MBAなどの論文で引用することはご法度だが、ウィキペディアはこんな時に大いに役に立つことが多い。今回もそうだ。

   小島嶼開発途上国は“しょうとうしょかいはつとじょうこく”と読む。嶼とは「小さな島」という意味らしい。小島嶼開発途上国(以後SIDS=Small Island Developing States)のメンバーシップに明確な定義は存在しないらしいが、現在、外務省のHPで国連事務局が公表しているSIDS加盟国リストとして公開されているのは次の38か国である:

アジアでは、シンガポール、バーレーン、東ティモール、モルディブ の4か国

オセアニアでは、キリバス、サモア、ソロモン諸島、ツバル、トンガ、ナウル、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦 の12か国

西インド諸島では、アンティグア・バーブーダ、キューバ、グレナダ、ジャマイカ、セントクリストファー・ネイビス、セントビンセント、セントルシア、ドミニカ国、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴ、ハイチ、バハマ、バルバドス、ベリーズ の14か国

南アメリカでは、ガイアナ、スリナム の2か国

アフリカでは、カーボヴェルデ、ギニアビサウ、コモロ、サントメ・プリンシペ、セーシェル、モーリシャス の6か国

   上記38か国は、小さな島で国土が構成されている開発途上国である。正直に言って、シンガポールは日本からのODAはとっくに終了しているし近代国家として発展していることからこのリストにあるのはどうかと素直に思う。あと、西インド諸島、南アメリカ、アフリカのSIDSのほとんどの国名を私は知らなかったし、オセアニアの国々もあやしい。テレビニュースで以前、南太平洋の人口1万人の島国ツバルで海面上昇が原因で、国全体が水没の危機があることを伝えていたことでツバルの国名を知っていたくらいである。皆様はいくつご承知であっただろうか? ちなみにドミニカ国とドミニカ共和国はミス印字ではなく別々の国である。

   SIDSの問題は、地球温暖化による海面上昇が引き起こす国土消失の危機だけでなく、島国固有の問題(少人口,遠隔性,自然災害等)による脆弱性のために持続可能な開発が困難なことである。人口の約30%が海抜5メートル未満の地域に住み、時には島の規模を上回る暴風雨に見舞われ、気候変動は一部の国の存続までも脅かしている。また、これらSIDSの国々における主たる産業は、農業や漁業、観光業などに限られており、国際市場からも遠く離れているため、燃料、通信費、物流なども高い。都市部では人口が増加し、資源消費の拡大や衛生・健康状態の悪化をもたらしている。多くのSIDSは暴風雨や海面上昇の早期警報システムや、気候適応計画等の取組がすでに実施されてきており、再生可能エネルギーの利用も進みつつある。しかしながら、国際社会から地理的にも隔たっているために依然として新技術の導入が遅れている。(出典:国連環境計画(UNEP)、小島嶼開発途上国(SIDS)の持続可能な開発に向けた展望を示す「地球環境概況」(SIDS版))

   このUNEPの報告書「地球環境概況」では、「グリーン経済」なる言葉が出てくるが、定義は「自然界からの資源や生態系から得られる便益を適切に保全・活用しつつ、経済成長と環境を両立することで、人類の福祉を改善しながら、持続可能な成長を推進する経済システム」だそうだ。グローバリゼーションと地球規模の環境問題が進行し、貧困と格差が存在する国際経済の下で、健全な生態系と環境を現在・将来世代に継承するために環境とグリーン経済を統合することの重要性を強調している。

   UNEPによれば、グリーン経済の特徴は、(1)環境と経済の統合、(2)健全な生態系と環境を現在と将来の世代へ継承、(3)エネルギー・資源集約度削減、汚染削減、再生可能エネルギー・自然資源などのグリーン投資分野への重点的投資を通じ、環境保全と同時に雇用確保と経済発展を図ること、などがあげられている。しかしながら、2020年に入ってからはコロナ禍もあって、支援が難しくなった局面もあり、また、今月初旬に発生したモーリシャス沖の重油流出などは、さらに新たな問題となってしまった。報告書ではSIDSの持続可能な開発を支える柱として、多様な「ブルーグリーン経済」(海洋国のグリーン経済)の構築、先進技術の利用、島の文化重視、自然との再共生、の4つについて解説し、持続可能な政策枠組の重要項目を提示してはいるが、計画通りに進めるかは現在のところ状況を見極めつついくしかないのが本当のところだろうと思う。

   美しい島々は、先進国からすれば、長期バカンスをとってのんびりと青い空と透明感のあるエメラルドグリーン色の海を満喫する究極の楽園であろうが、これらSIDSの国々は必死に気候変動リスクや地域経済と向き合っているのだ。コロナ禍のために観光産業が落ち込んでおり、海洋プラスチックなどのごみ問題、海洋の酸性化問題、海上警備の問題と課題は山積みだ。だが、多くの問題は先進国がごみを大量に海上放棄したり、CO2を排出し続けたり、経済を支援するどころか労働力を搾取したり、海のなわばりを主張しあったりすることから生じていると思う。

   まずは先進国の一人ひとりが暮らしているその地域で環境問題に取り組み、巡り巡って最後に小さな島々に暮らす人々に決して被害がもたらされないように努力していくことが大切だ。

パンチョス萩原